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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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番外04.成長の証

 今日は僕のお祝い。

 だから僕が食べたいと思ったものを並べました!

 ピザ、カボチャの甘煮、豚汁、飲み物はナイトクラブでビックリさせられた甘くない(から)いジンジャーエール。デザートはなんとあの豆大福!

 父は明日仕事がないから晩酌デー。もらいものの絶対お高いイカの塩辛も出しました!

 

『何をどうしたらそういう献立になんのよ!』

「食べたいものに忠実であれ」

『組み合わせってあるでしょうよ!』


 ネットで繋いだ画面の向こうで姉がギャンギャン怒っているけど、ピザ食べたかった?


『組み合わせーッ! 父さんなんで止めなかったの!』

「いや、その、帰ってきたらもう用意されていてだな」

『父さんの帰りが遅いからこういうアホな夕飯になるんでしょう!』

「そう言われてもな」

「姉さん、姉さん落ち着いて。今日だけだから」

『信用できるかーっ!』


 そう言うけど、普段はもっと普通。とことん普通。それはこうやってネット繋いで団欒するから姉も知っているのに、今日は随分噛みついてくる。でも、どんなに噛みつかれても姉は画面の向こうなので怖くない。えへへ。

 ……次に姉が上京してきたときが怖いけど。


 今朝、僕に歓喜することがあった。

 これはお祝いだー! となって、父には「今夜は僕のお祝い!」とちゃんと言ったし、父も朝は一緒に喜んでくれたし、「勇人の好きなものでいいぞ」って言質は取った。

 そうです。ちゃーんと言質は取ったのです!

 だから父は帰ってきた食卓のメニューに文句が言えない。父も朝の言葉に失敗したと思っても、『男に二言なし』の性格。


 父が大食漢なことをいいことにそこそこサイズのピザは二枚。四種類の味が楽しめるクォーターメニューを二種類にしたから全八種類の味が食べれちゃう!

 僕は八種類を二口、三口でいい。残りは全部父に任せちゃう。

 フライドポテトも一緒に買おうと思ったけれど、昨日買ったスーパーの惣菜のカボチャの甘煮があるのを思い出して買わず。

 量の入っている揚げ物惣菜で百円値引きシールが貼られることあるけど、煮物系惣菜で百円値引きシールはなかなかない。あれきっと貼り間違いだったと思う。他のは三十円値引きシールだったから。何が違うのかと見比べ、製造時間も消費期限も同じなのに一つだけ百円値引きシール。すごいお得だった。甘くてホクホクです。

 豚汁は何日か前から無性に食べたかったから作った。野菜室でダイコンとニンジンがミイラ化になりかけていたし、買ったはいいけどうまく調理できなかったゴボウも微妙に残っていたし、キノコ類を増やして、サトイモの皮剥きはまだ挑戦しきらなかったからスーパーの惣菜で煮物になっていたサトイモを鍋に放り込んだ。あれこれ具材を入れて味噌を入れれば、サトイモが惣菜の煮物だったなんてわかんない、わかんない。むしろよく味が染みてる感じ。父もわかってないから大丈夫。

 シンプルな炭酸水にするかコーラにするかでジンジャーエール。夏木先輩が招待してくれたDJライブのときに驚かされた甘くないジンジャーエールを思い出して、どこに売っているかを聞いた。急になんで買いたいのかと聞かれてお祝いの理由を言ったら、若干戸惑いながらもおめでとうと言ってくれたので今日の僕はめでたい。

 同じものを買うとなると通販が無難と言われたけど、今日ほしい、今欲しいとなり、輸入食品なども扱っているちょっと価格帯が高めのスーパーまで足を伸ばして、店員さんに聞いて類似品をゲット!

 買い物としてはけっこう遠出して、それならばと警察庁警備局の局長さんが食べさせてくれた豆大福のお店までレッツゴー! 案の定並んでた! 正午少し過ぎだったんだけどもう売れ切れ寸前で並びながらやきもき。無事に買えたあとになって午前中に完売していることも多いって聞いて、今日は幸運だった! 僕、めでたい! 学校の授業を午後にしてよかったよー!


『ふふふ。まあ、いいことではあるから美亜もそんなに怒らなくていいじゃない』

『母さんは勇人に甘いよぉ!』

『美亜のことも勇人のことも甘やかして何が悪いの。母さんなのよ』


 画面の向こうの母はほのぼの。僕のめでたい話を聞いたら、破顔して思いっきりお祝いの言葉をくれた。

 父はもちもちふっくらなピザの生地の外側の部分だけ残して、そこにイカの塩辛を乗せて食べてみたり。画面の向こうの姉から『父さんオカシイーッ!』と叫んでいるけど聞いちゃいない。辛口の日本酒と合うってご機嫌。アンチョビだと思えばいけなくはないのかな? あとで食べてみよ。

