[戦闘] : 血に染まるライ麦
「あの女、"ファミリー"から盗みを働くとはいい度胸してやがる。」
リーダーらしき男が走りながら他の仲間に語りかけた。
「俺たちの尾行に気付いたのは意外だったな。逃げ足も並みの盗賊じゃない。」
短弓を持った男が答えた。
「・・・クライス商会の人間じゃねぇのか?」
甲冑を着込んだ男も続く。
「ふん、知るか。商会も否定するだろうよ。存分に犯してから殺してやる。」
「お前も好きだな。・・・おい、捉えたぞ。」
その先には必死に走るクレアの姿があった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
長い距離を走り続け、息は完全に上がっている。木々の向こうから光が漏れていて、森が開けた先には一面黄金色のライ麦畑が広がっていた。追跡者から逃げたい一心で、クレアは風に揺れる光の中へと飛び出した。
「バカめ。おい、狙え。」
クレアとは違い息の整った男たちは、ライ麦畑には入らず、短弓を持った男が矢をつがえ、素早く放った。
ヒュン
矢はライ麦を突き抜けながら飛び、クレアの逃げる背中を襲った。
「あっ」
背中に矢を受け、クレアはライ麦畑の中へと倒れた。
「お見事。」
リーダー格の男と甲冑の男がクレアに近づく。
「お、まだ生きてるみたいだな。」
「時間の問題だろ。顔でも拝んでやろうぜ。」
「また顔のパーツ全部切り取って持ち帰るのは止めてくれよ、悪趣味だぜ。」
「へへ、最後のお楽しみよ。おい、ベイル!お前も来い!もう弓の出番は無さそうだぜ!」
男が短弓を持った男を呼んだが、返事は無かった。
「ベイル・・・?」
ベイルと呼ばれた男は胸と頭に投げナイフを受けて絶命していた。頭上から奇襲を受けたのだ。
「何事ォ!?敵襲かァ!?」
男が叫ぶと同時に、木の上から何かが跳躍した。その黒い塊は武装した男たちと倒れたクレアの間に着地する。黄金色のライ麦が円形になぎ倒され、キラキラと舞った。
着地した姿勢から、黒い塊はゆっくりと体勢を起こし、倒れている少女に話しかける。
「生きてるか、クレア。」
「ごめん・・・なさい・・・私・・・」
「元気そうだな、もう喋るな。」
そう言ってルークは武装した男たちを睨んだ。
「ヒーロー登場ってわけか?てめぇがベイルを殺ったな?人殺しとコソ泥、俺がまとめて裁いてやるぜ!」
リーダー格の男が剣を抜きながら言うと、ルークが答えた。
「人殺しか。ちゃんと三人分を計算に入れてるだろうな?」
「ぬかせ!ガキ1人に何ができる!」
リーダー格の男が呪文の詠唱を開始する。意外にも男は魔術師タイプだった!詠唱を投げナイフで牽制しようとするが、絶妙な間合いに位置取っていた甲冑の男が槍による突きを繰り出す。ステップで避けてから、愛用のスプリッターを取り出したが、高速で繰り出される槍撃は躱すのでやっとだ。
「行け、ゴイル!」
リーダー格の男はいつの間にか詠唱を終え、まっすぐに突き出した剣の先には、黒い"もや"が現れていた。"もや"は次第に輪郭をはっきりさせ、漆黒の猛禽類を形作る。(注1)
「ギュュュュア!」
全長2ヤードはある巨大な鷲が剣の先から飛び立った。鷲は一瞬で上空に舞い上がったと思うと、急降下するようにこちらに向かってきた!
甲冑の男から一歩下がって鷲の攻撃を防御する態勢に入る。スプリッターを構えるが、予測した進路より高度が高い!
ザシュ!
漆黒の鷲はルークの頭上スレスレを飛び、鋭い爪が額を切り裂いた。血が吹き出す。鋭い痛みを感じたが、決して顔には出さない。痛みに耐える訓練をジェンキンスから受けていた。
「ハハハ、そいつは人間の顔を啄ばむのが好きでなァ!ツレの可愛い顔をぐちやぐちゃにされないよう気を付けな!」
しまった!奴の狙いはルークではなくクレアだ!鷲が後方で倒れているクレアに向かって飛ぶ。さらに、ルークが鷲に気を取られているうち、甲冑の男がルークの心臓を狙った槍撃を繰り出していた。
「余所見が命取りだッ!少年!」
駄目だ、避けられない・・・!
(注1): 非実体召喚に分類される術式。召喚の維持に比較的大きな魔力を要する。ちなみに男の召喚に剣は全く必要なく、ゴイルというのも勝手に名付けて呼んでいるだけである。




