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Infection-【抗】  作者: Scott
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第18話 無垢なる殺意

少しお久しぶりです。お別れのような活動報告をしておりましたが、予想よりも早く(『なろう』に)一時帰省いたしました。ただ、相変わらず時間が無くて、この作品をエタらせないようにするので精一杯なんですよね……(^_^;)


ああ、他の先生方の作品が気になる~!!


では相変わらずチープな仕上がりですが、どうぞ。(今回は少し長めです)



 翌朝、日は昇っているものの若干の睡魔を感じる中、起床した俺たちは会議室に集合した。


朝食や諸事情を済ませ、昨夜の通りに全員が装備を固めたところで、佐伯さえきさんに着席を促された。

すでに銃が卓上に並べられた室内には張り詰めた空気が漂っていて、皆の緊張や興奮が伝わってくる。特に自衛官と警察の目つきが鋭かった。

 

 もう、作戦は始まってるって感じだな……。 


 俺は改めて気を引き締めると、配布された用紙を取り出して記載されている隊列に戦闘時の要点。地図上のルートや簡易ハンドサイン等を再度頭に叩き込む。


 俺の配置は右翼後方。弾詰まりや誤作動を防ぐためにも過度な連射は控える。主な迂回ルートは二番目の交差点の左、商店の路地裏。郵便局の脇道。死角になり易いのが工務店周辺に置かれた資材の影、サインは『前進』『待て』『後退』を基本に――――。


 一通り目を通たところで佐伯さんが口を開いた。


「よし、最後の確認となるが、作戦の変更はない。目的はあくまで橋を越えて街を出るのみ」


「従って無用な戦闘は極力避ける方針でいくので、銃は必要最低限でしか使用しないように。もっとも物量的なこともあるが、音に反応するヤツらにとって発砲音は呼び笛になりかねんからな」


「それとこれも周知であるが、今一度言っておく。仲間が行動不能もしくは感染した場合は……」


 佐伯さんは一度間を置き、軽く息を吸い込んだ。


「……遺憾だが、その者は置いていく」


 隣で有紗や菜月さんが固唾を飲むのが分かる。


 しかし前例の対処法がこれしかないことは、この場にいる誰もが理解している。行動不能の仲間を背負っていくのは道連れになりかねないし、感染者と共に行くなどはもってのほかなのだ。非情だと言われかねない取り決めだが、全滅を避けるためには仕方が無い。俺も不本意ながら首を縦に振る。


 少々時間はかかったが皆が重々しく頷くのを確認して、彼は椅子から立ち上がる。皆は彼を見て静かにその時を待った。


 一瞬の瞑目、そして……。


「作戦開始!!」

直後に、おう! と男性を中心の掛け声と共に、全員が起立して配置順に部屋を出た。


 もう二度とここに来ることはないだろうな。


「……お邪魔しました」

後方担当だった俺は会議室の天井を見てそう呟くと、ドアを閉めて皆に続いた。



 


◆◇◆




 

 最初に侵入した際の窓から外に出る。近くにゾンビの姿は確認されないのに、早速ヤツら特有の腐臭を感じて俺は辟易した。


 この段階で既にこれかよ……。


 慎重を期するために正面からではなく、裏口から出ることになっていたのだが、この分では裏口の近くにもゾンビが何体か居ると見て間違いないだろう。


 裏口の鍵を橋谷さんが開錠する。ドアノブを佐伯さんが抑えるようにして握り、ゆっくりと回した。誰もが息を殺して襲撃に備えられるように武器を身構えた。


 ギィ……


「うっ!」

「「っ!?」」

軋んだ蝶番が音を立てた直後、佐伯さんに続いて外に出た橋谷さんの突然の声が、俺たちの心臓を飛びあがらせた。

 

 早速、敵か? 俺は咄嗟に使い慣れた9mm拳銃を構えて、安全装置を外した。初弾は装填済みだからこれでいつでも撃てる。が、戦闘態勢に入る前に佐伯さんの『待て』のサインが出て踏みとどまった。


