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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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05.戦々恐々

 児童生徒学生諸君の夏休み。

 つまり僕も夏休み。

 日中に街をうろうろしても補導されない夏休み!


「そんなに補導されたのか?」

「中野を巡回する警察官の皆様にはだいたい会ったと思います。声かけられなくなりました」

「……まあ、もう少し背が伸びたら霞ケ関でも大丈夫になる。うん、多分」

「牛乳飲みます」


 秋葉先輩が適当な感じで慰めてくれるけれど、僕が特殊部隊の本部に行く用事はほとんどない。


 今日も来たのは中野の秘密基地。

 僕が異世界に赴いた初任務と並行して別の事件が起きて、その事件で怪我をしたり体調を崩していた人たちも全員退院できた。喜ばなきゃいけないことなのに、医務区画が閑散としていて少し寂しい。


「ここは静かなほうがいい」

「……そうですね……」


 怪我人も不調の人もいないのが一番。


「そうそう。あの少年、通常復帰できそうだ」

「あの厨二病の少年ですか?」

「医務長が『記憶剥奪』しなくて済んだってホッとしてた」


 それはよかった。

 『記憶剥奪』すると、異世界に行っていたこと以外の記憶も部分的に消えてしまうリスクがあると習った。表向きでは何らかの事件の被害者となるので、ショックで部分的に記憶喪失になってしまったとする手もあるけれど、失った記憶によっては交流関係に支障が起きたり、仕事ができなくなったりもある。そんな風に人生を左右しかねないので、どうにもならないとき以外は実施しない最終手段なんだって。

 まだ『洗脳』のほうがいいらしい。極端な思想を植え付けるわけではなく、こういう事件に巻き込まれた被害者という部分に使う。

 僕はどちらも受けていない。

 僕は僕を取り戻して、過去を封印して、今を生きる勇気が持てたから。


 僕が『変装』でなりすました彼は、あの異世界こそ自分の生きる場所なんだと言い続けて、面会に来たご家族も妄言を吐き続ける息子に呆然だったと聞いていたけど、何か転機があったんだ。

 彼の表向きの事件は家出。

 家出の理由はご両親からのプレッシャーが重荷になり、発作的に家出した──という辻褄合わせを作り出したの誰だろう。

 実際彼は両親に『いい高校』に入るよう言われ続けて、学校と塾の毎日。

 手持ちの小遣い全部使って、とにかく遠くへ移動している途中で警察が保護。身分証などを持っておらず、ひたすら妄言を繰り出し、名前などは頑なに黙秘。家族からの行方不明捜索が出るまで身元照会が遅れた──ということにして、時間的な辻褄を合わせたシナリオ凄い。本当に誰が考えたんだろう。


「表向きの説明にはいくつかパターンがあるんだ。保護対象の背景を洗って辻褄の合いそうなものを組み合わせる」

「そうなんですね」

「『異世界に連行されて勇者に祭り上げられて俺TSUEEEと威張ってました』なんて言えるわけないし、言ったところで信じるか?」

「……いえ」


 どうしても失踪から保護までの理由づけは作り話になってしまう。この部分に『洗脳』を使うことが多い。

 若干辻褄が合わないところがあっても、少年が異世界のことをあれこれと言う姿は現実を受け入れられなくて壊れてしまったように見えて、ご家族は彼の気が済むまで話を合わせて聞いていたって。

 息子に学歴を押し付けすぎていたことも反省したみたいだし、どうやら彼は不登校に陥る感じはないらしいので、二学期から肩の力を抜いて笑って過ごせるといいな。 


 僕はあの任務のあとはしばらく勤務がなく、たまに夏木先輩に異能の訓練に付き合ってもらったけれど、期末テストもあったのでここに来たのは三週間ぶり。

 今日は勤務も異能の訓練もなく、夏木先輩と秋葉先輩が僕の勉強をみてくれることになっていて、時間を作ってくれた。


 国家公務員試験の前に、大学受験を意識するようになり、どんな学部に進むのがいいのか、どの大学に行くのがいいのか考えるようになった。父に聞いても好きにしろとしか言ってくれなくて参考にならない。

 そんな愚痴を零したら、夏木先輩と秋葉先輩が勉強を教えてくれることになったのだ。

 夏木先輩からは英語。秋葉先輩はけっこうオールマイティで、秘術スカウトで特殊部隊に就く前は高校の教師だったと聞けば納得。


「キャリア組なら東大法学部って言われてっけど、本当なのかはよくわかんねぇし」

「でも参事官は東大の法学部卒だろう?」


 夏木先輩が確保してくれていたのは医務区画にある小部屋。入院していた人たちが退院してガラ空きなので自由に使っていいという。

 父に進路相談をしていたときに、父が東大卒だと知って正直驚いた。父の見た目だと体育関係の学校か学部がしっくりする。


「とりあえず東大を目標にしとけば、下げるのは容易いんじゃないか?」


 そんなことを言う秋葉先輩は早稲田卒だと教えてくれた。僕にとっては東大も早稲田も同レベルの高い壁。


「俺は日本の大学じゃねぇからなぁ」


 夏木先輩はイギリスからの帰国子女。マンチェスター大学卒だと教えられて本気で驚いた。

 夏木先輩の表の仕事はDJ。だけどどこで活動しているのかよく知らない。僕はエンタメ情報に非常に疎い。たまにナイトクラブでウェーイとやっているらしいけど、未成年の僕には遠い世界だ。


