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Infection-【抗】  作者: Scott
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第21話 真実の欠片

まあ、今回も前回以上に台詞ばっかりで見づらいかもです。

ホント申し訳ないですね。また時間のある時に見やすく再編集しますよ。


ガチャン! と金属同士が重厚な音を響かせる。



「よし、これで取りあえずは大丈夫そうだな」

佐伯さんは、スチール製のドアに取り付けた即席の閂の具合を確かめると軽く頷き、此方に向き直った。


「……さて、聞かせて貰うぞ」



 明かりは格子窓から洩れる僅かな陽光だけの、薄暗い部屋の中央には両手に手錠を掛けられた上にロープで拘束された渡辺さんが、周りを彼以外――俺や護たちと、簡易ベッドに横になった山本さんに囲まれた状態でパイプ椅子に座らされている。


 もともと緩くウェーブが掛かっていた黒髪は土ぼこりで白く汚れ、シャープな縁のメガネには傷が入っていた。


 彼は橋の爆発後、佐伯さんによって拘束され、ここ――橋から北東に十分余り歩いた所にあった、空き倉庫の一室に連行されたのである。



「まずはお前の正体からだ。渡辺助教授なんていうウソの肩書じゃなく」

冷やかな声で佐伯さんは言った。


「ええ、分かってます。でも、……名前は本名なんですよ」

交互に俺たちに向けられる渡辺さんの表情には、諦めの色が見て取れた。



「……お察しの通り、僕は一般人ではありません」

彼は顔を上げると口を開いた。もうその時には先ほどの影は消えていた。


「僕はライナー製薬アジア支部バイオ部門の主任を務める、研究員だ」

そこで一瞬の間が空いたが、俺を含めた皆の反応は薄かった。



ライナー製薬っていえばあの世界的に有名なヤツか?

スペードのマークでお馴染みの。

……スペード。 あれ、何か頭に引っかかるのはなんでだ?


俺は何かを忘れているような気がしてならなかった。



「ライナー製薬っていうと……外資系巨大製薬会社の?」

「世界規模のボランティア活動もしている、あの会社? つっ……!」


 やがて菜月さんは不思議そうに尋ね、その傍らにいた山本さんも上体を起こしたが、まだ頭部の傷が痛むらしく直ぐに元の体勢に戻った。


幸い彼女の傷は脳に影響を与えなかったようで、痛むことを除けば会話も普通にすることができた。



「いかにも。……でも世間が良く知る優良企業の方じゃなくて、僕が務めていたのは裏の顔……この青海市の地下で、極秘に生物兵器を開発する機関だった」

そして彼は一呼吸入れると語り始めた。






今回の事態。……青海市でのバイオハザード。その発端こそが僕の職場だったんだ。



 もちろん地下深くに極秘裏に造られた施設だから、関係者以外誰もその存在は知らない。地図にも載っていないぐらいだしね。

 まさにあそこはこの国にあってこの国にあらず。連日連夜、法も道徳も無視した非道な生物実験が繰り返されていた。


それが三日前の未明、特に危険な代物を扱うC棟で、事件は起きた。


 被検体、……いや、隠さず言おう。

さっき戦った、あの緑の怪物――検体番号N-009の管理水槽で異常事態が発生したんだ。


 開発に携わった者としてこう言うのも何だが、アイツは開発当初から最凶最悪の奴でね。直ぐに警備兵や、本社から派遣されていたエリート部隊が鎮圧に向かったんだけど、もうその時には遅かった。