「大丈夫だ、危険はない。彼は少し驚いただけだ。それにしても安堂、……椎葉もか。機敏な反応は良い事だが、極力発砲は控えろと言ったはずだぞ」


 隣を見れば護も俺と同じように拳銃を構えていた。俺達はすいません、と詫びて銃の撃鉄ハンマーとファイヤリングピンを接触させ、引き金にストッパーをいれた。安全装置が正常に掛かったのを確認して、9mm拳銃をホルスターに戻した。それから俺は事の真偽を確かめるために裏口をくぐった。


 するとそこには――――ゾンビがいた。橋本さんはこの光景に衝撃を受けたのだろう。数十体にも及ぶそれらの特徴は、灰色の肌、光を失った虚ろな白眼や食欲を満たすためだけに開かれた口、そこに並ぶ黄ばんだ歯。常に発散し続ける耐えがたい腐臭。相変わらずどれもこれも醜悪なものだったが、俺は取りあえず一息ついた。


 なぜならゾンビはゾンビでも、痩せ細って腐った骨と皮になり果てた上に身動き一つしないか、共食いによって原形を留めないまでに食い荒らされているという、いずれにしても無害なものだったからだ。


 それでも慎重を期するために佐伯さん達が、一体ずつ警棒で頭を潰して回った。壁際に並んだ首から上を破裂させた死体はもはや何の脅威でもなかったが、気味が悪いのは確かなので、俺はなるべく見ないようにして横を通り過ぎた。


「現場じゃそれは凄惨なホトケさんを拝んできたもんでしたが、これには敵いませんな」

「……自分も同感です」

飯田さんと橋本さんは目を細めた。


「ですが、着実に自滅に向かっているようですね」

そう言った山本さんは、冷静に状況を分析しているように見えたが、次の瞬間には死体の山に向かって合掌していた。


 彼女の言う通り、どうやら想像以上にヤツらの飢餓状態は深刻で、それに伴った相次ぐ共食いによって数自体も減っているのだろう。おかげで国道に達するまでにゾンビとの遭遇自体が少なかったし、戦闘といっても明らかに消耗、もしくは一部が損壊した状態のゾンビが殆どで、動きの鈍いそれらを倒すのにはリーチが60cm前後の警棒で事足りた。個数の関係で、橋本さんだけはレンチを使用していたがそれでも十分そうだ。


 更に時間の経過で肉体も腐敗も進んでいるようで、佐伯さんの蹴りを受けた個体などはその衝撃だけでぼろリと首が転げ落ちて絶命したのだった。経緯を考えれば、哀れともいえる最後だったし、その中には知り合いもいたかもしれない。が、俺たちの犠牲者に対する情など最早無きに等しく、あくまで≪ゾンビ≫として処理していった。


 流石に10歳になろうかという子供や、かつては綺麗な女性だったのだろうと思わせるゾンビには若干の抵抗があった。それでも彼らの放つ確かな腐臭が、行動が、俺達を吹っ切らせてくれた。


「ユキ、思ってたより楽なんじゃねーの? あ、足元に来てんぞ!」

 かれこれ数体のゾンビを始末したところで護が軽口を叩く。もちろん強がりが混じっていることは分かったが俺は彼に頷き返した。そして右手に構えた警棒を、足元で呻く上半身だけのゾンビの頭部に振り下ろす。直後、グシャッ と鈍い音が響いて、アスファルトの上に赤黒い華が咲いた。


「ああ、ここまでゾンビが衰弱してるとなると……」

 余裕かもしれない、と俺も言おうとしたところで最後尾の間宮さんに釘を刺されてしまった。


「2人とも、油断大敵。どこに敵が潜んでいるか分からないからね」


 俺は随分と血で汚れた警棒の先端を、割合綺麗なゾンビの服で拭って再度周囲の物陰に視線を戻した。


 ちなみに彼を含めて俺たちは先ほどから、背後を警戒する為に仲間に背を預ける形での後退を続けている。


 改めて陣形を説明すると、佐伯さんが単独で先頭。次に菜月さんと有紗が一列に並び、それを囲むように3人の警官と渡辺さんの計4名をそれぞれ左右に配置。最後に俺と護と間宮さんが後衛を務める形になっているのだ。


