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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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21.道を拓け

「ハーレクイン様、厳しいなー!」

()()()()ね」

「ハーレクイン様だよ。彼は神」


 鬼の間違いだと思う。


 ここは中野の秘密基地。だけど特殊部隊が使うところじゃなくて、表向き病院の、そのちゃんと病院として運営されている病棟にあるメンタルフォローを担う一室。

 僕と智也くんはここを使わせてもらって、夏木先輩と秋葉先輩に勉強をみてもらっている。


 智也くんに笑顔が戻った。

 まだご両親とのことは完全に解決したとはいえないし、親子の確執は長く残りそうだけど、今の智也くんは前を向いている。


 智也くんのご両親が起こした事件は一般報道されなかった。

 智也くんにとっては大事件だし、僕にとっても大きな出来事だったけれど、世の中にニュースはたくさん溢れていて、運がよかったのか、父たちが潰したのか。

 辻褄の合わないこともあったけれど、それらは全て加害者たるご両親に「記憶がない」で有耶無耶に。

 憑いていた『靄』は智也くんのお父様の心の深くまで入り込んでいて、僕が捕獲して取り除いたら若干記憶が曖昧。

 智也くんのお母様は『靄』本体に憑かれていなかったのに、お父様同様に悪影響が酷くあった。もともとの性格に拍車がかかっていた感じなのかもしれない。想像でしかないけれど。

 父が接触して『靄』の残滓を駆除したら、なんで自分があそこにいたのかわからなくて呆けてしまい、声をかけても無反応。それで救急搬送になったけれど、数時間後に「智也はどこ?」と騒ぎ出し、少々支離滅裂。警察の人たちもある種の心の病ではないかとなったみたい。

 智也くんのご両親は智也くんから僕のことや僕の父が警察のお偉いさんなのは聞いていても、住まいまでは聞いていなかったのにどうやって僕んちに辿り着いたのか。どうやって部屋も特定できたのか。

 いくつかの謎は全て有耶無耶の海の底。

 特殊部隊側でも『靄』が導いた説の真偽はわからず、引き継ぎ研究調査の対象になっている。


 あの日、夏木先輩が来てくれて、興奮に興奮した智也くん。しばらくして落ち着いたら、推しに会えて喜んでる場合じゃないって愕然として、またパニック状態に陥りそうになってしまった。揺れ幅の大きさが半端なく、夏木先輩の存在に助けられた。推しの存在が智也くんの壊れてしまいそうな心を繋ぎ止めてくれた。

 夏木先輩は父が呼んだのではなく、『靄』が空に細く昇ったのを()て、心配して駆けつけてくれた。

 着いてみれば僕んちの公務員宿舎の前はパトカーと救急車。汗びっしょりの父。

 現場が落ち着いて、父から概要を聞いて『靄』の解決にホッとしたけど、現実問題の対応とあのときの僕たちの保護者がもう一人ほしくて父が部屋まで招いた。

 まさか智也くんが夏木先輩の表の顔であるDJ HARLEQUINの大ファンだなんて、ぜんぜん知らなかったこと。

 夏木先輩の言うことは素直に聞くので完全に任せた。来てくれて本当によかった。


 緊張の糸が切れたら僕はお腹が空いてしまい、あんなことがあったのにいそいそとカレーを食べる準備を始めたら、父にも夏木先輩にも「強くなったな」って褒められた。

 食べる。寝る。とっても大切。

 智也くんは泣きに泣いていたので顔を洗ってスッキリさせて(夏木先輩がそうしようって促した)、自分が作ったカレーを推しが食べてくれていると謎の感動の海に飛び込んでまた泣きそうになり、さすがに夏木先輩も苦笑い。智也くんは食欲が戻っていなさそうだったけれど、食べ始めたら大盛り量をぺろりと平らげてくれたので安心した。

 そうそうケーキも食べた。父が走って帰ってきたから横に寄っていたけどぜんぜん気にしない。

 父が種類違いに六個も買ってくれていたから、それぞれをちょっとずつシェア。夏木先輩がフォークで智也くんに食べさせようとしたら、智也くんは感激しちゃって、「神が食べさせてくれた」と意識が戻ってこない。

 僕ですか? 勝手に夏木先輩のケーキにフォークを突き刺して一口もらいました。

 カレーとケーキを食べている間にお風呂を溜めておいたので、父が一番に入ってサッパリしてから智也くんのご両親が運ばれた病院へ。

 父が出るときに智也くんが現実に戻ってきてしまい、不安定になりそうだったけど、夏木先輩が智也くんのことは請け負ってくれた。


 心の疲労は体に出る。案の定、翌朝に智也くんは熱を出してぐったり。

 そんなこんなの中で母が上京してきて、「あらあらまあまあ!」と智也くんの看病をしてくれた。智也くんが僕んちに泊まることになった背景は重たいけれど、僕の友だちがお泊り会しているのが嬉しかったんだって。

 僕んちに三日間泊まって、あんなことがあったので智也くんはご自宅ではなく、所属事務所が用意したところに仮住まい。

 所属事務所の方々との話は全部父が請け負ってくれた。


 本当にいろいろあった。

 大きく好転したのは智也くんの叔母さんの登場だったと思う。

 智也くんのお母様の妹さんで、姉と義兄が智也くんに寄生して生きていた姿に激怒。

 智也くんのご両親は車で事故を起こしたことや、道で発狂状態に見える行動を起こしたこと、僕んちに押し入ろうとしたことなど、あれら全てが複数の防犯カメラを繋げれば確認でき、子どもの親権以前に監護する者として不適格と判断された。その結果、叔母さんに智也くんの親権が委ねられることになったのだ。叔母さんは金銭感覚もしっかりしていて、智也くんの稼いだお金で返したご両親の借金は姉と義兄が社会復帰したら取り立ててやるとたいへん強気。

 叔母さんは福岡の旦那さんのご実家の事業を引き継いでいる経営者。暮らす場所を変えられないけれど、「アンタの親権を持ったアタシがアンタの一人暮らしを認めるんだ! 頑張りな!」って智也くんの一人暮らしを認めた。智也くんの一人暮らしのサポートなどは所属事務所。

 あのマンションは売り払い、智也くんのご両親は叔母さんが福岡に連れて行った。

 そうやって智也くんはご両親の呪縛から解放された。めでたし、めでたし!