 絶対お高いイカの塩辛は柊先輩からのお土産。ヨーロッパから帰ってきたはずなのにお土産は函館のイカの塩辛と長さ六十センチもあるイカののしいか。チョイスが完全に父の酒のおつまみ。なぜ函館? なぜイカづくし? 僕の頭の上に巨大な疑問符が浮かんだよ。

 でも僕はちゃんと柊先輩からのヨーロッパ土産は受け取り済み。

 柊先輩が立ち寄った先々で撮った風景の写真を都度メールで送ってもらっていたんだ。いつか自分でも行ってみたいけれど、それは先々。旅行サイトや旅行雑誌を見ても同じかもしれないけれど、柊先輩が「いいな」と思った風景を切り取ってもらったんだ。本職は画家さんだから絵にしたいと思う風景。自然ばかりじゃなく、街並みだったり、デコボコ感のある石畳を走る子どもの後ろ姿だったり。勉強の合間に見て楽しんだ。「こんな土産でいいのか?」って言っていたけど、張り切って撮ってくれて物凄い枚数をもらった。またどこかに行ったら撮って送ってもらう約束をしている。


「母さんたち、お正月は来るの?」

『美亜が冬休みに入ったら二人で行くわ』

『その豆大福、食べさせなさいよ!』

「じゃ、姉さんも一緒に開店前から並ぼう?」

『寒いからあんたが買いに行きなさい』

「横暴~」


 あったかい家族の会話。年末年始は四人で過ごせるんだ。

 この前母が来たときは智也くんの看病を優先してもらったし、シルバーウィークにやってきた姉はゆっくりできるのも今だけだと本当にゴロゴロしてて、新宿、渋谷、原宿をちょこっと一緒にブラブラしただけ。

 こうやって頻繁に画面越しの家族団欒をするけれど、肌の温度を感じる距離で過ごせるのは違うから年末年始が楽しみ。


 僕のことがあって、当時高校生だった姉は漠然としていた自分の進路を医者に決めた。猛勉強して医学部に入学した。

 医学生は忙しい。進級していくともっと忙しい。来年以降、姉が東京に来る回数は少なくなりそう。

 姉が医療の道を目指すと決めたときは精神科に気持ちが傾いていたのは完全に僕のせいだろう。だけど、今は内科や総合診療科が気になっているみたい。

 一時期、僕を中心に物事を考えていた姉。

 僕が僕を取り戻して、僕優先となっていた姉も普通に弟を愛する姉に戻ってきていると思う。

 姉が姉の道の先を見ている。僕ありきではなく、自分のために。僕はそれが嬉しい。


『ねえ、父さんと並んで立ってみて?』

「? なんで」

『いいから』


 母からのお願い。

 意味がわからなくてもパソコンのカメラに映っている場所を確認して、父を立ち上がらせて並んでみせる。


『……本当……。背、伸びたわね。うん、伸びた』


 急に涙ぐんでしまった母さん。

 姉がはっとして母にくっつくように座り直して、背に手をまわしてこっちを見る。

 姉も父と僕の背を見て、『伸びたね』とつぶやいた。その姉の瞳も母につられて潤んでしまった。


 中学校入学の際、背の順で並ぶと一番前だったチビな僕。百四十五センチは堂々の先頭だったよ。僕の記憶だと父と並ぶと父の脇の下だったと思う。 

 中学生になって間もなくに異世界に連れ去られたあの事件。

 保護された僕はしばらくの間、自分で食事も摂ることができない状態で、点滴と流動食が命をつないでくれて、ほとんど成長してなかったように思う。自分のことなのに覚えていない。

 あの病室を卒業したときどれくらいだっただろう。

 高校生になってからぐんぐん伸びる子もいると清水さんと富田さんは言ってくれて、もともと成長期が遅いんじゃないかとも言ってくれている。それはこの前受けた健康診断でググンと身長が伸びていたから。

 百五十五センチになった僕。父の肩を越すのはもう少し!

 父を身長メーター代わりに僕の身長が伸びたことを喜ぶ母と姉。

 健康診断の結果でまだ体重は痩せすぎとなるけど(あばら)は浮いて見えない。この前母が上京してきたとき、あぢいとシャツを脱いで上半身を見せちゃったら、健康体になっているとわかって僕に隠れて泣いていたのも知ってるよ。

 あの時だって背が伸びたって言ってくれたけれど智也くんのことでバタバタしていた。

 こうやって父と比較して僕の成長をしっかりと見たことで、母の喜びは大きかったみたい。


「勇人はまだまだ伸びる。俺も身長が伸びたのは高校のときだった」

「本当? 智也くんくらいにはなりたいな」


 父が優しく笑って頭に大きな手を乗せて撫でてくれる重さがいい。

 智也くんはもう百七十センチある。小学生の高学年でぐんぐん伸びて、足が痛かったって言ってた。自主学習のときだったから秋葉先輩が成長痛だって教えてくれたっけ。

 身長とシャープな顔立ちの彼がブレイクしたドラマの役は実年齢より歳上の大学生役だったというから、冷静に考えると随分な配役だと思う。中学生が大学生。でも、三十歳前後の役者さんが高校生を演じることもある世界だし、どういう基準で配役が決まるのか不思議だ。


 画面の向こうで嬉し泣きしてしまった母と姉。

 今日は僕のお祝いだから笑ってほしい。

 身長も伸びたし、精神的な成長も頑張らないと。父が頭を撫でてくれるのを喜ぶ僕はまだ子どもだな。

 でもね! ちゃんと成長!


