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6話 悪意は反転し悪態という名の優しさに変わる

「守り人さんは貴方ですか?」


優しい話し方ではあるが、

冷たい声で私に声をかけてくる。


「はい、そうです、

貴方は移住希望の方でしょうか?」


なるべく動揺を見せないよう、

淡々と声を発する。

目を見られている。

鋭いナイフを突き付けられている

かのような錯覚に陥る。

その冷たい目から視線を

離してはいけない気持ちになり、

視線を外さなかった。

外せなかった。

すると男が少し微笑みながら

鼻でため息を吐く


「一筋縄ではいかない様ですね。

すみません、

試すような事をして。

移住希望なので

お話宜しいでしょうか?」


「かしこまりました。

準備しますので、

お席についてお待ち下さい。」


いつもの様に、ひろ子に

合図をしてからお客さんからお代を頂く。

そして3人で個室に向かう。


「あの、すみません、

後ろに居られると落ち着かないのですが、

なんとかなりませんか?

昔の仕事柄後ろが

どうにも気になりまして…」


「そうですか、ひろ子、

今回はこちらで頼むよ」


そう伝えると

ひろ子が私の隣に椅子を運んで来る。


「審判の天秤」


ひろ子の瞳がグレーに変わる。


「判断基準の一つとして

ギフトを使用させて頂いております。

決して害はございませんので

ご了承下さい。」


男の目が鋭くなり、

ひとみががギラリと黒く光る


「構いませんよ、

こちとら今までさんざん

人の悪意に触れて来ましたから。

私は楠正人と言います。

よろしくお願いいたします。」


言葉と雰囲気が全然あっていない。

拳銃でも取り出しそうな雰囲気だ。


「失礼致しました。

私は長谷部潤と申します。

彼女は妻のひろ子。

二人で守り人をしております。

改めてよろしくお願いいたします。

因みに今回、

楠様が移住を希望する理由を

お聞かせ願えますか?」


偽名は使用していない様だ

ただ、何かギフトを使用しているのでは

ないかと思う程部屋の中の空気が

重たくて冷たい。


「今まで人様に迷惑ばかりかけてきた。

見れば分かるだろうが

胸を張って言える仕事じゃあない

悪どい事をさんざんしてきた。

どこでの垂れ死のうが、

知ったことではないが、

その前に人様の役に

たてるような事をしてみたい。

人でなしとばかり付き合って来た。

だから……。

人と関わりたい……。

以上だ」


ひろ子の反応を見なくても分かる。

心から発した言葉だ、

真っ直ぐ過ぎる程

真っ直ぐに言葉が飛んで来る。

真っ直ぐ過ぎて、

目をそらしたくなる。


「具体的にどのような

人の役にたつような事をお考えですか?」


だめだ、

しょうもない質問しか出てこない。


「仲間を探している。

ハンター、冒険家、その他、

命を削ってでも人様の

役に立てる仕事をするつもりだ。」


このままでは不味い、押し負ける。

守り人として、

正しい判断をするのが使命だ。

一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

心に冷たさが降りてくる。


「ひろ子、もう能力はつかわなくていい。」


心配そうに一度頷き、

ひろ子の目が黒くなった。

とたんに正人が口を挟む


「潤さん、雰囲気変わったね、

その目だよ、

そんなあんたと話がしたかった。

腹を割って。」


正人はホントに移住希望なのか?

ただ、寂しくて話相手が

欲しいだけだったりして。


「失礼しました。

正人さんでしたよね。

違っていたらすみません、

極道をなさっていたような雰囲気ですね。

そんな方が人様の為にとは、

なかなか面白い理由ですね。」


正人はフンッと鼻を鳴らして話し出す。


「だからこそだよ。

今まで人らしい生き方をしてこなかった。

だからこそ、

だからこそ、これから先は

死ぬまで人として全うに

生きたくなったんだ。

折角、人として生まれたのに、

外道のまま終わったら……。

申し訳ないだろ、

人として産んでくれた……

お袋に……」


ほんとは正人は優しい人間なのだろう、

どこかでボタンをかけ違え、

道を踏み外しただけ、

一度踏み外すと

後はズルズルと体を引きずりながら、

イバラの中を歩いて来たのだろう。


「許されたいから甘えてるだけですよね、

地球に居ると皆、

貴方に同じ目線を送って来る。

いや、貴方自身を

見てさえくれない人生だったんでしょ?

それを異世界を使って人生をやり直し、

甘っちょろい考えだと思いますがね。

どうせやり直しても失敗したら逃げて、

投げ出すんじゃないですか?

今の貴方みたいに。」


正人はそんな人間ではない。

分かっている。

分かっているが、

こう言わなければ彼を救えない。

彼は許しなど求めていない。


「まあ、好きにどこかで

の垂れ死ぬのも貴方の人生でしょう、

好きにして下さい。

ああ、そういえば

町外れのバーでSクラス冒険者が

人手を探してましたよ。

あなたがハイクラスダンジョンに行っても、

すぐに魔物にやられてしまうでしょうがね。

家は適当に探してください

では、しょうもない人生のしめくくり、

たのしいたのしい異世界の旅~

どうぞ、ご勝手に

いってらっしゃ~い」


言い終わってから……

彼に気づかれない様に……

奥歯を強く噛みしめる。

これでいい、

いや、これがいいのだ。

正人はうつむいたまま机を両手で叩き、

黙って個室の出口に向かう。

部屋を出る直前、

こちらに顔を向け、

言う


「ありがとうございました」


笑顔で、

消えそうな声で、

頬には一筋の涙が光っていた。


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