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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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04.人それぞれ

 夏木先輩に(しご)かれてます。

 この前赴いた異世界での僕の対応は甘い! ということで先輩たちからしっかり説教を受けた。

 帰還した後の診察で清水さんと富田さんからもそのことは指導を受けていたので、この説教は当たり前。僕は特殊部隊に所属する前に異世界で殺されるかもしれない経験もしている。

 そんなこんなで報告書を提出し、先輩たちから聞き取りという名の説教を滾々と受けて以降、特殊部隊に出勤すると夏木先輩に引き摺られるようにして異能の訓練室に連れ込まれる日々。


「勇人の適性で『瞬足』は発動できるハズなんだが、うまくいかねぇな?」

「はー……、はー……、はー……」


 汗びっしょり。息も荒くなって、立っていられず休憩を申し出た。

 別に走ったわけでも筋トレしたわけでもなく、異能を発動させようとしただけだが、慣れない異能の術は全力疾走したような疲労が押し寄せる。


「馴染まない。そんな感じか?」

「……発動のきっかけがわからない、でしょうか」

「前も違うの発動させたしなぁ。こればかりはわかるまで訓練しかねぇし」


 自分のことなのに説明が下手で自分でも落ち込む。

 僕が一番最初に発動できた異能は『鑑定』。ただし、レベルアップできておらず、向こうで口にする飲食物は鑑定していたのに、この前の薬は鑑定しきれなくて酷い目に遭いそうになった。

 その次が『変装』。もともとは『風圧』の発動訓練をしていたのに『変装』の発動となって、教えてくれていた夏木先輩に変装してしまい驚かせた。どうして『風圧』が『変装』となったのかはよくわからないが、思いがけない異能の発動で僕の任務の幅が増えたのはよかったけれど。


 陛下より賜った異能には人それぞれ適正があって、夏木先輩の言葉を借りると馴染む術と馴染まない術がある。得意不得意ということなんだろう。

 自分にある異能で『瞬足』は使える気はする。自身では扱えない異能の術は感覚として無理だとわかる。なのにうまく発動できない。

 根を詰めてもしょうがないと夏木先輩が慰めてくれる。


「あれだ。片手で卵割りも何度も何度も失敗して、コツさえつかめばできるようになる。それと同じだ」

「……」


 異能と調理はぜんぜん違うけれど、今の僕にはすごくわかりやすい。

 この春から父と一緒に公務員宿舎に引っ越して、僕は炊事をするようになった。

 玉子焼きをうまく焼けるようになるまで何回失敗しただろう。包丁の基本的な使い方を習得するのも数をこなして身につけるしかない。

 異能の発動も同じ。焦らずやっていこう。


 異能訓練室のロッカールームで着替えて、夏木先輩も帰宅だ。。

 僕は午後から通信制高校の授業があるので宿舎に帰る。昼ご飯は帰ってから食べる予定。


「そういや明日はスクーリングか? 少しは慣れたか?」

「まだ緊張します」

「どうしても無理なときはすぐ言えよ? あの学校は『わかって』くれるから」

「はい」


 通信制高校にはスクーリングという登校日はある。

 僕は事件のせいで心身薄弱の治療中となっていて、学校も心のケアを最優先でいてくれる。

 実際は心身とも大丈夫な状態まで回復していて、特殊部隊の勤務の都合をつけたいのでそういことにしている。


 通信制高校のスクーリングに行くのは僕にとっては同年代の子たちと交流するリハビリでもある。

 僕が不特定多数が行き交う街を歩けるようになったのは、時間を捻出して親身に接してくれた特殊部隊メンバーのおかげ。でも、全員大人。僕と同年代はいない。なので、スクーリングは近い年齢の人たちと会う機会なんだ。


 最初に行ったスクーリングでびっくりするほど元気な子がいた。

 その子は芸能人で芸能活動と学業の両立をさせる目的で通信制高校を選択。彼がブレイクしたのは二年くらい前で、その頃の僕は病室の隅っこでブルブル震えていた。回復してからもエンタメ情報には疎くて、彼のことを知らなくて申し訳なかった。


 通信制高校に通う子はそれぞれにいろんな理由がある。

 世の中での通信制高校は、落ちこぼれや不登校児が通うところのイメージだし、実際そういう子たちの受け皿でもあるけど、彼のように早くから自分の人生の道を自分で作り、学業と仕事の両立で選ぶ子もいる。

 校舎に通わなくていい自由さをずるいと思われることもあるけど、テストもレポート提出もある。通学してないからサボっていることなんてないし、だいたい学校に通うのは人生の通過点。ずるいも何もない。

 僕が通信制高校に決めたのは、高校受験をどうするか決めないとならない数ヶ月前のあのときの僕が、まだ最後の壁を打ち破れなかったから。

 特殊部隊に就く人材だとなっても、すぐに勤務しろなんてことはなく、父や勉強をみてくれていた関根さんは、あの頃の僕の学力で行けそうな普通の高校を受験してみるかと言ってくれていた。

