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異世界対策特殊部隊見習いの僕、父を目指して勉強中!  作者: 愛賀綴


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10/23

10.やばい!

 渋谷にある代表的な商業施設の外観だけ見て、暑さと人混みに疲れてしまったので帰ることにした。

 中野の街も場所によって人が多くて僕は避けがち。それでも、外に出られるようになった。外を歩けるようになった。誰彼構わず怯えていた僕ではなくなった。スーパーのタイムセール商品に向かっていくオバチャンたちのなかに飛び込んでいけるくらい、僕は元気になった。

 今日だってかき氷専門店に出かけるのは楽しみで仕方なかった。外に出る怖さを払拭して、楽しさを思い出せた証拠でもある。


 秋葉先輩は僕を異世界から救出してくれた前線メンバーの一人で、父の部下で、今は仕事場の僕の先輩で、僕の家庭教師まで務めてくれる頼れるおにいさん。歳の差的にはおじさんなんだけど、そう言ったら小突かれそう。


「今日はありがとうございました」

「気分転換も大事だぞ」

「はい。あの、お出かけ、彼女さんとじゃなくてよかったんですか?」

「おまえ……、サラッと人の傷口を抉るな、このやろう」

「まあむううぐひゃくー」


 秋葉先輩に僕の唇を指で上下から摘まれてしまった。彼女さんと別れたって知りませんでした! ごめんなさい!


「夏木せんぱ……()()からいい感じって聞いてて、父に一張羅買ってもらうか考えてました」

「なんで一張羅なんだ」

「結婚式でお祝いしたいと思って」

「招待できなくてすまなかったな」


 渋い顔をして破局の理由を教えてくれたけど、彼女さんはお付き合いしてみたら粘着束縛系で根掘り葉掘り聞いてくる人で、合わなかったんだって。

 秋葉先輩は警察庁勤めってことまでは言うけど、その仕事の中身までは言わない。例え本当に家族になっても言えない。表の仕事も裏の特殊部隊のことも。

 秋葉先輩はすっきりさっぱりと別れたと話してくれて、僕もそういう人だと友だちもにもなれないな。智也くんは根掘り葉掘り聞かないからすごくいい。


「あれだな。化けの皮が剥げたら、公務員の旦那なら安泰だわっなーんて考える女だった」

「化けの……、えっと、ご愁傷さまでした?」

「なんで疑問系なんだ、こら」

「ぼっくくうぐっ」


 今度は秋葉先輩の大きな手で両頬を押しつぶされてしまった。すみませんでした!

 じゃれ合うような会話ができるようになったのも僕の成長だと思いたい。


 とりとめのない話をしながらブラブラしていたけど、渋谷駅に戻るか、原宿駅に向かうか微妙なところで帰ろうとなった。

 渋谷駅前のスクランブル交差点とその近辺の人混みを回避したくて原宿駅まで歩く。原宿駅を実際に見たことないので見てみたかっただけなんだけど。

 駅前の人混みよりは人の密度が減ったなと思ったら、渋谷公会堂の前は人がいっぱいいて、何かのイベントかコンサートかな。


「左に見えるあの建物がNHKで、右は代々木体育館だ。真っすぐ先に見える緑のところは代々木公園。今は代々木体育館で見えないがあの緑の右側のほうに歩いて行くとすぐ原宿駅だ」

「すぐって言っても、近いようなちょっとあるような?」

「人混みをノロノロ歩いてきたから距離があるように感じるのかもな。サッサと歩けば渋谷と原宿は二十分くらいなんだが」


 確かに人混みの道はノロノロで、自分の歩きたい速度で歩けないのは少しストレスだった。

 でも今日はふわふわかき氷を食べて、自分では来ようとも思ってなかった渋谷にも連れてきてもらえて、ちょっと気分はあがってる。

 NHKホールの前も人がわちゃわちゃいて、並んでる列もあって、ここもコンサートみたい。

 へぇ〜って眺めながら通り過ぎていたら、音なき音が体を突き抜けた。


「!」


 隣を歩いていた秋葉先輩も一瞬立ち止まり、同時に目配せしあって、次の行動からは秋葉先輩に委ねる。


「あの公園まで急ぐ」

「はい」


 念波通信による緊急呼び出し。

 初めて受けた。


「公園の近場で死角を探せ」

「あ! 僕、発動の紙、置いてきちゃってる……」

「俺のを使え」

「すみません!」


 早足で真っすぐ先に見えていた代々木公園を目指したけれど、近いようで遠くて、道を渡れば公園ってところで赤信号!

