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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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18/22

18.守りたい!

 息苦しさに異能を解除。

 視認するため『鑑定』で異能を使ってしまった。

 持っている発動用の紙はあと二枚。この日常の世界で僕が発動できる回数は少なくて、無理して頑張っても三回が限度。

 『靄』の捕獲は習ったけれど実際にやったことはない。訓練の場に練習用の『靄』となるものを作り出すことができなかったから。

 持っている紙で発動は多分できる。成功するかは正直わからない。


 ──執着。

 智也くんに纏わりついていた『靄』からはそんな感じがしたと夏木先輩が言っていた。智也くんの事情を知ればなんとなくわかる悪感情。

 智也くんのご両親は智也くんではなく、智也くんがもたらすお金に執着しているんだろうって僕でも想像がつく。

 『靄』自体に意思はないのに憑いた者の心を侵し、よくない感情を増幅させる毒みたいなもの。

 どうして『靄』に憑かれたのかはもう考えても仕方ない。隕石が頭に落ちてくるような確率くらいの事故だって言われている。


「父さん、もう帰って来るから。そしたら、その相談して」

「うん! うん!」


 異能を使ったことで僕の背中は汗でびっしょり。息苦しさを深呼吸で整えたいけど、智也くんに知られないようにゆっくりと。

 こういうときの待つ時間はすごく長く感じる。

 泣きじゃくっていたけれど、声を殺して顔を膝に押し当てて丸まってしまった智也くん。

 ビデオ通話してくれた洋菓子店から家まで、徒歩で二十分くらい。父は帰路の途中で報告を受けて、僕と通話していた際は走っていたから、本当にもう帰ってくるはず。


 焦るな。

 僕、落ち着け。

 『靄』の問題と現実の問題をぐちゃぐちゃにしたらだめ。


 『靄』はすぐにはゲートの出入り口にはならない。

 『靄』だけなら即座に世界規模に及ぼす大きな事件が起きない。

 だから特殊部隊の緊急招集や緊急対応にはならない。


 そうわかっているのに、智也くんを助けたくて悔しくなる。

 だってあの『靄』が何らかの悪影響を及ぼしている可能性は高いと思ってしまう。


 智也くんの側に座って整理する。

 『靄』はすぐにこの世界を破壊することにはならない。

 もちろん『靄』自体はよくないものだから発見次第捕獲して対処するのが一番いい。

 でも、緊急度合いは低い。

 だから、『靄』の捕獲は最悪、後回しでもいい。

 『靄』の捕獲を優先しなければならないのは、『靄』に侵され無差別殺人鬼のようになってしまった場合。

 そこまで整理して、目を瞑る。

 この前お見舞いに行った関根大先輩が悲しい顔で言った。

 殺人鬼のようになるのは『靄』だけのせいではない。その者にそうなる原因があるから毒され、侵され、よくない方向に向かってしまう。


「『靄』に侵され無差別殺人鬼のようになってしまった者が出たとしよう。『靄』の駆除よりも現実の事件として対応されるほうが早い。特殊部隊はどうしたって隠密だ。現実犯罪にしゃしゃり出ることができん。殺人者の逮捕、または日本じゃないなら射殺となって幕が下りるだろうな。憑いていた者が亡くなれば『靄』はまたこの世界を漂う。漂っている『靄』をゲート班の日々の監視で駆除が結局は多い」


 関根大先輩に智也くんが親御さんに打たれたことを話したら、できるならば親御さんが傷害などの何らかの犯罪者になる前に手が打てればな……と、僕の心に寄り添ってくれながらも冷静に僕を諭すことも忘れなかった。

 家庭の問題にしゃしゃり出るのも簡単じゃない。歯がゆい。


 『靄』本体が手を伸ばすように向かってきてる。またあの『靄』が智也くんにまとわりついてしまっても『靄』本体に憑かれるわけじゃない。智也くんに目に見えて悪影響はすぐには出ない。実際は落ち込んだり、イライラしたりはあるだろう。それもこの数週間でわかっている。


