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Infection-【抗】  作者: Scott
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第11話 自衛隊

 車の炎上後早急に作戦会議が開かれた。方々探したが校内に他に車は見つからず、正面突破は難しいと判断された。


 それに周辺は先ほどの騒ぎで奴らが集まっているし、何よりも例のゾンビ犬に襲われればひとたまりもない。


 下水道を使う案も出されたが、地下に迷路のように張り巡らされた下水管を地図も無しに進むのは無謀だと却下されてしまう。

 そんなこんなで会議は難航し、時間だけが過ぎていき、時刻はもう13時に差し掛かっている。総勢18名の表情が曇っていった。


 そんな状況に(いささ)か危機感を覚えたのか、お昼にしましょう、と菜月さんが明るく告げた。

 やはりこんな状態だからこそ、みんな食事には思い入れがある。各々(おのおの)が重い腰をあげようとした時だった。



 ……ん?


 何かが聞こえた気がして振り返ると、皆も耳を澄ませていた。空耳ではなかったようで、辺りが静まり返った。


 ……バラバラバラ


 音は確実に大きくなっていた。急いで窓に駆け寄ると北東の方角にヘリの機影が見えた。


「「ヘリだ!!」」


 そこからは早かった。言うなり皆が一斉に屋上に向かい、合図の花火を打ち上げて声の限りに叫ぶ。


 逆光で、詳しくは見えないが、大きな機体であることは間違いない。プロペラが二つも備わっている。

 

 幸運にもこちらに気付いたらしく、ヘリは校舎の上空で着陸態勢をとる。歓喜の声と共に俺達はグランドに向かった。


 普段なら学生が体育で、部活で、汗を流していたであろう校庭は、本日珍客を招き入れていた。

 そこにはニュースなどでしか見たことのない、大きなオリーブドラブ色の機体が着陸している。

 側面には日の丸と自衛隊の文字があることに、高揚を感じずにはいられない。

 ついに政府からの助けが来たということだ。

 プロペラとテイルローターの風圧が徐々に収まると、機内から迷彩柄の制服に身を包んだ20代後半の男性が降りてきた。


「遅れて申し訳ありません、自衛官の間宮(まみや)です。皆さんの救助に参りました」

 ワッと周囲が喜びに湧く。

「こちらには何名の方がいらっしゃいますか?」

 大人15名子供3名の合計18名です、と淀みなく菜月さんが彼に告げた。さすが看護師、こういったやり取りはお手のものだ。


 到着した自衛官は6名で、連絡途絶状態となった青海市周辺部の状況把握の為に、向こう街の半井なからい市、そこの対策本部から派遣された視察班だそうだ。

 救助活動が遅れたのは、例の通信妨害の影響と、国の許可がなかなか下りなかったかららしい。


 校庭でいまだ異彩を放つ機体は、UH-1Jという自衛隊の輸送ヘリだそうだ。

 自衛隊の乗組員4名を除く定員は11名だったので女性や子供、年配の方と負傷していた警官の佐々木さんを先に避難させることになった。

 護や菜月さん、俺と妹に理系の渡辺さん、そして自衛隊の2人を含めた7名は間宮さんが要請した次のヘリで脱出することとなった。


 あまりの急展開に、ヘリを見送った俺は一緒に残った若い自衛官、間宮さんに一礼してから質問した。

「無線使えるんですね…僕達のはみんな圏外なんですが」

 そういって携帯を見せる。画面の上部にはいまだ電波のアイコンが戻らない。


「どうもそうらしいな。だが我々のは特殊な波長を使っているから妨害電波の影響は受けにくいんだ」

彼の隣にいた自衛官が渋い声で答えた。歳は40にさしかかったぐらいだろうか。


 妨害、電波? 俺は自分の耳を疑った。


「視察班チームBの隊長の佐伯(さえき)だ」

 そういって俺たちに差し出された腕は筋骨隆々で日に焼けている。相当な経験を積んでいるに違いない。それほど彼にはリーダーの風格が漂っていた。


 その後、調査の為に俺達が事情聴取をうけていると、突然一本の無線が会話を遮った。それはさきほど飛び立ったチームBのヘリからのようだ。


 どうした、と佐伯さんが応答する。しかしノイズが大きくはっきりとは聞こえなかったので彼は音量を上げると、俺達にもその内容が漏れ聞こえてきた。


『……ザザッ――隊、長ッ! バサッ! 緊ッ――ザザ――ッ態発生! カラスッ、ザッ――至急本部に! ああぁァッ! クソっ、バサバサッ……うわっ――ギャァァ――ッ!!』


 ザ――――――――


 そこで無線は切れ、後に響くはノイズのみ。

「カラス、だと!? おい、伊藤? 岡崎、神田! 神田陸士長、応答せよ!!」

 彼は部下の名前を繰り返し叫んだが、応答はなかった。それは少なくともただならない事態が起こったことを意味していた。


 最悪の場合、墜落した、ということも。


「何てことだ……」

 自衛官の間宮さんが青ざめてつぶやいた。



 どうやら悪夢は覚めないらしい。もっともこれが本当に夢なら、それほど嬉しいことはないのだが……


 そのあとすぐに佐伯(さえき)さんは本部へ緊急要請を出したが、事態は急変していた。


『その要請は受理されません』

 スピーカー越しに女性オペレーターの無機質な声が響く。 


『チームBの前に相次いでチームA、C、Dの壊滅および、青海市駐屯部隊との連絡途絶が確認されています。実態が把握できない中での増援は無謀だと判断されました。よって、あなた方2名は現場待機を願います』

 言うだけ言って一方的に無線は切れ、一切反応しなくなった。


「ふざけている!」

 比較的温厚そうな間宮さんが憤慨する。そんな部下を佐伯さんはがたしなめた。

「落ち着け間宮、我々が取り乱してどうする」

「す、すみません。つい……」

 即座に謝る素直な部下に頷くと、彼はこちらに向き直った。


「聞こえていたとは思うが、先ほどのヘリが墜落した。加えて応援は望めないとのことだ」


「もともと、政府は救助活動には乗り気ではなかったところを我々が強引に実行しただけだった」

 騒然となりかけた場の空気を佐伯さんは片手を軽く挙げて(しず)めた。


「外部からの助けが来ない以上、自力で脱出するほか道はない。そのためには」

 そこで彼は少し間をおく。


「一度冷静になり我々は慎重に、考えて、行動する必要がある」

 特別な台詞ではなかったが、その低く深い声は俺達を不思議と落ち着かせた。


 1時間後には彼の指示で、残された7人が荷物や装備を整えてグランドに集合した。

 食糧や装備品をつめた荷物は思いのほか軽かった。背負おうと持ち上げたときに何かが地面に落ちたので見てみると小さなクマのストラップである。


「あみちゃん……」

 それを拾い上げた菜月さんが悲しみの声を漏らす。


 あの子の忘れものか……。名前まで知らなかったが、俺にもある少女の顔が浮かんで、懐かしさと悔しさを噛みしめた。


「源さん、小野さん、佐々木さん……!」

 故人の名前が呼び水となり、彼女の頬を雫がつたう。


 そんな彼女に手が差し出された。長身の青年、護だ。

「生きてここから出ましょう。みんなの分まで」

すると彼女は驚いた様子で護の顔をまじまじと見た。


「え……」

 菜月さんは目を見開いていた。まるで、護が信じられないことでも言ったかのように。


 彼女の頭の中に遠い過去の記憶が(よみがえ)る。忘れられないあの記憶が――――――




加川 菜月には事件の前から行方不明の彼氏がいる設定です。

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