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天ぷらにトマトケチャップ!

作者: イトー
掲載日:2026/04/12

 天ぷらには何をつける?

 そう聞かれて、人はなんと答えるだろうか。


 オーソドックスなところで天つゆ。

 しょうゆで食べる層も結構いると聞く。


 通なら塩で素材の味を楽しむのが粋ってもんだ。


 そんな主張も聞くが、一口に塩といっても。

 藻塩、柚子塩、抹茶塩、梅に七味にカレー塩。

 いつの間にやら、ずいぶんとバラエティ豊かになっている。


 選択肢は多いものの、目玉焼きに何をかけるか論争ほどには紛糾しないだろう。


 魚介や野菜、食材ごとにチョイスできるし、お好みで混ぜて使ってもいいのだから。

 そう、天ぷらは何につけても自由だ。


 これはその自由を語る、毒にも薬にもためにもならない、本当に他愛のないお話。

 もしかしたらちょっぴり、自由の意味を履き違えているかもしれないけれど。


 うちは、今は天つゆとしても使えるめんつゆ、昔はしょうゆで食べていた。

 抹茶塩などを家で使ったことは両手で数えられる程度。

 外食で天ぷらを頼むのは、うどんやそばのトッピングくらい。

 つまり、天ぷら経験値は人に誇れるものではない。

 と最初に断りを入れておく。


 あるとき、家で揚げた野菜の天ぷらを前にふと思った。


 これ、なにか変わった食べ方はできないだろうか?


 天ぷらは天つゆで食べる。

 その通念を破り、さらなる食の追究をしたい。

 なんて、美食家めいた高尚な発想はさらさらなくて。


 思いつきで普段と違う食べ方を試してみたくなる。

 昔からの、興味本位でやる子供じみた悪いくせだ。

 いい歳した中年がテメェでそう言うんだから、もはや一種の宿痾しゅくあだろう。


 ただし、やるのは自分の分だけ、外では絶対しない。

 ファミレスのドリンクバーでも、つねに誘惑に打ち勝ってきた。

 なにより厳守するルールは、たとえどんな味になろうと絶対に残さないこと。

 決して食べ物を無駄にして遊んでいるわけではない。


 で。

 思い立ったが何の準備もなく、都合よく気の利いたシャレオツな調味料も無いなか。


 目をつけたのが、たまねぎの天ぷらだ。

 ちなみに、私はパン粉を使わないタイプのオニオンリングフライが好物である。

 具体例を挙げるとモスバーガーのやつ。


 天ぷらは外はサクッと、中はしっとり柔らか。

 一方、フライは衣がよりクリスピーで、カリカリの食感が楽しめる。


 2つの料理はイコールではないが、類似点は多い。

 たまねぎに限らず、切り方や工程のわずかな差で呼び名が行ったり来たりする場合もある。


 ならば、オニオンリングの食べ方も天ぷらに十分通用するのではないか。


 両方とも、味付けは塩でもいける。

 だが、そんな共通項になんの意味があろうか。

 求めているのは、従来とは違う食べ方だ。

 

 私はそこで「トマトケチャップ」を選択した。

 普通、天ぷらにケチャップをつけたりはしない。

 例外的に出される家や店があったとしても、極稀ごくまれのはず。


 だからこそ、オニオンリングと同じようにケチャップにディップすることを選んだ。


「ディップだとかカッコつけた横文字使いやがって。それに天ぷらにケチャップなんて和食への冒涜だ」


 こういった感想をいだく方もおいでのはず。

 ええ、おっしゃりたいことは分かります。


 まずディップですが、液体にひたす、すくい上げる、などの意味がある言葉です。


 天ぷらを天つゆにひたすのも。

 刺身をしょうゆにつけるのも。

 トルティーヤ・チップスでワカモレをすくうのも。

 どれもみな、ディップ、なのです。


 それから天ぷらは、料亭で出されたり、職人が対面で揚げる専門店もある料理ですね。

 格式と伝統を兼ね備えた和食の顔と言っていい。


 けれど、江戸時代までルーツをたどれば、もともとは屋台で、揚げたてを串に刺して食べていた庶民の食べ物。


 この、ふらっと寄った店で、揚げ物を気軽に、片手で食べられるファストフードの距離感。

 現代で近いものを挙げるとしたら?


