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Infection-【抗】  作者: Scott
24/29

第22話 分断

かなりお待たせ致しました!

もう前の話の内容忘れられた方も多いのでは……?

※今回は昆虫が敵ですので若干グロ多めです。



ブブブブ……ブブブブブブ!


「……っッ!」


倉庫のドアを開けて直ぐに、俺は耳を手で押さえたい衝動に駆られた。

まるで何千もの羽虫が周囲を飛び回っているような音だったからだ。


周りを見れば皆似たような反応をしている。

特に虫が苦手だった有紗は既に顔が恐怖に引きつっていたし、護でさえ気丈に振舞おうと必死の様だった。


ちょうど今いる裏口は死角になっていてヤツの姿は見えないものの、確実に接近しているのが分る。


俺は奥歯を噛みしめると、9mm拳銃のサイト越しに安全確認をしながら一歩一歩慎重に前進した。

万一に備えて、安全装置は解除済みである。


いつどこからゾンビや他の感染体が出没しても対応できるように。

ここは雑多な物が散乱していて、死角になりそうな場所が無数にあったからだ。



やがて前方に見覚えのあるT字路とミラーが見えた。

もう少しだ。と先頭の佐伯さんが目で言う。

倉庫群の敷地を囲うフェンスを越える、というところまで来て、漸く俺たちは一息ついた。



ビュンッ!



「――伏せるんだ!!」

が、渡辺さんが突如として叫んだその直後、一陣の風が俺達を襲ったのと同時に甲高い悲鳴が聴こえた。



悲鳴の主は――山本さんだった。


「んなっ!?」


俺が振り返った時にはもう遅かった。彼女は既にトンボによって上空へと連れ去れていたのだ。

彼女を背負っていた橋谷さんとそれを警護していた間宮さんはそろって地面に倒れている。


「ぐっ、しまった!」

佐伯さんはそう言って銃を構えたものの、撃つことは無い。

流れ弾を危惧してのことだろう。同様の理由で俺も撃つことができなかった。



「山本!? 野郎ッ!!」

「ちょ、待っ、彼女にまで――!」

橋谷さんは素早い動作で起き上ると、間宮さんの制止も聞かずにニューナンブを、発砲した。


ズガンッ!


弾丸の軌道は怒りに左右されることなく、見事にヤツの複眼に命中……

……するかに思われたが、寸でのところでトンボが方向転換したために、目標を外れた弾は虚空に消えた。


トンボは空中でホバリング体勢をとったまま、橋谷さんに向かって挑発的に首をかしげて見せた。

その脚に何とか抵抗する山本さんを抱えて……。


「チッ!」

橋谷さんは舌打ちして、銃を持つ手で空を切った。


ブブブブブブ……ッ


傾き始めた西日を背に、巨大昆虫のグロテスクなシルエットがより鮮明に見えた。


「全員物陰に隠れろ!」

恐らく敵の機動性が想定以上だったためだろう。佐伯さんが号令する。

彼の指示に皆は従い、俺と護はドラム缶の陰に背中を押しつけた。


しかし、橋谷さんだけが命令に反して動かなかった。


「クソ、素早いトンボめ。だがこれなら……!」

彼はレボルバーを2丁構えると、単身で応戦しようとした。が、佐伯さんは彼の腕を抑えて俺達のすぐ隣に引き込んだ。

不思議なことにトンボは追撃してこなかった。


「何をするんです!? このままじゃあいつが!」

必死の形相の橋谷さんに対して佐伯さんは首を横に振った。


「あの高さだ。落ちたら無事じゃ済まないぞ。 それに山本が負傷していることを忘れたか?」

「……なら……それなら、せめて俺が!」

「待て!」

一瞬の沈黙の後、飛び出そうとした彼をまたも佐伯さんが引きとめた。


「助ける術はきっとあるはずだ。おい、間宮、それに安堂。ヤツの動きを見張れ! その間に策を練る」

2人は無言で了承すると銃を手に遮蔽物の隙間から敵を見張った。


「渡辺、ヤツの弱点を教えろ」

佐伯さんに促された渡辺さんは眼鏡を軽く押し当てて、軽く頷いた。


「ドラゴンフライ――通称DFの武器であり、弱点でもあるのが眼。アイツはその複眼によって360度近い視野を確保している。それによって周囲をほぼ完全に把握していますが、これが命取りです」