 少しでも経験のある者を外殻に、言い方は悪いが弱者を内部に置く。全ては全員の生存率を高めるために佐伯さんが提案した隊形である。


 それから暫く前進を続けると、思ったよりも早く最初のチェックポイントである交差点に差し掛かった。時計を見れば、出発からまだ20分といったところだ。


 四車線の交差点。とりわけ広いスペースには、軽く荒らされた道路の上に廃車や放置車両が転々と放置されていて、それまでと大差ない光景が広がっている。周囲には既に動きの止まった死体こそあるものの、動くゾンビはなく、どこか殺風景だ。

 

 また、車の多くは既に走行不能になっていて、比較的損傷の少ない物も鍵は付いていなかった。


「やはり車は期待できないか」

車内を確認していた橋本さんが、やれやれといった様子で肩をすくめる。


「諦めるのは早いっすよ」

そう言うなり彼は、ポケットからクリップを取り出して器用に形状を変えると、それを鍵穴に差し込んでピッキングを始めた。


「おっ! …………いや、ダメかよ。こりゃ多分、エンジンがイカレてるな」

暫くあって一瞬だけアクセルが掛かったものの、どうやら内燃機関そのものに問題があるらしく、ガス欠のような気の抜けた音を最後に反応が無くなった。その後も何度か試したが、不発に終わって車は諦めることとなった。修理する時間があれば前進した方が良いという判断だ。


 少し離れたところに立つ山本さんは、明らかに怪訝そうな顔をしていて、それを上司の飯田さんがなだめていた。

「彼は何のために、あのような技術を?」

「まあ、まあ山本。それは今はいいじゃないか」


 



 すぐに行進は再開されて、2番目の交差点に差し掛かった。迂回ルートの存在するポイントである。


「っ! 有紗?」

急に背後が立ち止まった為に俺は有紗と軽く衝突した。少し驚いて振り返ってみると、どうやら先頭から『待て』のサインが出たのだと教えてくれた。


 なぜだ、と思っているうちに次のサインが出て、それは『警戒』を示すものだった。


 『警戒』? 特にこのエリアに脅威は感じられないけどな……。


 とはいっても司令に従うことが絶対事項なので、俺も疑念を振り払って辺りを観察する。必然的に行軍速度は落ちることになるのだが、慎重に観察するうちにその理由が少しずつ分かってきた。


 散らばっているゾンビの残骸だ。今までは見なれ過ぎて背景の一部にすらなっていたがよくよく見れば、どことなく違和感を感じた。


 一つには目立った外傷が少ないという点。共食いだと必然的に歯型が残っているものだが、無いということは違う事情で、ということになる。


 では、裏口での個体と同じ餓死かというとそれも違うようだった。なぜならこのゾンビは枯れ過ぎている。変な表現だが、腐っても人間。体の大半を水分で占める生物が、いくらゾンビ化したからといって数日でこの蒸発ぶりはおかしい。砂漠ならともかく湿気の多い日本ではまずあり得ない。これが二つ目の不審な点である。


 それほどまでに、ここに転がっているものは干からびていたのだ。それこそ風が吹けば破片がかさかさと音を立てて舞うほどに。


「飛んでくる破片に注意しろ」

 佐伯さんがすかさず指示を出した。


 ゾンビの粉末を吸い込んでは大変だと、全員が急いでハンカチで簡易マスクをして防護グラスをかける。このグラスも警察署にあった備品で、射撃訓練の際に職員が目の保護のために着用していたものである。活動服に防刃ベスト、おまけに銃を携行。そこに防護グラスとマスクが加われば、出来の悪い機動隊のようであった。


「ユキ、ちょっと見てくれ」

護が指さす先には、緑に暗褐色を混ぜたような物体が所々に付着した死体が転がっている。


 あの緑っぽいの、何だと思う? と訊かれたが、俺も近くにいた間宮さんも見当が付かなかった。


 見た目だけだと渇いたスライムなんだけどなぁ。しかし何故だろう、酷く嫌な感じがするのは……。


「菜月さん、渡辺さん、何だか分かります?」

俺はとりあえず理系の2人に尋ねることにした。


「何かしら。ゼラチン? ……バリウムのようにも見えるけど」

菜月さんが首を傾げたのに対して、渡辺さんは一点を凝視したまま固まっていた。マスクと防護グラス越しでもはっきりと分かるぐらい厳しい表情で。それも射抜くような鋭い視線で。


