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Infection-【抗】  作者: Scott
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第13話 奔る牙

誰に望まれたわけでもありませんが久々の投稿です。

やっぱり銃を手にいれてからもイマイチぱっとしないですが、そこのところはご容赦下さい。

 出発の準備を整えた俺たちは一塊になって裏門から出て校舎を後にした。


 先頭を佐伯さえきさんが務め、左右は渡辺さんと間宮さん、最後尾に俺と護の2人がついた。

 ちょうど銃を持たない菜月さんと有紗を取り囲むような陣形だ。



 くっ、何だよ、コレ……。


 少し拓けた道に出た俺は改めて街の荒廃ぶりに嘆息する。

 道には故障して乗り捨てられた車が転がっていて、いたるところに赤黒いシミが見受けられた。絶えることのない微かな腐臭。


 今のところゾンビは視認できないが、常にどこかに潜んでいる気がして足がすくんだ。

 それは皆も同じのようで、妹の有紗はもちろん佐伯さんまでもが緊張しているようだった。


 まだ現実味がわかねぇよ、そんなことを護も漏らしていた。



「む!」

 そんな矢先、その佐伯さんが左手を上げる。≪待て≫のハンドサインだ。


「……何かの気配がする、みんな注意してくれ」


 俺たちはすぐに身構え、周囲を警戒する。確かに彼の言うとおり、視線をかすかに感じた気がして、拳銃のグリップを握る手にも力がこもった。


 早速かよ……。


 はやる鼓動を抑えつつ、沿道の植え込み、車の陰、それぞれに視線を走らせる。


 どこだ? どこにいる!


 ガ、ガララ……


「「!?」」

 何かを引きずるような音がして、皆が一斉に音の出た方向に振り向く。


 俺たちの進行方向から見て左斜め後ろ、そこの溝の鉄板がずりずりとスライドしていく。


 息をのむ中、ゆっくりと視界に入ってきたのは――――


 ――――ゾンビだった。


 そこには側溝から体を半分だけ出した ゾンビがいた。

 下水道に潜んでいたためかその外見は白くふやけてより醜悪なモノになっている。


 アアァ、コォガァア!


 単純な行動原理が働いて、それは俺たちにうめき声をあげる。どうやら俺たちを餌と認識したようだ。


「うっ、このっ!」

 一番近かった護がすぐさま銃口をゾンビに向ける。

 一方ゾンビは体の途中がつっかえているのか、身をよじるだけで出てはこれないようだった。


 チャンスだ。その場にいた誰もがそう思い、護も引き金を引こうとしたとき……


「待て!」

 佐伯さんはそう叫ぶと、ゾンビに急接近した。

 そしてその勢いのままに――――


 バキィィッ……!!


 ――――蹴り飛ばした。


 黒い軍靴に吹っ飛ばされたゾンビの頭は数m先の路肩に落下し、グシャっと不快な音を響かせる。

 確認するまでもなく、残されたゾンビの体は動かなくなっていた。

 やはり急所は頭部のようだ。

 というより頭部を損壊させても倒せない相手なら、そもそもこの脱出作戦自体が無意味なのだが。


「弾の無駄遣いは極力避けてくれ」

 目の前で、死体の首がサッカーボールのように飛翔する。そんな常軌を逸した光景に、呆然とする俺たちに向かって彼は言った。


 すごい……。と妹が呟き、皆も同調する。

 俺も改めて彼を頼もしいと思った。



◆◇◆



 その後、運が良かったのか俺たち一行はゾンビに遭遇することなく30分ほど歩いた。

 横目に見える家や店、看板等がかつての街の面影を微かに残していた。


 ……ああ、これは現実なんだろうか。

 もう何度目かと思える疑問が湧きあがる。


 夢なら覚めてくれ。

 もう何度目かに思える淡い期待が脳裏をよぎる。


 もちろん十分に分かっていた。これは現実で、夢ではないことを。それでも俺は残りの1%に無理やりしがみつきたいだけだ。それを人は現実逃避と呼ぶのだろう。

 

 思えば逃げてばっかりだったよなぁ。

 退屈を感じることが多かったものの、今までの世界は逃げ場があるだけマシだったのかもしれない。


 そんなことを思っているときだった。またしても佐伯さんのサインがでて、俺たちは急停止した。


「な、なん――――」

 シッ、と佐伯さんは厳しい顔で慌てる護を黙らせる。

 俺も理由がわからずあたりを見渡したが、その答えは皮肉なことにすぐ分かった。


 アオーーン!