「え……どうして」

俺は思わず疑問に思って質問した。


「全方位を知覚しているとはいえ、それを統制しているのは一つの脳だ。それも昆虫レベルのね。だから対策としては、多方面からの同時攻撃が最も有効的。要は数で撹乱しDFの頭をオーバーヒートさせるという訳。もちろん仮定にすぎないけど、混乱したDFは彼女を手放すでしょう」


「そんな悠長にしてたら、その間に山本は……!」

橋谷さんが蒼白な顔で訴えたが、渡辺さんは頭を振った。


「橋谷さん、アレはN-009と同じくB.O.Wです。普通の感染体とは違って僅かながら知性がある。残虐で、……原始的な、ね。恐らく我々全員を狩り出すまでは、囮である山本さんを殺すことは無いでしょう」


暫しの沈黙が訪れる。


「よし、迷っている暇はない。その手でいくぞ。幸いここは遮蔽物が利用し易い」

そう言って佐伯さんは話を切り上げると、ポーチから一丁の拳銃を取り出して渡辺さんに放り投げた。

彼から取り上げたばかりのH&K P2000だ。もちろん全弾装填済みである。


「どうし――」

「戦力は多い方がいい」

佐伯さんは彼が何かを言う前に、静かに告げた。


「間宮、目標は?」

「依然上空に停滞中です。……もちろん彼女も」


確認を取ると、佐伯さんは俺たちに向き直った。


「話は聞いていたな。今から四方に別れてヤツを奇襲する。私が正面、間宮は裏側、椎葉兄妹が右、安堂と加川が左だ。ヤツの高度が下がった時を見て空砲で合図する。そして手はず通りに山本が解放されたら、残りの橋谷、渡辺の2名でそれを受け止めろ。衝撃を和らげるために2人は上着を広げて持て」

両名は直ぐに紺色の活動服を脱いで脇に抱えた。


「それと撹乱の方法だが……空砲、いや携帯のフラッシュを使え。山本が奪還出来次第、ここを離脱し、工場へ向かう。いいか、くれぐれも無理はするな。――では散開!」

「「「了解」」」


俺達は四方に散った。


俺と有紗は見つからないように身をかがめつつ、右手に回り込んだ。

幸いゾンビには遭遇しなかった。どうやらこの辺りにはいないようだ。


対角の物陰には護と菜月さんがいるのが見える。そしてその手前上空の大トンボ――DFの姿も。

耳障りな音のおかげで、奴がどこにいるかは直ぐに分かった。

吊り下げられた山本さんが動かないのは気絶しているからだろう。いや、そうに違いない。


「有紗、俺が見張るからフラッシュ頼む」

所定のポイントに着いた俺が言うと、妹は携帯を取り出して操作する。


そして俺達はじっと息を殺し、合図を待った。



ブブブブブブブ・・・・・・



暫くして、痺れを切らしたらしいDFは読み通り、徐々に高度を下げ始めた。

地面との距離が二桁を切ったところで、渇いた空砲の音が響いた。


「――有紗」

「うん!」

有紗はDFに向かって携帯を構えてフラッシュを起こした。

直後、残りの三方からも光が走るのを確認してから、俺は飛び出した。


うっ……っ!


近づくにつれ、その異様な巨大さや、不気味な羽音に嫌悪感を覚えたが――怯んでいる場合じゃない!


DFは突然の強襲と閃光に面喰って、予想以上にふらついている。

後は山本さんを手放せば任務成功である。チャンスだ!

救出を手伝うつもりでいた俺は高揚した。


よし、そのまま山本さんを離せ!