「渡辺さんは?」

俺は確認するようにそう言ったが、返事はない。心ここにあらず、といった状態だろうか。


「渡辺……さん?」

流石に不審に思ったのか菜月さんも呼びかけると、彼ははっと我に返ったようになった。


「あ、ああ! いや、僕も見たことが無いものだったから、なんだろうって考えてたんだ。何にせよ、触らない方が良さそうなのは明白なんだけどね」

 

その後、彼なりの考察を語る際にはもう先程の眼光はなく、いつも通りの温厚な理科教師然とした渡辺さんに戻っていた。

「生物だとすると、この体色は葉緑素によるものか? それとも――――」


 菜月さんに今し方のことを相談しようかとも思ってそちらを見たが、意を察した彼女は小さく首を横に振った。


 この状況で疑心暗鬼になって仲間との不和が生まれることは、無用な混乱を生むだけだということだろう。結局、俺は勘違いで済ませることにした。


 佐伯さんも別の死体に付着したそれに注意深く接近していたが、目的は脱出だったこともあり、障害ではないとはんだんしたようで、観察もそこそこに終えて『前進』の命を出そうとした。


 

 ガゴンッ! ガン!! ガラララララ……。


「はっ!」


 背後での音に一斉に振り向くと、即座に戦闘態勢を取る。今度は佐伯さんの牽制も無く、全員が武器を構えた。もちろん、指は引き金には掛けずにトリガーガードで止まっていたが。銃の照準越しに、進行方向の先のマンホールの蓋が乱暴に開けられて転がっているのが見えた。


 そしてグワン! と蓋が地面に倒れた直後、ズルリ、ズルッ……。穴の中から何かが這い出してくる気配があったかと思うと、マンホールの淵から汚水を撒き散らす謎の物体が、嫌に粘着質な音を響かせて徐々にその全身を露わにしていった。


「何だ、コイツ……?」

殆ど体が穴から出たところで、護が呟いた。俺も全く同じ感想が浮かび、早くも背筋がざわつくのを感じた。


「さっきの物質の正体?」

「感染体のものだったか……」

菜月さんに続いて佐伯さんは渋面だ。


 体長が人間並で頭部には目と口、加えて両足での直立姿勢が確認できるので、恐らく人型の感染体と思われるのだが、その表皮は先ほど見た物質と酷似した濁った緑色のスライム状で、明らかにゾンビとは別種なのだと物語っている。


 ゆっくりと二足歩行で接近する間も、その黄色い双眸は俺達を捕えたまま放さない。しかし俺たちを観察するつもりなのか、一定の距離をあけたところで立ち止まった。どうやらすぐに襲いかかって来るということはないようだが、かえってそれが知能から来る余裕に見え、張り付けられたような笑みと相まって不気味だった。


どうする、戦うのか……?


 突然現れた脅威を前に焦った俺達が佐伯さんに目配せすると、彼は至って冷静に迂回ルートを指さした。事前に確認しておいた危機回避パターンの一つだった。つまり、攻撃を仕掛けられる前に逃走を図るというのだ。


 俺達は親指を立てて『了解』のサインを送り、迂回路に向かってゆっくりと後退を始める。銃は向けたままではあるが、あくまでも目標を刺激しないように、一歩、また一歩と静かに移動した。

 

 俺達後衛が路地に差し掛かっても、此方こちらの動きに反応する素振りは見られなかったので、事なきを得たかに思えた。が、不意に頭上でバチッ! と鋭い音がして俺達は一斉に上を見上げた。


「……なんだ電線、か」

「ったく、ビビらせんなよ」

それは単純に切れた電線の端がショートしていただけだったのだが、顔を戻した次の瞬間に俺達は驚愕した。なぜなら路上に突っ立っていたはずの怪物が忽然と消えていたからである。 


「アイツがいない!?」

「しまった、見失った! 隊長、目標が消失ロスト!」


 護と間宮さんが目を見張り、俺も動揺が隠せなかった。いくら目を離したとはいえ、何秒も無かったはずだ。その隙に視界から逃れるとは! 最早知能は否定できないどころか、俊敏性も兼ね備えているということだ。


