12話
一時期は体調が戻ったが、不調は続いたままだった。気がついたらまた喫茶店へ向かっていた。
「いらっしゃいませ。すっかり常連ですね。」
「…。」
とても元気に答えられる状態ではなかった。
「貴女は本当にここに呼ばれて来た人なのかもしれませんね。この前は随分長かったようですし。ホイップクリームのせいですかね?」
冗談っぽくニコリと微笑まれる。
「普段のお告げが、だんだんとパワーを増してきているのを感じます。こんなこと、滅多にないんですけど。」
「…。」
黙っていても構わず、ウエイターはさも面白そうに話す。
「今日はどうなるでしょうね。随分顔色が悪いようですが、ご注文は?」
「ホットココアで…。」
なんとか絞り出すように声を出し、席へ座る。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
重く沈む私とは対照的に、上機嫌でココアを作っている。
何がそんなに楽しいのか。
荒みそうな心を落ち着けながら出来上がるのを待つ。
「どうぞ。ホットココアです。」
目の前に差し出された湯気立つココアを見つめる。
「どうしたんですか?飲まないんですか?」
相変わらず腹の中が見えないような表情でウエイターはニコニコと笑っている。
「いただきます…。」
少し躊躇しながらもカップを持ち上げる。今回は一体何を言われるんだろうか。でも、この状況をなんとか打開したい。ここしか全てを知っている所がない。
カップに口を付け一口飲むと、強い耳鳴りがした。
《友達に話さなかったのね》
何もかも見透かされてるように言われる。
「話しても良いのかわからなくて…。」
《あの子には話さない方が良いね。話しが重すぎて引いてしまう。受け止めきれない》
なんとなくそう感じてはいたが、改めて言われるとやはりそうかと思う。
《話す人は選んだ方が良い。考えている通り、少なからず巻き込むことになるから》
「上司に言うのは?」
《上司に言うのは良いね。親に言うのは、今は心配かけるだけになる》
「そっか…。」
離れて暮らす両親の顔が目に浮かぶ。
《このゴタゴタが落ち着くまで、実家には帰らない方が良い。貴女は引っ越せるけど、両親は家があるから逃げられないでしょ》
言われてみればそうかもしれない。
《貴女に関わる人達に危害が加わる》
「私はこの先どうしたらいいの?」
《警察に言ってもダメね。組織の仲間じゃないか、全て嘘じゃないかと思われている》
「そんな…。」
《捜査中のことは何も教えてくれないし、何も言ってこない。何かあれば貴女から言ってくるって思ってるから》
「…。」
《貴女に組織の人間が危害を加えようと近づいてくる。そこを捕まえるのが1番楽だからね。何も言わずにおとり捜査にされている》
「…。」
《貴女は良い生贄ね》
目の前が絶望で真っ暗になってくる。
《弁護士も話しは聞いてくれるけど、貴女の話しを内心信じていない。ただの被害妄想だと思っている。警察も何も言ってこないしね》
頭が痛い。
《凄く悪口を言われているわね貴女。皆して貴女を攻撃しようとしている。統合失調症だと思われるみたい》
「統合…失調症…。」
《いっそ病院に入院してやり過ごす?ただ組織の人間から攻撃されるまでの時間が少し伸びるだけだけど》
「それって、どうやっても絶望じゃない…?」
《そうね。階段から思いっきり突き飛ばされるけど、警察は「ただぶつかっただけ」と言うわね。カメラで録画して証拠を持って行ったとしても、まともに取り合おうとはしない。》
目眩がしてくる。
《組織は貴女に罪をなすりつけようとするも失敗し、逆に大ダメージを受けて壊滅状態。メンツがあるから必死になって貴女を殺そうとしてくる。馬鹿だ馬鹿だと思って油断していた相手に、まさかこんなことをされるとは思っていない》
「私昔から馬鹿にされやすいから…。」
《そうね。でも賢く見えない方が良いと内心思ってるじゃない》
心の内を言い当てられて言い返せない。どこまでこのお告げは見透かしてくるのか。
《賢く見えない方が相手が油断するからね。でも、それも時間の問題。貴女が馬鹿ではないと思ってからは本気でかかってくる。そうなれば終わり。ただのひ弱な女の子だからね》
「戦えはしないね…。」
《信じたくないけど、気づいてるでしょ?貴女の周りでパトカーの音が増えているのを。一斉に検挙されてるわよ》
気づかないようにしていたが、ほぼ毎日鳴るパトカーの音を思い出す。
お告げが間違っていると思いたいが、あまりに当たりすぎている。
《どちらにせよ、貴女は短命ね。良くない人生を辿ることになる》
正直そんな気はしていた。
《本来なら貴女一人で罪を被るところを跳ね除けているから、大勢の人を不幸にしている。やっていない罪を本来なら認めざるを得ないはずだったからね》
「でもそれって冤罪…!」
《そう、冤罪。でも警察は貴女を捕まえたがっている。社会人なり始めの時に思い当たる所があるでしょ》
言われて思い出した。その頃知り合ったばかりのあるBARに行った時、店員と2人だった。お酒は普段3杯ほど飲めるのに、1杯目で急に意識が飛んだ。大学生の強制わいせつ事件が騒がれていた時だった。身体に痛みはなかったが、怖くなってすぐに帰った。もう2度とそのBARには行かなくなったが、暫くして職場にスーツ姿をした2人組が現れて話しかけられた。これを知っているかと、見たこともない物を見せられ言われたが、わからないため素直にわからないと答えた。それならいいとなったが、知っていた方が良いものなのかと思い、もう1度考えるため、ちょっと待ってくださいと言った。途端に目の色が変わられたことがあった。その事か。
《そう。思い出した?被害者なのに、被害者だと思われてない。むしろ加害者だと思われている》
「なんの?」
《それは知らなくていい。やっている罪を検挙するより、やっていない罪をやっていないと証明する方が何倍も難しい》
「確かに…。」
《そろそろ限界ね。貴女は一体いくつ人には言えない特殊能力をもっているのかしら…?》
「え?」
最後の方は上手く聞き取れなかったが、耳鳴りがおさまってきた。
「どうでしたか?」
相変らずの怪しいニコニコ顔がこちらを興味津々に見てくる。
「いえ、なんでもないです。」
なんでもない風を装う。
言えるわけがなかった。