しかし混乱したDFは更に高度を下げたものの、彼女を解放そうとはしない。


すると俺と同じく誰かが飛び出した――橋谷さんだ。

彼は抱えた服を投げ捨てると、間宮さんの言葉も無視してニューナンブを両手で構えた。

続く発砲音。シリンダーから燃焼ガスによって押しだされた複数の.38スペシャル弾が、体組織を貫く音。


「……っ!?」

俺は声を上げそうになった。なぜなら弾が彼女に、山本さんに当たったように見えたからだ。


しかし直後、バランスを崩して失速したDFが地面にぐしゃりと墜ちるのを見て、漸く俺は理解した。

被弾したのは彼女ではなくDFの頭だった。


ギッ……ギギギェ……


「残念だったな、化け物」

土ぼこりの中、羽根がひしゃげて尚最後の足掻きをしようとする巨大昆虫に、橋谷さんが冷たく吐き捨てた。


ズダンッ! ビシャァッ……

複眼が体液を撒き散らしながら、飛び散る。DFは前足を数回痙攣させたが、それっきり動かなくなった。


「間宮、確認しろ」

間宮さんが駆け寄ってDFが死んでいることを確かめた後、山本さんを残骸の中から助け起こした。

すぐに菜月さんが脈拍を測ってから高らかに告げた。


「……山本さんは無事です、作戦成功!」

幸いDFがクッションになったおかげで、彼女は意識が無いものの、大事には至っていないようだ。

続いて集まった護や有紗もそれを見て一息ついた。


「よし、ひとまず脅威は退けた。小休止を挟んでから出発しよう」


「思ったより呆気ない最後だったよな」

護が俺の隣に腰を下ろした。


「そうか? 橋谷さんの活躍がなきゃ、結構難しかったと思うけど」

「んー、まーそうだな。橋谷さんの技術と愛の力に万歳! ってやつだ」


「……何それ」

俺は空気の温度差を感じて鼻白んだ。


「男はな、大切なモンのためなら、限界点超えんだよ」

「ふーん。それでさっきから菜月さんの方見てるんだ」

「な!? 違くないけど、違げーよ!!」


こういう時の護はやけに子供っぽくなる。特に菜月さん絡みとなると……

それがおかしくて、俺はつい顔がゆるんでしまった。


近くでは三人の男が立ち話をしている。

「単身突入は褒められんが、見事な腕だ」

口調はいつもと変わらないが、橋谷さんの肩を叩く佐伯さんは感心しているようだった。


「いえ、人間本気になれば、ってやつですよ」

そう言って彼は憂い顔でニューナンブのシリンダーに5発の弾丸を装填した。


「それに、自分はもう……仲間を失いたくないんです」


そんな彼らの会話が聴こえてくる中、体を壁にもたれ掛けて俺と護はおもむろに空を仰いだ。

緊張で火照った体にひんやりとしたコンクリートが心地よかった。

いつの間にか日はさらに傾き、時刻は午後4時半に差し掛かっていたようだ。


道理で腹が減る訳だ……。

俺はパサついた棒状の携帯食にかじりつき、水筒の水でのどを潤した。


「渡辺さん? 何してるんですか?」

不意に菜月さんの声がした。

見れば、渡辺さんはまるで何かを探すかのようにDFの死骸に屈み込んでいる。

その様子を菜月さんは不審に思ったのだろう。


「違う」

「え……?」

菜月さんは首をかしげた。


「研究施設にいたやつじゃない。腹部にシリアルナンバーがありません」

「それは、一体――」

「……考えたくもありませんが、母体が別にいる。つまり施設外で繁殖した個体ということです」



その時だった。微かに、あの耳障りな羽音が鼓膜に伝わってきた。

こ、これは……! しかもさっきよりも音が重複している気が……?



ブブブブブブブブブブブ……ッ!!



「お、おい! アレなんだよ!?」

護が素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。


彼の視線の先、そこには――先程倒したはずのDFが6体も俺達を囲んでいたのだから。

しかもそのうちの一体は、他の個体に比べてかなり大きい。

夕焼けのトンボは日本人にとってはのどかな風物詩だが、ここまで並はずれたサイズだと

現実味が無さ過ぎる。まるで特撮映画の中に入り込んでしまったかのような世界観だ。


「くっ、群れを形成していたのか!」

佐伯さんの声にも焦りや不安が混じっていた。


「中央の奴が恐らくオリジナルです。エネルギー摂取により第二形態に進化している……!」

中指で眼鏡を押し上げた渡辺さんが歯噛みする。


菜月さんも青ざめていたし、有紗に至っては立っているのがやっとといった状態である。


「落ち着け。ゆっくり、刺激しないようゆっくりだ。物陰に身を隠すぞ」

動かなければ危ないが、急に動けば敵を刺激してしまう。


「……有紗、気持ち悪いなら見なくていい。取りあえず今はアイツらから離れよう」

「う、うん」

妹は震えながらもゆっくりと頷き、ぎゅっと目をつぶった。

そんな彼女の手をとって、俺は彼の指示通りにそろそろと慎重に後退する。


間違っても正面から戦って勝てる数じゃない。

このまま事なきを得れば……。


しかしそんな総員の期待は見事に玉砕された。

10歩も下がらないうちに、大型のリーダー格が奇妙な金切り声を上げた。

背筋が凍りつくような、地獄の戦慄が止んだ後、周りのDFが一斉に突進を開始した。


ギギッ、ギャ、ブブブブブブブ……ッ!!!