 多分、コンビニのレジ横にある、ホットスナック辺りではないでしょうか。

 これも、天ぷらのもう一つの顔。


 VIP御用達の仰ぎ見るような老舗高級店もあれば、スーパーの惣菜コーナーに、一般人の目線とお財布に合わせた価格帯で並べられるものもある。

 これらを両立できるのが、天ぷらという料理の奥行きと懐の深さ。


 江戸前のネタ以外にも、時代や地域ごとに新しいネタが生み出され、受け入れられてきました。


 うちの定番にも魚肉ソの天ぷらがあります。

 広義に魚のすり身と考えれば、元は、ちくわ天から発想を得たものなのかもしれません。


 ですから、かたに縛られない自由な味変も、和食の名をけがす、といったそしりを受けるほどのものではないと考えています。


 以上、弁明いいわけ終了。



 まあさ、自分ちで作って食う日常の食事なわけよ。

 いつもの、おうちご飯ってこと。

 大切なお客様に振る舞うでも、料理コンテストで披露する力作でもないさ。

 だから無作法かもしれないけど。

 思うがまま、勝手気ままな食べ方をしたって、いいじゃありませんの。ねえ。


 というわけで小皿にケチャップを用意して、実食。


 ──うん。

 一口食べて、うなずく。


 美味しいものを食べると、顔が自然にほころぶという。

 そのとき、私の口角は上がっていた。


 これは当たりだ。


 柔らかな衣とたまねぎの甘さがケチャップとよく絡む。

 フライほどサクサクではない分、かえって口当たりが優しくなっている。


 想像の範囲内ではあったが、自分の中で新たな食べ方が確立した瞬間だった。


 こうなると、期待していろいろ探りたくなるのが人のサガというもの。


 次はかき揚げだ。

 長ねぎ、たまねぎ、桜えび、にんじん。


 にぎやかな歯触りと食感、各々の野菜が持つ自然な甘みにケチャップの酸味が混ざり合う。

 天つゆとは別の形での渾然一体。


 にんじんだけの天ぷらも、やや甘めではあるが十分美味しくいただけた。


 続いてナス。

 ナスの天ぷらにケチャップが合うのか?


 合っちゃうんだなぁ、これが!


 ナスはトマトソースやホワイトソースを使った料理の具にも使われている。

 漬け物、炒め物、揚げ浸しに、お馴染みの麻婆ナス。

 オールラウンダーで活躍する万能選手だ。

 さすが、ここでもそのポテンシャルを発揮するか。


 関係ないけど、個人的なベストは、ごくシンプルな焼きナスの生姜醤油がけ。


 ケチャップと野菜の天ぷらは相性がいいらしい。

 が、意外だと首をかしげるほどでもなかった。

 野菜の揚げ物の代名詞たるフライドポテトも、最初に思い浮かぶディップはケチャップだ。 

 世界中で愛される、あのフライドポテトだよ?

 なら野菜には合うってことだろう。


 と大雑把に結論づけつつも。

 ピーマン、カボチャ、ししとう、舞茸。

 この辺はどちらかと言えば天つゆでいいかな。

 舞茸はよそで食べた、軽く塩を振るほうが好み。


 これらもケチャップで食べるのも悪くはない。

 と思えてしまうのはきっと、私が大のケチャップ好きゆえの、ひいき目だからに他ならない。


 口の周りが赤くなるくらいの濃いナポリタンが好きだし、オムライスも大好物。

 酢豚のあんもケチャップ多め派だ。


 最初に野菜と書いた通り、このとき海鮮はなかった。

 海のものは基本、スーパーの惣菜で済ませてしまう。


 イカ天は以前に中濃ソースと七味マヨネーズしょうゆを試して一応満足した。

 海老天も、タルタルソースはもちろん、ベトナム風のスイートチリソースでも及第点以上を叩き出しているので、次の機会にオーロラソースやドレッシング系で攻めてみたい。


 話題が脱線しないうちに、話をまとめよう。

 天ぷらにケチャップを合わせてみる。

 個人的に有意義で面白い試みだった。

 天つゆには出せない、洋に大きく傾いた味わい。


 逆に考えると、フライに和風の味付けが合う、というパターンもあるかもしれない。

 トンカツの甘い煮付けはその系統だし、アジフライにはかなりの割合でしょうゆ派がいる。

 こちらもきっかけがあれば試したい。


 洋の東西の境を越えた、新たな和洋折衷。

 今回のケチャップ天ぷらにその可能性を垣間見かいまみた。

 と言えなくもない。


 しかし。

 やはりチャレンジ精神は大事だ。

 いつだって、良くも悪くも新たな発見を与えてくれる。

 発見は人生の刺激となり、心を動かされる。

 これから見える景色さえ変えてくれることも。


 ときに、人の精神がいつ老いるか、ご存知ですか?


 一説には、既存の価値観を絶対視し、新しいことを疎ましいと考え、挑戦など億劫、面倒だと。

 そう思うようになったとき、人は意欲を失い、精神面から老いていくのだといいます。

 精神の老いは肉体の老いを伴う、とも。


 つまり、探究心を失わなければ、人は老いない。

 なんにでも挑戦、いつだって冒険してみるのさ。

 

 この味変チャレンジで得た新たな発見は、

「一部の野菜天ぷらはトマトケチャップに(個人的に)よく合う」


 そして身にしみた教訓は、

「美味しくても、油ものはほどほどにしよう。歳を重ねると、やっぱり胃もたれするから」

 といったところか。


「お前、胃腸が年齢相応に老いてるじゃねえか! さっきの老い云々の話はなんだったんだよ!?」

 と突っ込まれそうな、前述と一切矛盾した一文で、このとりとめのないエッセイを結ばせてもらおうと思う。

※個人の感想です

※味覚、感じ方には個人差があります

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