 青信号になるのを待つ間に秋葉先輩がポケットから取り出したレシートを握って『探知』の発動を頑張る。

 僕たちの異能は異世界との攻防のためだけにあり、普段の日常生活では自由に異能は使えない。

 本部や秘密基地などは異能の訓練のために異能の秘術で使える空間が作られているので、そこでは使える。

 そして普段の生活の場で異能が使える例外は二つ。

 この日常の世界に潜む異世界からのよくないものを排除する任務があるとき。

 もう一つは緊急招集がかかったとき。

 招集された場所までの『転移』や、転移するまでに周囲を欺く『隠匿』や『探知』など限られた異能が使えることになっている。

 例外で使えるといってもやはり制限がある。

 異能に似た超能力や魔法のある異世界では、自らが持つ異能を自由に発動できるけれど、普段の生活のこの場では自由に発動ができないのだ。だから事前に発動させるための何かを指定して持っていないとならない。だいたい小さい紙片に指定の文字や記号を書いて仕込んでおく。

 僕の場合は単語帳の一番後ろの紙にしていたのがアダになった。かき氷に出かけるとウキウキしすぎて、常に持ち歩くだろうと決めた勉強道具をぜんぶ置いてきてしまった。なんたるミス!

 秋葉先輩は日頃の買い物でもらうレシートを活用して、レシートの裏に発動の決め言葉を書いて定期的に仕込み直しているし、複数持っている。僕も今度からレシートにも仕込もう。


 秋葉先輩からもらったレシートを握って発動しろ発動しろと異能を呼ぶ。『探知』はゲート班での任務でスムーズに発動できるようになったのに、瞬時に発動しなくてとても焦った。

 青信号になったときに無事に『探知』が発動でき、真っ先に防犯カメラを探した。死角となる場所はどこだ。この場所、人も車もある。人目もないところ。

 『探知』を練り、百八十度()て、探って、僅かな隙を探して、探して……


「あの歩道橋みたいなやつの、あの大きな柱の向こうの影!」

「展望デッキ裏だな、よし走れ!」


 歩道橋みたいな建造物の影に入った瞬間に秋葉先輩が僕を抱き寄せて『転移』を発動。僕も本部と秘密基地までの『転移』は習得したけれど、今使った『探知』で異能疲労の息切れが酷かった。日常生活の場で異能を使うのは本当に苦しい。

 これから何があるかわからないのに、秋葉先輩に二人分の力を使わせてしまうのがとても申し訳ない。


「ぐぇぇぇっ……」


 転移も異世界からの帰還同様に酔った。

 気持ち悪いけれど、転移した場所はどこだと見渡せば、本部のアルバイトに来ているだだっ広い部屋。

 どんどん人が集まってくる。


「勇人、ここからは志村さんに従え」

「は、はい!」


 秋葉先輩が司令官の顔になった。こめかみに流れる汗は、外の暑さか、走ったからか、『転移』で僕を連れてきてくれた力の使い過ぎか。

 心配だけどぐっと言葉を飲み込んで秋葉先輩の言うとおりに志村先輩を探す。

 父の片腕として特殊部隊の作戦を取りまとめる秋葉先輩。颯爽と走っていくのを視界の隅に見て、部屋を見渡し、志村先輩のもとに走った。


「勇人くん、トイレに行って、着替えたら、すぐに『探知』に入ってくれ。次元に入ったら司令の声に従うこと」

「はい!」


 準備ができた人からに次々に任務開始で、何が起きているのかぜんぜんわからない。わからないけれど『探知しろ』が命令なら、僕は従うまで!

