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窓際のやる気

掲載日:2026/06/19

短編です

 今年に入って突然、移動を言い渡された。行き先は「落とし物係」。なんだよその小学生のクラス係みたいな名前の部署。って言うかどこだよ。

 荷物を抱えて、指示された地下の部屋に行く。地下って時点で窓際確定じゃん。大きなミスとかしたわけじゃないと思うんだけどなぁ・・・。

 悔しい想いを抱えつつ、初めて見る部署に入ると、そこには初老の男性がいた。

「あ、お、お疲れ様です」

「あぁ、今日からだってね。聞いてるよ」

 優しい笑顔の爺ちゃん先輩は部屋にただ一人。薄暗い部屋には棚が沢山置いてあって、色んなものが置いてある。ってかここ物置じゃね?

「落とし物係って何する部署なんですか?」

「まぁ名前の通り、だね」

 柔らかく笑ってるけど、それって厄介払い的な扱いされてるんじゃないのか?

「まぁ、地味な部署で、いわゆる“窓際“だけど、それなりに需要のある部署だからさ、これから一緒に頑張ろうね」

 そう言って爺ちゃん先輩は俺にお茶を淹れてくれた。

 部屋の中を物色していると、使いかけのリップとか、ペンとか、なんかこう、失くなってもまぁ新しいの買えば良いかみたいなものが沢山保管されていた。こんなの早く捨てちゃえばいいのに。

 隣の棚に目をやると、そこには「やる気」と書かれた箱が置いてあった。その隣には、好奇心とか、自信とか勇気とか、実体のないようなものの名前が棚を占拠していた。

「え、これって」

「たまにいなかった?昨日まで元気だったのに、翌朝急に元気なくなっちゃった人とか、なんでも聞いてくる後輩が、だんだんやる気を失っていったり」

「あぁ、ありましたね・・・」

「そう言う人って、大事な何かを落としちゃうんだよね。んで、ソレがいつの間にかここに集まるんだ。持ち主が分かっていれば、その人に返しに行くんだけど、そう言う実体のないモノは、誰のかわかりにくいことが多いからねぇ」

 さも当たり前みたいに言ってるけど、つまりそれって空箱って事じゃん?箱を開けると何やら球体のような物がゴロゴロ入っていて、確かに空ではないけど、コレ、どうする者なの?

 箱を開け閉めするとホコリが舞った。

「あの、この部屋・・・掃除しませんか?」

「掃除ねぇ。そうだね、そろそろ処分しなくちゃいけないモノもあるからねぇ」

 爺ちゃん先輩の重い腰を何とか持ち上げさせて、とりあえず実体のあるモノたちを片付ける。

 片っ端からゴミ箱に入れる俺を見て、爺ちゃん先輩は何も言わずに見守ってくれた。

 鍵とか、金銭に関わるものを残して、大半はゴミになった。

「さて、じゃぁ・・・」

 と実体のない方に目を向けると、爺ちゃんが、「これには処分方法があるんだ」と言って、とりあえず「やる気」の箱を持って部屋を出た。俺もそれにとりあえずついていく。

 ほかの部署を回って、ぼんやり過ごしている人に声をかけていく。軽く話を聞きながら、爺ちゃんがそっと箱の中から球体を取り出して、話した相手に押し込むと、球体は消えてしまった。その瞬間から、やる気のなさそうだったやつの目に、生気が宿って、仕事に懸命に打ち込むようになった。

「ソレが処分方法?」

「そう、誰のかわからないから、必要そうな人にあげちゃうの」

 そう言って爺ちゃんは笑っていた。なるほど、今までに元気のなかった奴が、急に元気を取り戻したりしていたのは、このおかげだったのか。ただの窓際かと思ってたけど、それなりにやりがいはありそうな気がしてきた。

 部屋に戻って、“やる気”の箱を解体しつつ、爺ちゃんと雑談する。もっとこの部署の事を聞きたい。

「今までにどんなやつがあったんですか?」

「うーん、そうだねぇ、結婚願望とかが届いた時は、どうしようかと思ったんだけど、去年38歳で寿退社した子、いたでしょう?あの子にあげたらすぐに相手が見つかってねぇ。あれは良いことをしたと思うよ」

 爺ちゃんはほかの部署の社員たちの事をなんとなく知っていて、「時々散歩がてら社内を歩いて人を見ていたんだ」と言った。人を見る眼があるってのはすごい。

「この仕事をしていて、楽しみが増えたんだよ~」

 お茶をすすりつつそう言った爺ちゃんは、いつも通りの柔らかい微笑みを浮かべた。

「以前“浮気癖”が届いたことがあってね、こっそり社長にあげたんだ」



——・・・え?——

だからまだこの仕事、辞めないんだ~♪

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