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ニライカナイの夏  作者: 坂崎文明
第二章 オオモノヌシ編

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第十四話 大宮氷川神社

「大宮氷川神社に着いたね」


 薫が笑顔で紅い鳥居を見上げる。

 メガネ先生が氷川神社の解説をする。


「これが一之鳥居。三之鳥居まであるけど、氷川参道は南北に2キロもある。(けやき)並木がまるで緑のトンネルのような光景で実に美しい。春は桜、秋は紅葉、冬の雪が降った日もいいらしい。昔、来たことがあってね。上空から見ると、大宮駅前の都会の中に、まるで長い緑のホウキの柄のように見える」


 メガネ先生の話は目の前の(けやき)並木の緑と相まって、季節の光景まで想像させる物だった。

 メガネ先生と薫を先頭に、二列目に美里と涼介が泉の左右にいて、坂本君と怜が三列目に、最後尾に星、ルナ先生、真田幸村が並んで歩いている。

 これではまるで蛇娘さんを護衛する布陣のように見えなくもない。

 かつては禁足地で公開されていなかった『蛇の池』とかのパワースポットもあるそうなので、用心するに越したことはないのだが。

 しかし、はしゃいでるのは薫だけな気がする涼介だった。


「この参道は日本一長いと言われていて、途中、オシャレなカフェやお店、木のベンチやトイレ、朝のジョギングコースや大宮市民の憩いの場にもなっている。大宮氷川神社は関東一円に280社ある氷川神社の総本社で、創建は紀元前473年(孝昭天皇三年)、ヤマトタケルノミコトが戦勝祈願したり、足を怪我した時に立ち寄って傷が回復してたりしてる。摂社に荒脛巾(アラハバキ)神も祀られていているが、脛巾(ハバキ)はスネに巻きつけるスネ当てという意味もあるので、足腰の病の回復のご利益もあるが、祭神は素戔嗚尊(スサノオノミコト)櫛名田比売(クシナダヒメ)大己貴命(オオナムチノミコト)で、スサノオとクシナダヒメの結婚にあやかって、縁結びの神でもある」


「縁結びかあ。私とは無縁ね」


 美里は嘆くのだが、今の所、縁がありそうなのは坂本君と怜ぐらいだが、この二人はほとんど話をしない寡黙な感じで、やはり、縁が無さそうでもある。

 神話の通りなら、守護神が素戔嗚尊の坂本君と蛇娘の泉もありそうだが、スサノオと蛇娘では敵同士なのでないかも。


「いや、意外や意外なカップルもあるかもよ」


 涼介はちょっと言ってみたが、全く心当たりはなかった。

 言ってみただけだ。


「いや、確かに、禁断の恋とかもあるかもね」


 何を勘違いしたのか、悪代官のような非常に悪い表情の美里がいた。


「涼介さんも意外な人に慕われてるかも」


  怜も調子に乗って言葉を重ねた。


「そうそう、どこに縁があるか、分からないよね。怜ちゃん」


 女同士のとても悪い考えで意気投合する二人だった。


「いやいや、それは無いって」


 涼介は否定したが、目の前にとても雰囲気の良い二人がいるのを見ると、満更でもないと思った。




          ✝




 三之鳥居を潜ると、左右に多くの建物があるのだが、少し歩くと、正面に朱色の手すりの太鼓橋が拝殿の楼門に続いている。

 楼門の左右の回廊も朱色でとても美しい。

 この橋は神域である神社の拝殿や本殿への結界であり、ここから神域に入るという印、警告でもある。

 その左右に『神池』という池が見えてくる。

 右手は美しい池だが、左手の神池には宗像神社が池の中央にあり、やはり、朱色の橋が架かっている。

 この池の水源は例の『蛇の池』であり、そこは常に湧き水が湧いているという。

 その池の傍には秦氏系の松尾神社も見える。


「朱色の楼門が綺麗ね」


 薫は三階建て程度の高さの立派な薄緑の茅葺き屋根の朱色の楼門を見上げた。

 氷川神社の中では一番目立つ建物であり、インスタ映えするスポットかもしれない。

 

「とりあえず、拝殿で参拝してから、いろいろ回ろうか。最初に神様に挨拶しないと、後で祟られるからね」


 とメガネ先生が言った。

 この話はまあ、このメンバーだと非常に説得力あるというか、実際にいろいろと怪異を体験してるメンバーなので、楼門の手前の手水舎(てみずや)で手を清めだした。


 

 

            ✝




「結局、ここに来ちゃったか」


 薫たちは拝殿で主祭神に参拝して義理を果たした後に、かつては禁足地だった『蛇の池』にやってきた。

 この『蛇の池』はかつて見沼にも注いでいた湧水池だが、今は神池の水源地でもある。

 神池自体が見沼の名残りでもある。

 そして、この『蛇の池』が全ての水神信仰の源でもある。


「一応、ここの『蛇の池』の案内板にはやはり、ヤマタノオロチ起源と書かれているね。でも、この池はかつては『御沼(みぬま)』と呼ばれる神聖な湖沼があり、神聖なる龍神が住んでいたという。それが転じて見沼の地名になった」


 メガネ先生はなにか言いたそうな表情でいる。

 言葉を継いだ。


「この大宮氷川神社から南東東の方向に行くと、さいたま市見沼区中川に中山神社、更に行けば、さいたま市緑区に氷川女體(にょたい)神社がある。この三神社は一直線に並んでいて、ちょうど冬至の日の出、日の入りのレイラインになっている。そして、父親のスサノオ、息子のオオナムチノコト、妻のクシナダヒメという関係にあり、「男体社」、「簸王子(はおうじ)社」、「女体社」とも呼ばれています。中山神社には毎年12月8日に行われる「鎮火祭」という行事があり、火が消えた炭火の上を素足で渡り、無病息災や火の難を避ける神事です。これが変化して火渡り神事が生まれた。この神事の火によって氷の覆われている「中氷川」の氷が溶ける。この故事からこの地を『中川』と呼ぶようになったという。氷川女體(にょたい)神社には、神輿を乗せた船を沼の最も深い所に繰り出して、龍神を祭る「御船祭」がある。見沼で最初に祀られた神はやはり龍神であり、後でヤマタノオロチである蛇神が入ってきた」 


「そうですね。蛇神は大地の女神的だし、龍神は天地を行き来するという違いがあるかも」


 薫はそんな感想を言いながら、『蛇の池』を眺めている。

 

「でも、そうなると、ここは龍神のレイラインになるのか」  


 涼介はふと、妙な事を言ってしまった。


「もしくは、龍神の力を蛇神で抑えてるとか。でも、出雲の大国主(おおくにぬし)御使(みつか)いの『龍蛇神』は海蛇の神様とも言われていて、いろいろと習合してるのかもしれない」


 メガネ先生が涼介の考えを補足する。


「あれ、蛇娘さんがいない!」


 美里が気づいて叫び声を上げた。


「まずいわ。(さら)われたかも」


 月読先生が珍しく慌てている。

 

「大丈夫です。こんな事もあろうかと、『(しるし)』は付けてるから」


 ルナ先生が自信ありげに微笑んだ。

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