 ……には続きがあって、それが今のこの状況。


「僕にも神の教えを受けさせてください!」


 聞く人が聞いたら勘違いしそうな懇願。

 智也くんが心身、そして住まいの問題も落ち着いたら、僕が夏木先輩に勉強を習っているのが羨ましくて仕方なく、直談判に来たんだ。

 どうする? ってなって、大人が協議して、秘密基地の表向きの病院の一画を使うことになってこうなりました。

 智也くんは週二回のこの自主学習の時間が楽しみ。

 たとえ英語で日本史の問題を言われても、腹筋しながら化学式を言えと言われても、唸りながら笑ってる。ドエムかな?

 僕は……、父を目指して頑張ります。


 智也くんも未来の夢が少し変わった。役者として成功できなかったら、叔母さんが経営する事業の手伝いができるように経済学に興味を持って大学進学するって。叔母さんの旦那さんは経営者ではなく技術者で、機械設計などを担当。智也くんは義叔父さんのやっている設計にも興味津々。これまた夏木先輩が大学で専攻していた学部に近いから、夏木先輩が楽しそうに教えている。

 僕ですか? その横で秋葉先輩に先々に必要だろうと言われて法律を習ってます。浅く広く勉強しようの方針はどこにいってしまったのでしょうか。鬼です。頑張ります。


 濃密な夏だった。


 二学期が始まった最初の週末、僕と智也くんはナイトクラブに初参加。未成年だから二十二時までだけど、初めてのナイトクラブだよ!

 ナイトクラブとしてはぜんぜん早すぎる十九時からだったけれど、夏木先輩が勉強を頑張った智也くんへのご褒美で、懇意にしている場所と相談して僕たちが入場できるライブプログラムを作って招待してくれた。

 巻き込まれ保護者は父と秋葉先輩。

 薄暗い空間にフォンフォン、ウワンウワン、ドドド、ウォン、ブォン……と、いろんな音が鳴り止まないElectronic Dance Musicという未知の世界。

 夏木先輩は『DJ HARLEQUIN』という名で、Electronic Dance Music──EDMという音楽ジャンルの世界DJランキングの一昨年のトップになったほど、このジャンルでは人気の凄い人だった。

 智也くんの心酔っぷりは突き抜けてるけどね。

 音を感じろと言われてもよくわからなったけど、見様見真似で体を揺らして、楽しそうな智也くんを見ていたら僕も楽しくなったよ。

 大人の世界にドキドキしながらジンジャーエールを貰ったら、甘くないやつを出されて辛くてびっくり! バーテンダーの方も僕と智也くんを驚かせることに成功して大笑いだった。お詫びにってジンジャーエールを使ったノンアルコールカクテル「シャーリーテンプル」を作ってくれたり、シェイカーを興味津々に見ていたらシェイクして作ってくれた「プッシー・キャット」も甘酸っぱくてなんだか一気に大人になった気持ちになった。


「志村が次元の(はざま)の調査で、勇人の異能の色が知りたいって言ってた」

「色?」

「異能も授かってから人それぞれに変質して個性が出る。それを色と呼んでる」


 大音量のなかでの会話はたいへん。耳に近づいて話さないと聞こえない。

 前に秋葉先輩が言っていた調査の要請だね。


「水曜の午後なら本部に行けると思う」

「頼んだ」


 父は音楽の世界には興味が湧かないようで、バースペースで飲んでばかり。僕と智也くんの保護者なんだから酔っ払わないでね!


「勇人!」


 フロアで楽しそうに踊っていた智也くんが走ってきて、DJ HARLEQUINの出番だという。


「神の音を感じないと!」

「わかったよー!」


 大人の隙間を縫って夏木先輩が見える場所で智也くんとDJブースを見上げる。


「This one's for my best friends in the house! Enjoy the ride!」


 夏木先輩がそう言って僕と智也くんを指させば、まわりがフゥー! と盛り上げてくれて、知らないお兄さんが肩車してくれた。智也くんも! うわー! これもサプライズだよね!?


「Are you guys feeling it? I know you are! Three…… Two…… One…… JUMP!」

「Yea!」

「Yay!」

「Woohoo!」


 楽しいー!

 僕、今、最高に楽しい!

 楽しいを感じて生きてる!


 僕は一度地獄を見た。

 誰にもあんな目に遭ってほしくない。

 知らない世界で命を落としてもほしくない。

 だから、父を目指す。

 とても高い目標だけど、僕は守りたい。

 この溢れる笑顔を守りたい。


 僕の道は僕が作るよ! コツコツとね!


 ─ 了 ─

お読みいただきありがとうございました!

これにて「異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!」は完結です。

番外SSが思いつくことがあれば、未来で彼らと会いましょう!

※愛賀綴の他の作品もどうぞよろしくお願い申し上げます!

挿絵(By みてみん)

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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