 本部は異能を無理なく使える場なので、さっきの疲労はあるけどぜんぜんいける。


 ロッカールームに飛び込む前に待ち構えていた医務班と思しき職員さんから、使い捨てのオムツを渡された。何時間かかるかわからないからと。

 息が浅くなった。

 でも、やる。

 トイレに行って、ロッカーからゲート班の制服であるパジャマを取り出して着替える。ちゃんとオムツも身に着けた。

 リクライニングチェアのあるゾーンに戻ったら、本部の医務班の人たちがタオルやペットボトルを用意してまわっている。

 もう横になってピクリともしない先輩たちの姿を見て、僕も横になり照明避けのカノピーを下ろし、異能の発動とともに目を瞑ればスッと意識は落ちた。


 『探知』を発動すると、幽体になった自分が蜘蛛の糸が張り巡らされているような空間を漂っているような感覚になる。

 幽体のようなと思っているけれど手も足も見えない、なんというか不思議な感覚。


 いつもと何かが違う。

 入った空間にどこかに引っ張られるような、そんな奇妙さがあるのは初めて。

 それにおかしい。

 いつもなら電子音のような声が座標を伝えてくれて、その場所を探知するんだけど、えんえんに無音。

 まだ待機?

 離脱して確認したほうがいい?

 集団の足並みを乱せば作戦が崩れてしまう。

 けれどなぜか胸騒ぎがする

 僕だけ? ゲート班の先輩たちは?


『五十嵐勇人、探知離脱し……』


 妙だと思って離脱しようとして気が付いた。

 念波通信が使えない!


 ここ、次元の(はざま)だ……。

 あの部屋で実施する『探知』は、職員の安全を考えて、無作為に異世界または異次元に飛べないように制御がガチガチだって習った。

 どの空間で任務にあたるのかはゲート班の調査チームが決めて出入り口を固定。担当者は『探知』を発動すると自動的にそこに出入りする仕組みが作られている。

 それに僕には一人で任意の空間に飛ぶ力はない。父やチーム四鬼などの極一部の人は習得していると聞けば、実力がないとできない難しいことだとわかる。


 なのに僕は知らない場所にいる。

 次元の(はざま)

 空間または次元と呼ぶ異空間に形はないけれど、例えるならヒビが入って漏れることがあって、言うなれば落ちてしまった状態。

 次元の(はざま)では特殊部隊で使う念波通信が不通になるって習った。誰かが空間をこじ開けてくれないと、念波通信の救出用の信号も受信できない。

 とにかく動くなって言われた。

 本来探知入りする空間に僕がいないことに気付いてもらえるか、現実のあの部屋で目覚めない僕に不測の事態が起きたとわかって貰えるまで、僕はここから自力では出られない。


 僕以外の気配はないけれど、異世界の生命体が紛れ込んでいたらやばいと焦る。

 咄嗟に次元を『探知』する異能に重ねて、別の『探知』を広げる。

 些細な揺らぎを探す。

 異能の余力はまだ大丈夫そうだから、研ぎ澄まして『鑑定』も重ねてみる。あんまりレベルは高くないけれど、気配も揺らぎもないことはわかった。

 つまり異世界と繋がるゲートの不穏さはないし、探知した範囲に僕以外の気配もなかった。ちょっと安堵。

 ……したかったけれど、どうしよう。

 謎の吸引に抗っていているつもりなのに、ジリジリと流されている気がする。あわてて異能を重ねて使ったから異能疲労も始まって、抗う力が弱まってしまった。

 どうしよう、どうしよう!

 お願い! 誰か気づいてください!

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愛賀綴のSNS。基本は同じことを投稿しています。どこか一つを覗けば、だいたい生存状況がわかります。小説執筆以外にも雑多に呟いています。

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