 アイツは配管を伝って外部に脱走した後だったし、……他のケースに納められていたウイルス兵器も無造作にばら撒かれいて……。


 濃度の高いウイルスを吸い込んだ人間はみるみる体調を崩しだして、ものの数分で感染した。あっという間に研究所はゾンビや感染体で溢れかえって、地獄に早変わりしたんだ。


実際に対峙したからある程度は分かっていると思うけど、ゾンビを含めた感染体は死んでいない。

僕が偶然発見したウイルスの改良版――進化Evolutionの頭文字を付けた『E-ウイルス』によって肉を求めるだけの屍と化されているけど。


 それもE-ウイルスが脳に侵入すると、理性を破壊し感染体に異常なまでの新陳代謝を起こさせる。細胞が生まれては死ぬを繰り返すから、そのエネルギー消費量は凄まじい。


だから彼らは脳が止まらない限り動き続けられる反面、執拗なまでの食欲に囚われているんですよ。


 昔に特殊訓練をかじっていたことと、連中の行動パターンを把握していたことが幸いしましたよ。僕は何とか感染を免れて、脱出に成功し、出来る限りで出入り口をシャットアウトしたんだけど、この時すでにウイルスがダクトを通じて地下水道管の一部に漏れ出してい事には気付けなかった。


 もともと非正規に造られた施設だけに、配管を全部避けられなくてね、施設内部には一部一般世帯用の水道管が通っていて、どうやら戦闘で破損したところからウイルスが……場所はちょうど椎葉くん達が逃げてきた、二丁目付近の真下になるのかな。


だからあの地域一帯が真っ先に、住民が水道感染でゾンビ化したんだと思う。


これが今僕たちが身をもって対峙しているバイオハザードの原因です。




誰も喋らなかった。

いや、喋れなかった。

俺も情報が大きすぎて、思考が麻痺してしまったようだ。




思い沈黙の中、佐伯さんが口を開いた。

「つまり、この事態はお前が発端だが、あくまで事故だったと言う訳か……?」


「そうです。……しかし100%事故だったとは断言できません」


「どういうことだ」


「先程軽く言いましたが、緊急事態が起こったのは施設内でも最も危険度が高いエリアなんです。見張りやセキュリティーも非常に厳重。特にN-009の部屋は本社のエリート隊員が常駐し、監視カメラも24時間体勢で運用、おまけに赤外線センサーだってあります。もちろん被検体が暴れだした時の対策も万全にね」


「だからそんなところで急に事故が起こるのは少し不自然なんですよ。それこそ上の人間が故意に起こしたのではないか、とね」


「思い当たる節があるのか?」


「まあ、一応は。しかし……」


「……何だ、さっさと言え」

佐伯さんは語気を強めた。



「あくまで耳に挟んだ程度ですが、……一種の性能テストだと」


 ガシャンと激しい音がして椅子をひっくり返して荒々しく立ちあがった佐伯さんは、渡辺さんの胸元を掴んで吊り上げた。


「性能テスト!? これが、この惨状が……テストだっていうのか!?」


「か、確証は、ありませんよ……ッ!」

渡辺さんの顔からみるみる血の気が引いていく。



「ちょ、ちょっと、それ以上は!」


「チッ!」

菜月さんの仲裁が入ると、佐伯さんは大きく舌打ちして乱暴に手を離した。

体の支えを失った渡辺さんは、床に崩れ落ちたあと、しばらく咳き込んだ。




「……俺は、お前という人間が分からない。お前はやはり仲間ではなかった。しかし我々と行動を共にしている。それはなぜだ? 飼い主に見捨てられでもしたのか?」


「それもありますが、僕は……」

そこで彼は目を伏せて一呼吸した。



「僕はもう、あの会社の一部であることが、……実験をするのが嫌になったんです」


「罪もない被検体が次々と僕のウイルスで怪物に姿を変えていく。僕は毎日その過程を分析し、改良を加える。最初は作業だと割り切っていても、夜な夜な夢に見るんです。哀れな犠牲者の最後の断末魔が……」

よく見れば、渡辺さんは震えていた。


「じゃ、じゃあさ、そもそもなんでそんな組織に入ったんだよ?」

護が納得できないというように訊いた。


「それは少し昔話になるけど――僕の専門であるE-ウイルスの研究論文は当時、学会じゃ認めてくれなかったんだ。新陳代謝を促進だなんて老化を進めるだけだ。百害あって一利なしだとね」


