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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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08.支えてくれる人たち

 特殊部隊の本部に来たのはどれくらいぶりだろう。

 建物のどこに何があるのか把握していないので、春日先輩のあとを追ってたどり着いたのはだだっ広い部屋。部屋というより体育館のよう。本当に広い。

 靴を脱いで下駄箱に入れたけどスリッパなどはなく、着古している靴下がとっても気になる。靴を脱ぐならもっと綺麗なのを履いたのに……。後悔しても仕方ない。


 だだっ広い場所には特殊部隊の人たちがバラバラに離れていて、それぞれが何かをしている。

 ジグソーパズル?

 絵を描いている?

 紙に針をブスブス刺しているあの人は大丈夫なんですか?


「ゲート班は初めて見たかしら? 人それぞれ異能を行使する姿が違うのよ。あれでみんな真剣に任務中なのよ」


 どうやって? ……と疑問になる光景。

 一番多いのはほぼ真っ平らまで倒したリクライニングチェアに寝転がり、微動だにしない人たち。みんな揃って仮眠中?


「お〜い、ゆぅとぉ〜」


 だいぶ遠くから名前を呼ばれ、顔を向けたら大先輩の関根さん。秘密基地にある帰還エネルギー室で籠城生活しているとばかり思ってたから、本部にいることにちょっと驚いた。


「なあ、聞いてくれ。たかだか十日風呂に入らなかったくらいでエネルギー室から連れ出された。酷いと思わんか」

「ちゃんとお風呂に入らない関根先輩がいけないと思う」


 そうだよね。関根大先輩だもんね。怒られて連れてこられたんだね。

 関根大先輩はマイペース過ぎて、まわりが頭を抱えることをしでかしてくれる。帰還エネルギー室に閉じこもり過ぎだってば。


「じゃ、勇人くん頑張ってね」

「え! 春日先輩帰っちゃうんですか?」


 関根大先輩は中学教科の勉強を教えてくれていたときは優しい爺さん先生だったけど、それ以外はなかなかポンコツだって僕もよーく知ってる。

 このだだっ広いところに布団を敷いて枕を抱えて寝てた関根大先輩が、急に何をしでかすか……。制御できる気がしないんですが……。


「いてあげたいけど、アタシも別件あんのよ」


 そうでした。春日先輩は今本部で異能の訓練監督している。この夏は家で主婦満喫のはずなのにと、さっき愚痴を聞いたばかり。

 あれ? その愚痴の裏を返すと春日先輩の当初の予定なら、この夏は訓練監督に就く予定はなかったってことでは? 

 夏木先輩が急に任務になった。

 秋葉先輩は秘密基地で管制塔って言ってた。父の代わりかーって流して聞いちゃったけど、何かがあるから司令官を担っています管制塔。

 そういえば、もう一人の自由人、柊先輩もずっと姿を見てない。


 ──もしかして何かが動いてる?


「なぁに? 勇人くんはいいのよ。のんびりで。まだ異能も訓練中なんだし。大人の仕事を気にしないの!」

「のんびりするからエネルギー室に帰してくれよぉ」

「じーさんはしばらくここよ! まったく、食事もテキトーだし! 風呂は毎日入る!」


 春日先輩も関根大先輩を叱るけど、耳に痛いことは右から左。春日先輩の顔を見上げながらゴロンと寝転がってしまうし。春日先輩もがっくりだよね。そのタイミングでスマホが鳴り、誰かに呼び出されて行ってしまった。


「あの、僕はゲート班で任務って聞いてきたんですけど、関根先輩は違うんですか?」

「ボクは風呂に入る、食べる、寝るが仕事だと」


 えぇぇ……。それを仕事と言われるくらいエネルギー室に閉じ籠もってたってことで、本当に無理しすぎだよ。

 僕は『鑑定』を応用した何かって言われたけど、関根大先輩に預けられたわけではないらしい。単に顔見知りがいたからここに置いていかれた感じ。

 どうすればいいんだろう。

 一番近くにいる人に声をかけ……にくい。だってぶつぶつと何かを言って無心で紙に針をブスブス刺しているんだもの。春日先輩の言葉によれば異能を使っている最中だろうし、ジグソーパズルみたいなものをやっている人もちょっとな……。

 若干呆然となりかけたら、僕がいるところからだいぶ離れたところのリクライニングチェアの仮眠集団が一斉に動き出してビクッとしてしまった。


「ぬあー、終わりが見えないなあ」

「こっちは何も見つからなかった」

「あー、久々に手足が震えてる」

「汗だく気持ちわりぃ〜。着替えようぜ」

「佐々木のチームは上がりだ。お疲れー!」


 わいわいと動き出し、何人かは立とうとして立てずに床にしゃがみ込んでいる。揃いも揃ってパジャマのような格好のくたびれたオジサン軍団。

 ……と、床にしゃがみ込んでいた一人のオジサンと目があった。


「ん? もしかしなくても五十嵐勇人くん?」

「あ、は、はいっ!」


 声が上ずってしまったけれど、ビシッと背筋を伸ばす。仮眠していたオジサン集団にしか見えなかったが、特殊部隊の先輩であることに変わりない。挨拶大事!