 智也くんの背に手を添えて、ここにいる、一緒にいると体温で伝える。

 智也くんを守る。心を守る。

 このことの集中しよう。

 『靄』への対応はその中で必要があったら、だ。

 父や先輩たちの言葉を何度も反芻し、『靄』の排除は後回しにしようと考える僕を、もう一人の僕が冷たいやつだと(なじ)る。けれど、冷静に。落ち着け。焦るな。


 静かな部屋に突如響いたガチャとした音に二人でビクッとして、バッと顔をあげた。


「父さん。帰ってきた」


 細かく頷く智也くん。

 父に智也くんが泣いている理由はメッセージで簡単に伝えているけれど、口頭でも言わないと。


「あのね、智也くんが……」

「あ、ああ。待ってくれ。汗を拭かせてくれ。智也くん、うん、大丈夫だ。少し待っててくれ」


 父が何かを察したような顔で薄く微笑んで智也くんに頷けば、智也くんは立ち上がって深く頭を下げた。

 父がいる。それだけで広がる安心感。

 智也くんをソファーに座って待っててと言い、父のところに駆けつければケーキの箱とらっきょうを渡された。どっちも冷蔵庫に入れる。さっき使った異能の発動につかったレシートは握っていた手の中でぐしゃぐしゃ。それを父に見せてゴミ箱に捨てた。

 父がチラッっと丸まったレシートを見て小さく頷く。

 汗びっしょりのシャツを脱いで、ざっと体を拭き、智也くんのところに向かってくれた。

 走ってきた父と智也くんに冷蔵庫から麦茶を出す。こういうときに智也くんは冷たいものよりあったかいもののほうがいいかもしれないと気付いたけれど、レンジで温めるのもなんなので氷なしにした。父は氷入り。


 智也くんはどこから話すか迷って、話が飛び飛びになったけれど、ワイドショーでお金を巡ってご両親との溝ができていることは報道されてしまっていること。その溝の深刻さを当人から聞くと心が痛くなった。

 ご両親がお金に執着して、智也くんの自立に極端なまでに苛立って反対するようになったのは、この一年、二年くらい。智也くんのブレイクと時期は合う。

 申し訳ないけれど、お母様はもともと性格に難がありそう。一人息子への親が与える愛情が激愛に変化し、異常なまでの執着性になっているように聞こえた。

 僕もあの事件があって以降、両親と姉にかなり過保護に守られている自覚があるけど、それとはぜんぜん違う。

 俗に言うモンスターペアレント。智也くんの中学時代に楽しい思い出がないのも親御さんが関係しているようだった。

 お父様はなんとも言えない。もともと浪費癖はあったのかもしれない。「お金は人を変える」と言うけど、その言葉の典型的にだめなパターン。智也くんの稼ぎで放蕩三昧。身の丈に合わない散財をして、何度か借金もして、智也くんの稼ぎで補填して現在に至る。


「ふー……。少し前に君の家のことは報道されたので勇人が心配していたんだが、話してくれてありがとう。いろいろあるだろうが、今日は泊まりなさい。ご両親には私が言うよ。子ども同士でお泊まり会。何も変じゃない」

「で、でも」

「今のその様子では帰らないほうがいい。事務所のどなたかのところに泊まると言われる方が安心だね」


 智也くんには言えないけれど『靄』のこともある。

 帰る帰らないよりも、智也くんのご両親は僕んちに向かってる。僕んちというより智也くんがいるところ。

 智也くんのスマホ。位置情報共有アプリが設定されているんだろうか?

 今聞いた話だとスマホの位置情報で智也くんの居所を常に把握しているストーカー性はなさそう。もしあったとしても智也くんか事務所の方が怒って解除してそう。

 そうなると『靄』が憑いた者が執着している先を探して導いてしまっている。『靄』は人にない未知の力があるものだし。


「!」


 外で何か大きな物がぶつかる音がして三人とも息が止まった。

 人が叫んでいるような声。


「トー! モー! ヤー!」


 窓越しに微かに聞こえてきたのは智也くんを呼ぶ声。


「トモヤー! 母さんが来たわよ! さあ! 帰るわよ!」


 優しげな声色で呼びかけ、大声で呼ぶ落差が怖いし、気持ち悪い。


 来た。来てしまった。

 父さん、どうするの? どうすればいい?

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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