 獣の、遠吠えだ。狼や、犬のものに違いない。


 見れば前方の塀の上で、四肢をもった何かが俺たちを見降ろすように佇んでいた。


 どこまでも甲高く響く獣の声、それが合図だった。

 周囲の植え込みの陰から、車の裏から赤茶色の何かが飛び出す。

 それも一つや二つではない。


「ヒッ……!」

 隣で思わず有紗が身をすくめるのが分かった。


 それは今もっとも出会いたくなかった存在。角田たちを死に追いやった悪魔。



 ……ゾンビ犬だったのだ。



「構えろッ!!」

 佐伯さんの命令が飛ぶ。真っ先に反応したのは間宮さんと、渡辺さんだけだった。

 俺もすぐに臨戦態勢をとったが、やはり極度の恐怖に襲われていて足元がおぼつかない。


 ゾンビ犬。近くで見るとより一層不気味だった。

 個体差はあるものの全体的に中型犬ぐらいのサイズで、変形こそしていないが毛がほとんどなく、赤茶けた表皮に骨がむき出しになっている。


 白濁した目からすでに生気は感じられず、牙をむき出しにした口の端から滴り落ちる涎が、野性を際立たせている。


挿絵(By みてみん)


 双頭ではないが、ギリシャ神話の番犬オルトロスのようだ。ならばそれに立ち向かう俺たちは勇者ヘラクレスといったところか。


 教わったとおりに銃を構えて攻撃に備えたが、以外にも敵はすぐに襲ってくることはない。

数にして六匹。俺たちを包囲しているにも関わらず、唸り声をあげて威嚇するだけだ。まるで合図を待っているかのように。


 こちらの動きを見ているのか?


 そう思った瞬間だった。


 ウガァオォォッ!!

 群れの中で一番体格の良かった一匹が、佐伯さんに突進する。


 あまりにも唐突で俺も護も渡辺さんも反応が遅れてしまう。

 あ、と声がでる。



 何をしてるんですか、早く逃げて!

 菜月さんの悲鳴が響く。しかし、彼はただ眼前の敵を見据えたまま動かない。


 ゾンビ犬が大きく跳躍した。その牙を獲物に埋めるがために。


 マズイ! 誰もがそう思った。

 俺は背筋が寒くなって、目を堅く閉じた。



「っと、……ふんッ!!」


 ドガッ!


 ギャン!


 グシャ……!


 予想された悲鳴や苦悶の声の代わりに、俺の耳にそんな音が聞こえ、俺は顔を上げた。


 そこには銃を構えて悠然と立つ佐伯さんと、壁に叩きつけられたゾンビ犬の姿があった。


 し、仕留めたのか……?


 ズル……ベシャ!


 不快な音を立ててゾンビ犬は崩れ落ちた。その首は不自然な角度で止まっている。

 即死のようだった。


 す、凄い……!

 止まっていた時間が動き出したかのように、感動が押し寄せた。


「まだだ、気を抜くな!」

 俺たちにそう言うと彼は間宮さんに目で合図をする。

 それに頷いた間宮さんはハンドガンとナイフを水平に構えてゾンビ犬の中に突っ込んでいった。


 渇いた発砲音が辺りに木霊する。

 対するゾンビ犬たちもリーダ格を失ったことで動きが一瞬止まっていたものの、今度は一斉に襲いかかってきた。


「キャアア!」

「来るぞ!」

 迫りくる牙、爪、牙。すぐに場は混戦状態となった。


 俺と護の前にも一匹きて、有紗を庇うように俺たちは構えた。

 刹那――――


 ウガゥッ!


 鋭い牙と爪の洗礼が遅いかかってくる。

 正面からではなく横からの、別のもう一体による攻撃だった。


 遠吠えを聴きつけたのか!?


「うぉ!?」

 俺は紙一重でそれをかわし、反撃に転じようとする。

 だが現実はそう甘くないらしく、とっさについた左足がバランスを崩し倒れこんでしまう。



 とっさに引き金を引くも、銃弾が命中するはずもなかった。マズルフラッシュが俺の視界に残像を残し、排莢された金属の筒が、地面に触れてむなしい音を響かせる。


 くそっ!