「身長も伸びているし、今朝は夢精したし、僕、成長してるね!」


 そう! 夢精!

 僕、精通しました! 体が大人になりました!

 十六歳で精通は遅いほうみたいで、実は清水さんと富田さんは医者として僕を診てくれるようになって、精通が来てなかったのを心配してくれていたんだ。

 僕が元気になってきたから自慰で促すような話も出たんだけど、最終的には時間に委ねた。

 だから父の次に連絡した。精通きましたー! って。二人とも安堵してくれて、なにか不安があったら男性である富田さんが相談に乗るとも言ってくれている。

 夏木先輩に甘くないジンジャーエールが買えるお店を聞いたときも、精通祝いするって言ったら、「は?」と戸惑われ、おそらくそのあとは「普通言うか?」と沈痛な顔していたと思う。想像できるよ。電話だったから顔見えなかったけど。


 それでお祝い。

 父にも朝に精通があったことを言ったら、驚いて、喜んで、安堵。そして僕が夕食はお祝いで好きなものを食べたいと言ったら、若干微妙な顔で了承してくれた。

 そこまで祝うことかと。

 祝うことでしょ!

 姉の初潮は知らない。体の成長を祝ってお赤飯でお祝いなんて話もあるけど、ウチやったのかな? ネットじゃ家族全員への公開処刑だなんて声もあってそういうお祝いしない家庭も増えているみたいだから、やらなかったのかもしれない。

 体の成長を祝うという意味なら、初潮も精通も祝っていいと思うけど、考えは人それぞれ。生理は痛みを伴ったり、不調かつ不愉快な期間になるから憂鬱だとも聞く。

 乳歯が永久歯になるのも成長なら、初潮も精通も体の成長の一区切り。

 そういう意味で僕は祝うよ。


 僕、健康!

 あんなことあって、見苦しい姿を見せてしまったけど、順調に成長して健康だよ!


 そう、母と姉にも伝えたかったんだ。

 僕の用意した食卓を見てキャンキャンと噛みついてきていた姉だけど、画面に映ったときから目は赤かった。母も。

 「精通祝いー! 団欒パーティーしよう」ってメッセージしたら、姉から即刻「わざわざ言うなー!」って通話で怒鳴られたけど、僕の思いはきっと伝わっている。

 骨が浮いて見えるほどガリガリまで痩せた僕。

 その僕がちゃんと成長している。

 喜んで泣いていたんだって。


 心配かけてごめん。

 言えないことがあって本当にごめん。

 僕は誘拐されたことになっているから、母と姉は見つかることのない犯人を延々と憎んでいる。それについては母にも姉にも本当に申し訳ない。父も僕も墓に持っていく秘密。


 ねえ、今、僕、笑ってるよ。

 だから笑って。

 母さん、姉さん、ありがとう!

 

 その気持ち込めて画面向こうにピースサイン。

 そして背伸びして父の肩を越す身長を懸命に作ったのに、父も背伸びしたらぜんぜん差が埋まらないでしょ! もうっ!

 こっちの馬鹿なやり取りに泣いていた母と姉も笑ってくれた。


 気がつけば父の目の前に置いたピザはもうない。僕の前のピザはあげないよ。カボチャの甘煮は二個残してくれたらあとは食べていいけど。

 思い出してピザ耳の厚いところにイカの塩辛を乗せて食べてみた。……ご飯がいいかなぁ。

 そうつぶやいたら、父が「豚汁にもご飯だろう」って、今になってやっとぶつぶつ文句を言い出し、保存食のパックご飯を電子レンジで温め出すもんだから、画面の向こうから『あなたまだ食べるの?』『父さん食べ過ぎ!』って二人の声が聞こえてきた。僕も思う。まだ食べるんだ。

 画面の向こうに豆大福を見せつけるように食べたら、母は大笑いで、姉には「キーッ」って怒られた。

 年末にこっちに来たとき一緒に買いに行こうね!


 満腹。

 心も満足。


 週が明けた次の自主学習でそんなお祝いしたんだって智也くんと秋葉先輩にも言ったら、智也くんはパァッと笑顔で「オトコになったな!」って喜んでくれて、秋葉先輩はどう反応しようか考えている真顔で「そうか……」で終わってしまった。先に知っていた夏木先輩は「ここで言うか? 言うのか? 男同士だからいいのか?」と、一人禅問答。

 いいじゃん。成長の証なんだから!

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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