9話
それから数日は何も無く過ごしたが、普段よりもサイレンの音はアパートの回りで多かった気がした。
ある日会社から帰ると、ポストに手紙が入っていた。
宛先は自分の名前になっているが、差出人は不明だ。
なんだろうと思いながら、とりあえず中身の確認だけしようと、持って上がる。
袋を破いて中身を確認すると、白い紙が1枚入っていた。
「なにこれ?」
中には何も書かれておらず、よくわからない。
ただの紙だし、事件性なさそうだし、弁護士さんからも気にしなくて良いと言われてるし、気にしないようにしよう。ただ何となく気持ち悪さを感じ、そのまま持っておくのも嫌だったため、早く捨てた。
もう何度目だろういつもの喫茶店に向かう。
「いらっしゃいませ。」
「こんにちは。今日はホットコーヒーをお願いします。ホイップ付きで。」
「ホイップクリームはプラス100円かかりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。」
「今日は幾分か顔色が宜しいようですね。」
席に座ると、いつもの怪しいウエイターがコポコポとコーヒーを入れていく。今回は前回とは違う。
「ずっとモヤモヤしていたものが、少しスッキリしたので。」
「それは良かったです。」
本当にそう思っているのかいないのか、ウエイターは手元しか見ていない。
周りを見渡すが、今日もウエイターの他に、お客さんも店員も誰もいない。
ここの経営はどうなっているのだろうか。
余計な事を考えていると、作り終わったのかウエイターがホイップが添えられたホットコーヒーを持ってくる。
「どうぞ。ホイップを入れる時は、スプーンで混ぜてお飲みください。」
「ありがとう。」
言われるがままにホイップをひとさじすくって、湯気立つコーヒーにいれて混ぜる。熱であっという間に溶けていった。
一口飲むと、耳鳴りと頭痛が始まった。
《運命が大きく変わっている。》
頭の中で声が響く。
《でも、良くはない。》
「え?良くない?」
これ以上何かあるのだろうか。
《警察に言ったことで、今度は組織から命を狙われることになる》
「えぇ?」
予想外の展開に思わず言葉が漏れる。
「どういうこと?」
《彼は危ない組織と繋がっていたみたいね。》
「危ない…組織?」
意味がわからず思わず繰り返す。頭がズキズキと痛い。少し晴れていた心が曇ってくる
《貴女はこの先階段から突き落とされ骨折。その後、通り魔を装いナイフで刺される》
「え?」
そんなことってあるのだろうか。そんなことって…。
《対策をしたら、もっと酷い目に遭う》
《通りすがりに硫酸をかけられ火傷。そののち失明。》
信じ難い言葉が次々と頭に響いていく。
《逃げてもどこまででも追ってくる。組織から指名手配犯のように賞金をかけられ、命を狙われる》
《組織から依頼された隣国のスナイパーから射殺。もしくは拉致され集団暴行に遭った後、山の中へ放置》
とても現実の話とは思えない。
いきなり非現実な世界が襲ってきたようだった。
「そんなことって…。」
視界がグルグルと周り出す。
フラつき横に倒れていく体を誰かに支えられた。恐らくウエイターだろう。
「おや、大丈夫ですか?」
遠くからウエイターの声が聞こえる。頭がズキズキと痛む。とても受け止めがたい。
「顔色が悪いようですね。」
だんだんウエイターの声が近くに聞こえ始めたかと思ったら、視界が暗転した。