 僕の勉強をみてくれる二人の学歴が恐ろしい。

 物凄く軽く引き受けてくれたけど、とても納得した。

 父と夏木先輩と秋葉先輩がずば抜けて高学歴だったから萎縮気味になっちゃったけど、真っ当に警察庁に入りたいなら国家公務員試験に合格するだけでなく、噂レベルだけど出身大学も関係するっぽい。

 東大かぁ……。

 なんとなく学校に行って、なんとなくどこかに就職して働くんだろうって程度だった僕が、父を目指そうと目標を持ったら、予想以上のハードルだった。

 中学校はあの事件のせいでほぼ行っていないのも同じ。

 相当頑張らないとならない。


 普段の父は威厳も何もなくて、母のほうが怖くて、父はまあまあと事勿れ主義。口達者な姉にやり込められて、ガッチリとした大きな体を小さくしてご機嫌取りに努める腰の低い父親。それが僕のよく知る父の姿だった。

 父の印象が変わったのはあの事件。

 血色の記憶のなかで、唯一フルカラーなのは異世界に来てくれたときの父の姿。

 手刀で作り出した風の刃で檻を壊してくれて、指で手枷足枷を弾き壊し、咆哮で大きな火柱を立ち昇らせて、場を圧倒した。厚い胸に抱き締められたとき、どれだけ安心しただろう。

 父とともに来てくれた人たちも凄かった。

 その中に今、僕を指導してくれる先輩たちがいた。


 チーム四季(しき)──、いや、四鬼(しき)

 春日、夏木、秋葉、柊。

 四人の名前に『春夏秋冬』があることで、チームの愛称を四季としたのに、ずば抜けた能力の高さを見たまわりは四鬼の意味で『しき』と呼ぶ。

 特殊部隊では斥候を担うことが多く、見習いの教育係でもある。なにせ異能の扱いもスペシャリスト。だから斥候を務められるのだ。


「なんつーか、もしも落ちたらとか考える必要はねぇと思うぞ? 特殊部隊は非公式でも警察庁の職員だからな」 


 公務員安泰とののほんという夏木先輩を秋葉先輩が渋い顔で嗜めるけど、その秋葉先輩は特殊部隊の一員になってから国家公務員試験を受けて正式に警察庁職員になっている。だけど公の役職は表向き保留状態で、父直下で特殊部隊の取りまとめ役の一人として、日々異世界に目を光らせている。

 夏木先輩は仮に特殊部隊を解職となっても警察庁に残る気はないらしい。DJって儲かるのかなあ? よくわかんないや。


「先々いろいろ考えても答えはないぞ。何をしたいかなんてこの歳になっても変わるもんだ。そのときになって考えればいい」


 高校教師になって、特殊部隊に選ばれ、警察庁の職員の道を確保した秋葉先輩の言葉がわかるような、わからないような。

 夏木先輩も「そうだよなぁ」と達観しているように言う。 


「勇人の目先の目標は高校一年の学力がどの程度になるかだろう」

「そうそう。ほい、出そうか」


 うっ……。

 秋葉先輩が手をちょいちょいと動かして出せと合図するのは期末テストの結果。

 夏木先輩もいい笑顔で成績表を出せと催促する。

 リュックに入れてきたテストと成績表を取り出してノロノロとテーブルに差し出したら、夏木先輩に素早く奪われ、秋葉先輩と並んで確認された。


「……夏木、世界地理の部分を少しみてやってくれないか?」

「勇人は法学部か経済学部を目指させるんだろ? 数学に振り切って教えちまってもよくねぇか?」

「勇人の得意不得意がわからん」

「まあ、このテストだとなぁ」

「勇人、この夏は浅く広く勉強して、得意不得意を探りたい。最終的に勇人の気持ちが変わらなければ、法学部受験で必要な科目に振り切って教えるが、それは来年からでも遅くない」

「はい」

「ただ、今から英語だけは必死に学ぶといい。ここにいい先生がいるからな」

「Yuto! Let’s smash this!」


 ???

 なんて言ったんだろう?


「夏木……、捻った言い方じゃなくストレートな言い回しがいいんじゃないか?」

「ああん? なら、Let’s get stuck in,Yuto!」


 ……どちらにしてもわかりません。

 This is a pen.レベルの僕なんです。

 どっちも「頑張ってこうぜ!」という意味で言ってくれたと教えてくれた。

 あの……これは試験に出ますか? 試験としては出ない。え、リスニングに慣れよう? ……ハイ、ワカリマシタ………。 


 それにしても秋葉先輩が頼もしい。

 僕の漠然としている目標を高校三年になるまでに明確にして、最終的に追い込もうと夏木先輩と話している。頼もしいけれど、………目の前の僕、戦々恐々。

 僕の期末テストの結果は実はそんなに悪くないけど、あの高校の試験問題がハイレベルかと言われるとそうではない気はする。


「じゃ、参考書買いに行くか」

「勇人はタブレットより書き込めるほうがよさそうだな」


 なんだろう。二人がとても楽しそう。

 この人たち、チーム四鬼の二人だけど、勉強の鬼にはならないよね……。

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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