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Infection-【抗】  作者: Scott
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第8話 謎

 突然ですが補足です。


~ゾンビについて~

 未知の感染体(後述)に感染し、理性を壊された人間のなれ果て。

 腐った死体のような外見は過度の新陳代謝に表皮細胞が耐えきれなくなった結果で死んではいない。

 そのため生命力が高く、倒すには頭や心臓を攻撃しなければならない。

 しかしこれには莫大なエネルギーを消費するため、彼らは常に強い空腹感を抱えている。

 そして唯一の行動理由を満たすために肉を求めてさまよい続ける。

 知能は低く視力も弱いために主な知覚器官は耳。動きも緩慢だが、人間としてのリミッターが外れているため、筋力は意外とある。


 要はだれもがよく知るあのゾンビですね。……その設定を堂々とパクってます。


 さすがにヤバいかな……(汗)




 

 校舎に向かって歩きながら、俺は事の経緯を大まかに聞いていた。



 護によると、門で30分余り待っていた時だという。そこに負傷した佐々木さんが同じく血まみれの八木さんを抱えてたどり着いたそうだ。


 しかし2人を中に入れようと門を開いた直後に八木さんがゾンビ化し、佐々木さんを壁に叩きつけた。

 慌てて護が間にはいったのだが、タイミングが悪く不利な体勢で襲われたようだった。


 予想以上のゾンビの膂力にあのときばかりは死を覚悟したらしい。


 因みに……他の囮メンバーは全滅したとのことだった。


 俺はベルトに挟んだ金槌の重みが急に増えた気がして、ずり落ちないようにバックルを締め直した。


 八木さんの血を吸った金属の塊は、物理的ではない何かで、確実に重くなっていた。


 ある種の踏ん切りを付けたとはいえ、やはりあの出来事を簡単に忘れることは出来ないようだ。


 存外まだ、良心というか、良識が残っていることに自分でも少し驚いた。


 校舎の廊下を並んで歩きながら、俺も彼にグランドでの出来事を語る。ヤクザ者らしき角田の話題になると、彼は舌打ちした。


「その角田(かくた)ってオッサン最悪だな」


 その後も俺が一通り話すと、先ほどのシリアス口調はどこへやら、というより出会って間もないのでどれが平時の彼かは不明だが、気さくな護に戻っていた。


 少し、無理をしているのかもしれないけどね。


「しっかし菜月なつきさんはすげーよな~。美人で優しくて、賢いし、おまけに度胸もあるなんてよ……」

 そこで彼は窓の外を見つめる。その遠い目は国家を憂う王のようでもあり、思春期の青年のようでもあった。俺に一つの考えが浮かぶ。


 ……もしや、惚れた?


「おーい、護…?」

 俺の問いかけに彼は我に返って焦りだす。


「……あ。んんっ。と、とにかく、ここは安全なんだろ。一安心だな、あー俺も腹が減ったぜ!」


 そう言って彼は自分の食糧を口に詰め込み水で流しこんでいた。

 そして、派手にむせた。


 ……護。

 バレバレの反応に彼が年上だということも、非常時だということも忘れて俺は思わず口角が上がってしまう。


「な、なんだよ、悪いか?」

 そんな俺の態度に顔を赤らめる彼に対して、別に、と返すと、俺は多目的室のドアを開けた。


「あ、おかえりなさ、……ってどうしたのそれ!?」

 開けるなり悲鳴が聞こえて、逆にこちらが驚かされた。しかし皆が指さす俺の、服にしみ込んだ血痕を見て納得する。


 ああ、コレか……。


 すぐに菜月さんが医療道具を抱えて飛んでくる。俺は返り血だから大丈夫だと言ってから、気乗りしないものの、こうなった経緯を話した。


「そんな、八木さんが?」

「他のみなさんも」

「……でも、佐々木さんやあなた達が無事で良かったわ」


 八木さん達の訃報(ふほう)は公民館メンバーを大いに悲しませたが、誰一人、俺の行為を責める者はいなかった。

 むしろ俺たちが無事だったことを素直に喜んでくれた。また抑えたはずの涙が出そうで俺は慌ててそっぽを向く。


 今日の俺は情緒不安定だな。いや、状況が状況だけに仕方無いけど。


 それと今回も佐々木さんは噛まれることはなかったそうだ。ただし命に別条はないものの、過度の出血で衰弱しており、今は保健室で安静にしていると菜月さんは言った。


 そんな様子を遠巻きに学生たちは眺めていた。





「ママ、おしっこ…」

 (しばら)くして幼い女の子が母親に訴える。


「お外へ出るまで我慢しなさいよ」

 母親がそう言って、娘と共に部屋を出て階段側へ曲がろうとすると、ドア付近にいた女子生徒が親子に告げた。

「トイレは廊下を右に曲がった突き当りですよ」


「トイレ使えるんですか?水道水は大丈夫なんですか!?」

 当然、母親が驚いて尋ねるが、彼女はいたって普通にええ、と返し、逆にどうかしたのか、と質問した。


 これには流石に公民館メンバーが騒然となった。


「どうもなにも……水が全ての元凶だろ? 飲んだら最後、ゾンビになっちまう」

 話を聞いていた護が興奮気味にそう言うと、彼女はおろか部屋にいた生徒全員の顔が凍りつく。


「嘘だろ、俺達……水道の水、普通に飲んじまったぞ!?」

 生徒の一人が青ざめて狼狽する。


「いつ、飲んだの!?」

 菜月さんが鋭く声を張り上げる。


「あ、あんた達が来るずっとまえだよ。喉、渇いてさ……」

 彼女の鬼気迫る様子に驚きながらも、別の男子が答える。


「え……、ずっと前? 体に異常はないの?」

 無い、と口をそろえていう彼らの返答に彼女は眉をひそめた。彼女は額に手をやって考え込む。


「不思議ね。水道水を飲んだ人は少なくとも2時間以内に初期症状が出てゾンビ化するのに……」


 そのやりとりを聞いていた俺も不思議に思った。ゾンビ化までのタイムリミットは知らなかったが、ここにきてから間違いなく2時間は経っているだろう。

 今の話が正しければ、彼らはとっくにゾンビ化していてもおかしくないはずだ。


 しかし、それ以前に水を飲んだ生徒達の中に異変を訴える者はいない。


 ということはここの水は汚染されていないのか? それとも彼らが何か特殊な抗体を持っている?


 疑問だけが渦巻いた。




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