「くっ、走れッ!!」

佐伯さんが言うまでもなく、俺の足は本能で動いていた。

途中で有紗と手が離れたことにさえ気付かないぐらい必死に走った。

それでも背後からの羽音は大きくなる一方で、俺の心臓が早鐘を打つ。


「間宮ぁ! グレネード!」

「りょ、了解ッ!」

間宮さんは帯革から閃光手榴弾を取り出すと、歯でピンを抜いて放り投げた。

直後、眩いばかりの閃光が辺りを覆い、虫どもの奇声が聴こえた。


どうやら時間を稼げたようだ!


目の前に倉庫のドアが見え、さらに速度を上げる。

なんとか全員が入ったのを確認してから佐伯さんが扉を閉め、間宮さんが鉄パイプで閂をした。


「扉を全員で支えろ!」

男性を中心に肩を扉にくっつけた。

暫くは体当たりや、鉄を削るようなガリガリという音が響いていたが、思った以上に頑丈な倉庫には歯が立たなかったのか、やがてぱったりと静かになった。



諦めたのか……?



息を整えながら、誰もがそう思った時だった。


ヒューン……ザシュッ!! ガギィィン!!

落下音に続く鋭い音と同時に突如として何かが目の前に突き刺さった。衝撃がビリビリと伝わってくる。


「「!?」」


よく見ればそれは鉄骨の一部だった。


「何だってこんなモンが……!」

護が驚愕の表情で言った。


するとまたもや間延びした落下音。そして天井を鉄筋が貫通した。


ザシュザシュッ! ビシ……ッ!


そこまで厚くもない倉庫の天井には、落下によって威力が増した鉄骨の攻撃によって早くも大きな亀裂が入り始めている。


「このままじゃ……!」

菜月さんが指示を仰ぐように佐伯さんを見た。


「あのトンボども、予想以上に知能があるな。……籠城はさせないということか」

短く息を吐き、後頭部を掻くと佐伯さんは奥の扉を指さした。


「この先の通路を抜ければ外に出られたはずだ。外に出れば危険は伴うが、このままここでなぶり殺しにされるよりはましだろう」


他に選択肢も無く、俺達はDFに気づかれないうちに通路を急ぎ、T字型の通路に達した。

そこは床と壁はしっかりしているのに屋根がなく、吹きぬけの状態で夕日の赤光に照らされている。

が、その時、大きな影が一瞬地面を横切ったかと思うと先ほどのひと際大きなDFが現れた。


待ち伏せかよ!?


しかもただの待ち伏せでは無かった。DFの親玉は抱えていた何か大きな物を放り投げ……


「危ないッ!」

誰の発した声かも理解する前に、俺は地面に倒されていた。


ドゴォォンッ! ズズズズ……ッ!


続く小規模の地鳴りと土煙に反射的に目をつぶった。


「大丈夫なら、すぐに立って!」

そう言って手を差し伸べてくれたのは間宮さんだった。その横には有紗と護が居る。

俺はその手を取ってふらつきながらも立ち上がったが、思考は依然として混乱していた。


何が起こった? それに、他のみんなは?


粉塵が目に入ってきて邪魔だったが、俺はしっかりと見た。

反対側の道が投下されたコンテナによって塞がれている!


「無事か、間宮ぁ!」

佐伯さんの声が瓦礫の向こうから聴こえてきた。


「こちらは無事です! ここは一旦別れてDFを撒きましょう!」

「了解だ。通路を越えた先で合流するぞ!」


ズガン! ダンッ!


「敵をなるべく近づけないように! 銃は構えてるだけじゃ役に立たないよ!」

的確に鉛玉をDFに向かって送り込みながら、間宮さんがそう言って前進した。

壁があって屋根の無いこの通路はある意味では有利といえる。なぜならDFの攻撃を頭上の一点に絞れるからだ。フルメタルジャケットの矢に頭部を貫かれた一匹が崩れ落ちる。

危険を感じた他の二匹のDFはひとまず散開した。


それを合図に俺と有紗と護の三人は拳銃のスライドを引いて薬室に弾丸を込めてから、間宮さんの後を追って通路を進んだ。



この時は誰も気が付かなかった。

この一時の別れが、後の大きな分岐点となることを……




誤字には気を配ったつもりですが、文脈にまとまりがありません……。

もっと頭にすっと入ってくるような文章にしたものです。

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