「今にしてみれば最もなお言葉ですよ。その結果がこれなんだから。でも当時の僕は憤りを覚えた。何とかして認められたい、と思って自分の研究を売り込んだのです」


「そして方々を訪ね回った結果、声が掛かったんだ。キミの熱意に感動した、費用は気にしなくていいから、ぜひうちで研究を続けないかと、……ライナー社からね。そして僕は二つ返事でその話に乗りました。それに僕は『進化』の名を取った通り、このウイルスの解明がきっと科学や医療に躍進を与えると信じていたんですよ。もっとも、発見当時の原始ウイルスの効果も、今のE-ウイルスとは比べ物にならないぐらいに弱いものでしたし……」



「途中で、その、研究施設を抜けることは考えたんですか……?」

菜月さんがおずおずと訊ねた。


「もちろん何度も実行しようとしましたよ。でもそのたびに阻まれて、監視の目は日に日に増し、遂には妻子を……家族を人質に取られてしまいました。相手は世界中を暗躍する巨大企業です。規制の多い日本にまで極秘の研究施設を造ってしまうほどです。人間2人を抹消することなど造作もないでしょう」


「所詮言い訳になってしまいますが、僕には研究を続けるしかなかった……!」

渡辺さんは悔しそうに奥歯を噛みしめて、重々しく頷いた。



「……さあ、僕の昔話はこの辺にして、他に質問はありますか?」



誰も進み出る者はいなかった。佐伯さんですら、腕組みをしたまま壁に身を任せて、思案中のようだった。



そこで俺はずっと引っかかっていたことを訊いてみることにした。

「じゃあ、俺から一つ……」


「何なりと」

渡辺さんは縛られた状態で肩をすくめて見せる。


「どうしてさっきの……あの橋の一帯には、不自然なほどゾンビや他の感染体がいなかったんですか?」



渡辺さんは少しの間を空けた後、ぼそりと言った。

「……多分欄干に設置してあったスピーカの影響だろうね」


「スピーカー?」


「ええ、それに皆さんも見たはずだ、死体が揃いも揃って頭を抱えていたのを。……アレは恐らく音響兵器の影響だと思う」


「え? そりゃスナイパーに頭を撃たれたんだからフツーなんじゃね?」

護が不思議そうにそう言うと、佐伯さんは首を横に振った。


「いや、違うな。あそこの死体の殆んどは、胴体に撃ち込まれていた。動く目標を遠距離から狙撃するのは思いのほか難しくてな、幾ら習志野(SFG)の連中が優秀と言えど頭に命中させるのは至難の業だ」


「やはり特殊作戦群が? 防衛大臣直轄の?」

佐伯さんの言葉に間宮さんは驚きを隠せない様子だった。


「恐らくは、な。発砲音に加えて一方向からの連射が無かったことを踏まえると、装備はボルトアクション式対人狙撃銃――M24SWSだろう。最もこの装備はSFGに限らず運用されているが、狙撃手の腕がかなりのものだった。特殊部隊の連中と見てまず間違いない――話が逸れたな、続けろ、渡辺」


「スピーカーの中で一際大きなモノがあったのですが、それは僕が何度も研究施設で見ていた対感染体用音響兵器と同じだったんですよ。……ご存じの通り、感染体の多くは視力が殆んどなく、感覚の大半を音によって得ています。だからあのスピーカーから特殊な波長を出すことによって、一時的に行動を抑止したり、遠ざけたりすることができるんです。もっとも橋のスピーカーにはライナー社のマークも付いてましたしね」


「それって青いスペードみたいな?」

俺は何かが繋がっていくのを感じながら言った。


「そう、僕にとっては嫌悪の象徴でしかない。……さ、他には?」

渡辺さんがそう言った時だった、不意に倉庫の外で奇妙な音がして皆が一斉に顔を上げた。


ブブブ……ブブ……


小刻みな羽虫の羽ばたき、それをもっと重く、大きくしたような音だった。



ブブブブブブブ……!