 清水さんと富田さんは、僕の心の中の葛藤を汲んで通信制高校を勧めてくれた。


 学力のある高校に通った生徒全員が学力の高い大学に進めるわけではない。

 結局は個人の頑張り。

 頑張る場所の質の良し悪しの影響がないとは言わないけれど、どんなによい環境にいても個人がそこで頑張らなければ意味がない。


 僕は国家公務員試験を受ける気でいる。

 特殊部隊に就ける人材は例外措置の採用ルートがあるけれど、正規のルートで警察庁職員になりたい。そのためには最低でも高卒資格は必要だから高校に行かない選択肢はなかった。

 僕の目標を知った両親は、やっと僕が僕の心を取り戻したばかりの時期だったから、そんなにがむしゃらに頑張らず、大学に行きなさいと言ってくれている。


 まだ高校一年目。

 どうするかはもう少しだけ先送り。

 だけどスクーリングで彼と出会って、人生設計をしっかり立てている姿に触発されているのも事実。

 彼もずっと芸能界で生きていけるのかわからないから不安だと言ってて、今は稼がせてもらえるから仕事に取り組みやすい通信制高校にした。今後がどうなるかわからないから大学受験できる学力をキープして、あと一年半くらいの仕事で状況で将来を決めるって。

 目指す先は違っても、僕も僕の将来のために今を頑張ろうって思う。

 

 夏木先輩は秘密基地の医務区画にある売店で食べてから帰るというので廊下の途中で別れた。

 外に出たらムアッとする真夏の空気。気温が平熱を超えたら仕事も学校も休みにならないかなって愚痴りたくもなる。本当に暑い。


 特殊部隊は警察庁の所属で、本部はなんと皇居のお堀の中にある。

 僕は本部にはほとんど行かない。だいたい中野区にある通称「秘密基地」に来る。今日の訓練も秘密基地。

 必要があって本部に行くときは大人の誰かと一緒に行くようにしないと面倒なことになるので、できるだけ回避している。

 なぜか。

 まず僕の見た目が中学生くらいにしか見えない。もう少し背が伸びれば歳相応なんだろうけど、童顔はどうしょうもない。こういうときは厳しい顔の父に似ればよかったのにと思う。

 警察庁は東京都千代田区霞ケ関にある。

 政治の中枢、霞ケ関。 

 その警察庁の建物から特殊部隊所属の職員だけが知る秘密の通路で皇居のお堀の向こうに行くルートがあるのだけれど、まず平日の日中に、警察庁の建物に見た目中学生に見える僕がいるのは奇異な光景で、高確率で呼び止められる。「ボク、学校は?」って。中学は義務教育だからね。なんで平日日中に学校に行かずフラフラしてる? ってなるんだ。

 それでも警察庁の建物に行き着ければいいほう。特殊部隊所属のカードを出せばわかってくれるから。見た目はクレジットカードだけど。

 日本の警察官皆様真面目です。

 警察庁の建物に行き着く前に補導される確率のほうがとっても高い。

 霞ケ関の警察庁の建物の近くには警視庁。声をかけてきたのが警察庁の人なのか警視庁の人なのか判断できなくて、特殊部隊所属のカードが出せないんだ。

 特殊部隊は警察庁のトップシークレット部隊。警視庁は同じ警察組織の仲間だけど、特殊部隊を知らない。だから特殊部隊所属のカードを見せてもクレジットカードとしか思われない。

 そんなこんなで霞ケ関は童顔の僕が日中一人で歩き回るようなところじゃない。ほとほとよくわかった。

 特殊部隊の本部の人も僕が補導されて遅刻するたびに笑っていたけど、それで異能の訓練などは中野の秘密基地になった。

 中野の秘密基地に向かうときもうっかり警察官に出会っちゃうと補導されることがある。それでも秘密基地への出入口が病院なので、行きなら通院だと言えば解放してもらいやすい。


 自転車置き場から自転車に跨って家に向かう。暑いけれどヘルメット装着。補導だけでも面倒なのに道路交通法違反の注意まで加わると時間のロスが酷いから、守ろう法律! 安全運転!

 父と住んでいる公務員宿舎も秘密基地と同じ中野区にあってそこそこ近くて便利。


「そこの白いヘルメットの、自転車のボク、止まりなさい」

「……」


 パトカーと遭遇。

 道路交通法違反はしてないはずなのに呼び止められたなら、これはきっと補導。

 ボクって呼び止められた僕。いったい何歳に見えるんだろう……。

 あー! もー! 午後から授業なのに!

 自転車を止めて斜めがけのボディーバッグから学生証を出す準備。

 パトカーの警察官は初めましての人だ。僕のことを一回補導した警察官なら覚えてくれて補導しなくなるもの。

 はぁ……。通信制高校の説明をして、さっさと解放してもらおう。

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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