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第三王女 「帰還」

 夜明けには、まだ遠い。


草と土の匂いが残る場所で、

護衛隊長は一度、足を止めた。


その瞬間、

第三王女の手が、迷いなく彼の腕を取った。


「……ひどい格好ですね」


第三王女の声は、低く、落ち着いている。


護衛隊長は苦笑して、肩をすくめた。


「殿下こそ」


だが、彼の重心は、わずかに外れていた。


第三王女は、それを見逃さない。

言葉を足さず、体を寄せ、肩を貸す。


支えられる側になったことを、

護衛隊長は拒まなかった。


城へ戻るため、

別に用意された馬車が待っている。


王家の紋章はない。

だが、護衛の配置が、

“誰が中心か”をはっきり示していた。


第三王女が前に出る。

護衛隊長は、半歩遅れて続く。


歩調は、第三王女に合わせられている。


「覚悟は、出来てる?」


今度は、第三王女が問う。


護衛隊長は、少しだけ視線を下げ、

それから前を見据えた。


「……はい」


短い答え。


第三王女は、歩みを緩めない。


「大丈夫。

 ここからは、私が前に立つ」


それは慰めではない。

宣言だった。


馬車の前で、第三王女は一瞬だけ立ち止まり、

護衛隊長を見た。


「あなたは、

 私の後ろでいい」


護衛隊長は、静かに頷く。


「……承知しました」


二人は、

横に並ぶのではなく、

王女が一歩前で、

護衛隊長を連れていく形で進む。


守る者と、守られる者。

その役割は、確かに入れ替わっていた。


だが、

信頼だけは、変わらない。


馬車の扉が閉まる。


蹄の音が、静かに響き始めた。


城へ向かって。

王女が前に立ち、

護衛隊長がそれを信じて歩く夜だった。


城門の内側に入った瞬間、

張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。


「ご無事で……本当に、よかった」


「お怪我は……?」


「殿下……!」


兵士たちが、口々に声をかける。

それは形式ではなかった。

今夜の出来事を、

まだ正確には知らないままの、

純粋な安堵だった。


第三王女は、小さく頷く。


「ご心配をおかけました」


その一言で、

兵士たちの肩から、

ほんの少し力が抜ける。


護衛隊長は、

その様子を半歩後ろから見ていた。


――ここまでは、想定の範囲だ。


だが。


次に交わされた、

低く、短い報告の一言が、

空気を変えた。


「……拘束した者は、

 この国の人間ではありませんでした」


第三王女の足が、止まる。


「街の噂では見かけない顔です。

 言葉も、訛りが違う」


別の兵が、続ける。


「馬車の手配経路が、

 正式なものではありませんでした」


「臨時、ではありますが……

 偶然にしては、出来すぎています」


その場の温度が、一段、下がった。


第三王女は、

ゆっくりと振り返る。


護衛隊長と、

一瞬だけ視線が交わる。

言葉は、要らなかった。


――これは、ただの夜盗でも、

偶発的な誘拐でもない。


兵士の一人が、

慎重に、言葉を選びながら告げる。


「……殿下。

 事態は、

我々が想定していたよりも……、

深刻かと」


その言葉を、

誰も否定しなかった。


第三王女は、

静かに前を向き直る。


「分かりました」


声は、揺れない。


「ありがとう。

 ことの詳細は、

すべて陛下の前で話します」


それは、

逃げでも、丸投げでもない。

王女としての判断だった。


兵士たちは、無言で頭を下げる。


彼女が、

もう“守られるだけの存在”ではないことを、

はっきりと理解したからだ。


城内の灯りが、さらに増えていく。

この夜は、まだ終わらない。


そして――

この出来事は、

第三王女一人の問題では、

もうなかった。


他国の人間が絡むということは……。

どの様な立場の者かすらわからない。


最悪の場合、

国同士の問題になる恐れも考えられる。


事態はより深刻な方向へ、

向かおうとしていた。

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