「到着が遅れていたようだったから、任務に入ってしまったんだ。出迎えられなくてすまなかったね」

「いえ! あの! 申し訳ございません!」

「ははは、そんなに緊張しなくていいよ」


 白髪混じりのオジサンはリクライニングチェアを支えに立とうとしたけど、ふらついてしまってまた床にしゃがみ込んでしまった。

 十メートルくらい離れていたのを小走りで詰め、オジサンを近くで見れば、おそらく異能疲労。手足が震えて汗も凄い。


「支えますので着替えの場所に行きましょう!」


 異能疲労はリラックスして休むのが一番。さっき着替えると言って出て行った人がいた。あの扉の先にロッカールームがあるんだろう。

 意識があって血汚れも腐臭も外傷もないならぜんぜんいい。介助なら任せてください!


「すまんね。足に力が入らなくてね」


 僕はひょろひょろチビだけど、オジサンは中肉中背でそこまで背は高くなく、肩を貸せば歩けた。

 僕が入室した扉とは別の扉を出たら、男女別のロッカールームの扉があり、男性用ロッカールームに入る。ロッカールームは休憩室も兼ねているような感じ。


「まだ名乗ってなかったね。私は志村という。ゲート班の班長を任されている」


 班長さん! 役職があるってことは偉い人。僕の名前も知っていたし、布団に転がっていた関根大先輩と一緒にいたら途方に暮れそうだから、この人にくっついておこう。


 その決断は正しかった。

 ロッカールームの隣が浴場とシャワールームで、湯を浴びるだけでも汗の気持ち悪さから解放される。湯に浸かるのは退勤前だけにしているらしく、志村さんたちは順番にシャワーで汗を流して、またパジャマのようなラフな格好に着替えていた。

 異能の酷使で汗びっしょりになるので、着替えやすい服がよいと行き着いたのが、どうみてもパジャマ。これがゲート班の制服。


 ゲート班は派手な異能は酷使できない人が多い。志村さんは地味だがねと自虐的に笑って説明してくれたけれどとっても重要な部隊だ。

 父やチーム四鬼のように異世界に救出に出向くのは最終手段。

 異世界に行くのは命懸け。

 異世界に出向く危険を冒さなくても安全を確保できるのが一番いい。

 そのためにゲート班はある。

 拉致させない。

 侵略させない。


「……君のことを、君が、連れて行かれる不意を作らせてしまった我々を、守れなかったことを許してほしい」


 ──君が生きて戻ってこられてよかった。


 不意の謝罪。

 反射的に思った。

 この謝罪をそのまま受け入れちゃいけない。

 僕のあの事件がゲート班の不手際だったことになってしまう。

 違う。

 ゲート班のせいじゃない。


 異世界に連れ去られたとき、何で僕がこんな目に遭わなきゃならないのかと支離滅裂になり、発狂しかけたのも事実。

 だけど、僕は僕を取り戻して、学んだ。

 異世界召喚のすべては身勝手な異世界のせい。

 どんなに手を尽くしても完全はなくて、だから特殊部隊は日々頑張っている。

 今の僕は、わかってる。


「あ、たまを、あげて、ください」


 気づけば志村さんだけでなく、ロッカールームにいた他の人たちも正座で頭を下げていて、僕は一人ひとりに頭を上げてくださいと言ってまわった。

 たらればを言っても過去は覆らない。

 僕は、生きて、ここにいる。


「あの、春日先輩に『鑑定』の応用でゲート班を支援する任務だと聞いて来ました。僕にできることを教えてください」


 志村さんがなかなか頭を上げてくれないから、今度は僕が頭を下げる。


「君は……、強く、強くなったね。よかった……よかっ……」


 志村さんもロッカールームにいたオジサンたちが目を拭う。何人かは僕が病室の隅で奇声をあげていた姿を知っていた。


「こんな風に返されるとは……。お父様とお母様の教育の賜物だね」


 父と母だけじゃないと思う。

 今の僕になれたのはとことん僕に寄り添ってくれた清水医師、富田医師。あの秘密基地で時間を見つけては僕を見守ってくれたたくさんの特殊部隊の人たち。

 そのたくさんの人が動けるよう、本部で任務にあたってくれたすべての人の協力があって、僕は僕を取り戻せたんだって、そう教えてくれたのはさっき不貞腐れて寝転がった関根大先輩。任務外だと好々爺というのがピッタリの本当にいいお爺さん。

 僕が特殊部隊の一員になれる者だと候補に挙がったとき、関根大先輩も父同様に最初は候補から辞退していいんだと反対だった。任務なんて放り投げて自由に生きなさいって、自由人の関根大先輩に言われてちょっとおかしかった。でも、僕の意思を汲んでくれてからは中学校の授業にはないことも教えてくれた。


 警察がいるのになんで犯罪が起きたんだ!

 医者がいるのになんで病気になったんだ!


 そういう捻れた思考で責任転嫁の苦情を喚き散らす人もゼロではないけれど、僕はそうならない。

 その地盤となる教えを身に着けさせてくれたのは、誰か一人ではなく、僕が僕を取り戻すまで、直接的に、間接的に見守ってくれた特殊部隊の人たちだから。


「僕、まだ『鑑定』も初歩なんですが……、そのっ、よろしくお願いします!」

「ああ、……ああ! 『鑑定』のレベルアップならここは適任者が多いぞ! 任せろ!」


 志村さんもまわりの人たちもボロボロ泣きながら笑ってくれた。

 よし、今からは志村先輩って呼ぼう! よろしくお願いします!

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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