音はどんどん大きくなっていき、俺達の鼓膜を震わした。

感覚的にはここからそう遠くない位置に何かがいるようだった。


「なんです!? この音は……」

戸口に立つ橋谷さんが眉根を寄せて渡辺さんに訊いた。




「……僕の予想が……当たっているなら……他の棟にいた被検体だ」

そう言った彼の顔は青ざめている。




「? 間宮、確認しろ」

言われるなり間宮さんはすぐさま踵を返して、格子窓から外の様子を伺った。



「……見える範囲には何も……うわっ、アレは!!」

即座に彼は窓から数歩離れた。



「何だ。………………嫌になるな」

間宮さんに代わって何かを見たらしい佐伯さんもため息をつく。


漸く俺や護も窓に近づきその正体を見たのだが……


文字通り、我が目を疑った。



100メートルほど離れた向かいの廃墟、その屋根の部分には――――トンボがいた。


 もちろんただのトンボでは無い。羽を広げれば全長5mはあるかという巨大なトンボが、複眼を光らせ、前足を小刻みに動かしていた。



隣では菜月さんと有紗が息を飲むのが聴こえた。


「いい加減にしろよ……」

そう言うと額に手を当てて、その場にしゃがみこむ護。

よっぽど俺も彼に倣いたい気分だったが、まずは佐伯さんに意見を求めた。



「まだ、アレは我々には気付いていない。やり過ごすチャンスはあるはずだ。それと渡辺、アレも貴様らが創ったバケモノか?」


「……はい。ギンヤンマをベースとした生物兵器(B.O.W)。偶然の産物だったため、ナンバーは無し。研究者の間ではドラゴンフライと呼んでいました」


「弱点や行動パターンも知っているのか?」


「一応は」

渡辺さんがそう呟くと、佐伯さんは大きくため息をついて、パイプ椅子の裏に回り込むと、手錠を外、ナイフで残りの拘束を解き始めた。



パサリ、と最後のロープが着られて床に落ちたところで渡辺さんの身は自由になり、彼は両手を前に掲げて不思議そうに佐伯さんを見つめた。



「……勘違いするなよ。お前は戦略上必要なだけだ、下手な真似をしてみろ、即座に撃つ」

釘を刺すように言い放つと、佐伯さんはホルスターから抜いた銃を突きつける。




「これ以上ここに留まれば見つかる可能性がある。裏口から出るぞ。渡辺、お前としてはどうだ?」


「離脱の意見に賛成です。アイツは珍しく視力が高いので、これ以上接近されれば間違いなく気付かれます」


「決定だな。ここに来る途中に工場があった。距離にして1kmもなかったはずだ。ひとまずはそこに移動しよう」

彼の指示に対して、異論を唱える者は無く、俺達は全員無言で頷いた。



「それと橋谷、また山本に付添ながらの移動となるが大丈夫か」

橋谷さんは、問題ありません、と答えて山本さんに肩を貸したが、当の彼女はかなり申し訳なさそうだった。


「よし、間宮、2人の後ろに付け。その他は隊列通りだ」

との指示で、間宮さんが2人の警護に当たる配置に付いた。



「では、行くぞ……」

ギィっとドアが開いて、陽光と共に外の羽音が一層増す。



緑の怪物の後でなら、あんなのただの虫だろ?

自分にそう言い聞かせると俺は拳銃のグリップを握る手に力を込め、重い右足を踏み出した。




もうグッダグダ。

皆さん、話に付いてこれていますか?

設定を渡辺に語らせてみたら、こんな具合に……。

次回は少し更新が空きそうですが、中ボス「ドラゴンフライ」と一戦交えそうですね。

(ドラゴンフライってトンボそのまんまやん! と思われた方、アナタは正しい感性をお持ちのようだ)


あ、そうそう、この度気まぐれで描いた主人公「椎葉 幸正」とその妹「椎葉 有紗」のイメージイラストを掲載しましたよ。


第一部の登場人物紹介にて閲覧可能です。

※素人がシャーペンで描いた落書きですんで変な期待しないで下さいね……

(サイズ無駄にデカイし……)

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