「歩を止めるな、周囲に気を配るんだ。奇襲だけは避けたい」 

この状況では止まることの方が遥に危険を伴うので、全員で分担して全方位を警戒しながら前進した。


 俺は相変わらず担当である後方左翼を凝視し続けた。比較的広めの路地の両脇に並ぶ商店の裏口や、脇に転がるゴミ袋の山など、とにかく死角になりそうな場所を警戒した。危険度の低いゾンビはこの際無視して路地を中ほどまで進んだ時だった。


「何か、聴こえる……」

俺と背中合わせの状態で有紗が言った。


「え?」

「……ずるずるって音が、さっき聴こえたの」


一行は直ぐに動きを止めて耳を澄ませた。


 最初はゾンビが上げる呻き声以外に何も聴こえなかったが、徐々に何かを轢きずるような湿った音が響いてきた。それも下から。その時佐伯さんが叫んだ。


「下だ、下水管だ! おい、そのマンホールから離れろ!」


彼がそう言って、山本さんを突き飛ばすのと、そのマンホールの蓋が吹き飛ぶのが同時だった。


「退避だ、距離を取れ!」

「ほら、下がって!」

うろたえる俺達を自衛官の2人が率先して避難させた。


「山本、立てるか」

「ありがとうございます、先輩。大丈夫です」

転んでしまった彼女を橋谷さんが助け起こして、すぐに後ろに下がらせた。


 先程と同じく派手な音を響かせて蓋が地面に転がった後、ゆっくりと緑色の全身が姿を現した。しかも緩慢ではあるものの、右腕をこちらに伸ばしてくる。


 シュッ! 突如何かの残像が走ったかと思うと、すぐ傍にいた護の影と重なった。直後に響く衝突音。


「護っ!?」

顔面に直撃したかのように彼が体勢を崩したので、思わず叫んでしまった。有紗や菜月さんが息を呑むのが聴こえる。


が、暫くして護は上体を起こした。その時彼の足元にごとり、と何かが落ちた。


「……っぶねぇ!」

護は大きく息を吐いた。顔の前に警棒を構えている。

 

 彼は無事だった。どうやら咄嗟に構えた警棒が飛んできた何かを弾いたようだったが、俺は彼の足元を見て絶句した。――――そこには握りこぶし大のコンクリート片が転がっていたのだ。


「あいつ、フェイント掛けてきやがった」

護は肩で息をしながらそう言った。つまり、伸ばした右腕に注目させておいて、左腕からの鋭い投躑とうてき。もし防げていなかったらと思うとぞっとした。


 シシシシシシッとつり上がった口角から忍び笑いにも似た音が漏れる。それは『逃がさない』と言っているかのようだった。首を僅かに傾けて、何がそんなに楽しいのかといぶかりたくなるほどの笑みを引っ提げて、その緑の怪物は距離を縮めてきた。


「高い知能が見受けられる。隙を見て逃走するにしても、……戦闘はやむを得ないようだな」

佐伯さんは短く嘆息した。

 

 怪物が浮かべる猟奇的な笑みを前に、背筋を逆なでされたような気分になり、各々がまずは打撃武器を構えた。が、


「発砲を許可する。不確定要素が多過ぎだ、攻撃態勢を取るぞ。接近を許すなっ!!」


 その一言で俺達は一斉にそれぞれのポジションへと展開し、安全装置を解除した自動拳銃とレボルバーが構えられた。


「有紗、大丈夫だ」

 銃を持つ手が震えている妹を勇気づけようと言った言葉だったが、何の根拠もないただの希望に過ぎない。


「…………」 

 一触即発の緊張感のせいで皆は浮足立っており、中衛後列の渡辺だけが、防護グラスの下で意味深な表情をしていることには誰ひとりとして気付かなかった。





前書きにも書いたとおり、一旦戻ってきた感じなので次の投稿がいつになるかは決まっておりません。ですが、完結はさせるつもりなので、間隔の長い不定期更新だと思って下さい。


それと返事は遅れると思いますが、ご感想はホントに力になるので、頂けると光栄です。


では!

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