 完全なる隙ができた俺に、もう一体の襲来をを防ぐ術はンこされていなかった。死臭漂う悪魔の獣が覆いかぶさってくる。


「ぐあぁっ!?」


 衝撃と恐怖でいともたやすく掌から銃がこぼれおち、一瞬で武装解除されてしまった。


「ユキ! くそ、邪魔すんな!」

 護が俺の援護をしようとするも他の犬に阻まれた。


「お兄ちゃん!」

 護や有紗のひっ迫した声や銃声が酷く遠くで聞こえた。


 ヴヴヴゥ……!


 唸り声とともに眼前に牙が迫り、そこから放たれる悪臭が鼻腔を満たす。


 ――死ぬんだな、俺。


 全てがスローモーションに見える視界の中であっさりと俺は死を覚悟する。不思議と恐怖は無かった。


 ったく散々な人生だったな……。


 そんなことを思いながら再び目を閉じる。




 ガァーン!


 ア、ウガァウ……ッ!


 諦めていた俺にデジャブを感じさせるような音がきこえた。


「……なっ!」


 思わず目を開けた俺は一瞬訳が分からなかった。遅れて薬莢が地面に触れ、キンッと高い音を響かせる。


 俺の上に崩れ落ちる肉塊でまずは犬の死を理解し、ついで未だ隣で奮闘している護たちを見た。


 そして最後に――――


――――すぐそばで呆然と佇む有紗の姿が目にとまった。その手には硝煙をあげる、鉄の武器。俺の銃が握られていた。



「もう、これ以上、家族は……!」

 息も絶え絶えに彼女はそう言うと、その場にへたり込んだ。恐る恐る体を確認するも、どこにもかみ傷は無かった。


 有紗が命を救ってくれた。俺はその事実をやや遅れて実感する。


 何か言おうと口を開いたが、その間に妹の背後にはまたもゾンビ犬が迫っていた。


 ――――――ッ!!


 俺の意識はそこで覚醒した。

 なぜこんなことが出来たのかは自分でもわからない。ただ、ただどこまでも必死だったのだろう。


 バキィッ!

 ギャオン!


 飛び起きた俺はゾンビ犬を蹴り飛ばしていた。着地と同時に妹の手から銃を借り、仰向けで地面に叩きつけられたソイツの頭にぶっ放す。


 発砲の反動が肘を襲われたが、構わなかった。


 クソが、クソが、クソがッ!


 もう十分だと分かっていても、俺はソイツがただの肉片ミンチになるまで踏み続けた。血肉がそこらじゅうに飛び散って路面を赤く染める。


 ハア、ハア、……やった、か。ざまあ、みろ。


 理性を取り戻しつつ、荒い息で辺りを見渡した時にはあらかた勝負がついていた。

 途中から数が増え、10匹ぐらいになっていた犬どもも、自衛隊の2人を筆頭に片づけられ、今や数頭にまで追い込まれている。


「間宮ぁ!」

「はい!」


 ガン! バン!

 ギャイン! ガゥッ! グシャ、バキッ!


 絶妙なコンビネーションが繰り出され、新たに二匹が倒された。

 最後の残党も、勝ち目が無いと悟ったのか文字通り尻尾をまいて逃げて行った。




「ふう、なんとか凌いだようだね……」

 渡辺さんが額の汗をぬぐいながらそう言った。

 渡辺さんは少し離れたところで菜月さんを守るように戦っていたらしい。

 2人とも服に返り血がべったりとついていたが目立つ外傷はなさそうだ。


「はあ、はあ、ユキ、無事か?」

「あ、ああ……」

 そして彼の言葉で思い出す。


「有紗、さっきは……助かった」

 俺は傍らの妹にそう言った。しかし当の本人は未だ実感が湧かないらしいく、こっくりと頷いただけだった。


「みんな無事だな」

 佐伯さんの呼びかけに全員が大丈夫だと返事をする。あれほどの戦闘にも関わらず一人も負傷者は出なかった。


 激戦を終えた俺たちは佐伯さんの指示で銃弾の補充を行い、怪我の確認をした後でまた進みだした。

 少し遅れてマガジンに弾を込め終わった俺も後に続く。


 危機は去ったものの皆、無言だった。誰もが生の脆さを、死の近さを、実感していたからだ。




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