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第9話 初夜は湯、衣、それと……前編

「栞、動かないように」

「はぃ」


 鵺様は私の火傷した腕に触れる。包帯と傷薬、加護の恩恵もあって痛みが引いたけれど、顔と体の火傷の痕は残る。それが酷く申し訳ない。顔の左半分も酷い状態だと思う。鏡を見ていないけれど、歌舞伎の「東海道四谷怪談」に出てくるお岩さんのようだったらどうしよう。


「この怪我は栞の不注意でも、事故でもない。悪意ある犯行による結果だ。──であれば、()()()()()()()()()()()

「呪い」

「相手が不幸になることを望み、実行した行為そのものが含まれる。栞は【呪詛返し】を知っているだろう」

「はぃ」


 初夜という雰囲気は既になく、勘違いした自分が凄く恥ずかしい。そして唐突に【呪詛返し】という言葉に、巫女姫で培われた知識が浮上する。


「確か平安時代、いえ奈良時代から呪詛そのものが禁止されていましたけれど、一向に収まる様子を見せなかったことで、高名な陰陽師が呪詛返しを作られたのですよね。誰かから受けた呪いや悪意を、かけた本人に跳ね返す、または無効化するもの──」

「さすが栞。よく覚えている」


 チュッと、頬に唇が触れる度に頬が熱くなるのが分かる。今までは獣の姿が多かったし、人の姿での触れ合いは抱擁ぐらいだったので戸惑ってしまう。


(うう、心の臓が鵺様に聞こえてしまいそう!)

「(栞が照れていて凄く可愛い。……そしてこんな姿になっても栞は美しいままだ)……栞、これは今までの行いの結果だ」

「え、あ……」


 私の腕と顔に真っ白な蛇が巻き付いたかと思うと、私の火傷が蛇に移ったのだ。当然、痛みも引く。


「え? うそ……」

「顔は綺麗に消すが、腕は少しだけ痕が残ってしまうかもしれない。すまない」

「そんなことありません!? それよりもこの子たちが!」


 白い蛇に火傷が移ってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。この子たちが私の代わりになるなんて……。そう思うと涙がこぼれ落ちた。


「私の代わりに、この子たちが痛い思いをするのは──」

「栞。蛇の心配までして……本当になんて優しいのだろう。愛おしい」

(いつになく鵺様の触れ合いが! そして甘い言葉ばかりだわ!)


 すでに鵺様の深い愛情に私の心は救われている。それだけで十分だと思うのだけれど、鵺様はそれだけでは終わらせなかった。


「心配しなくても、この火傷は蛇が背負うことはない」

「それはどういう?」

「因果は巡る。そして最終的に自分しでかしたことが帰って行く。それが小生や山神たちの加護なのだから」


 二匹の白い蛇は、四畳半の部屋から消えてしまった。

 因果応報。つまりは私に向けられた殺意が、向けた本人に戻るのだ。真里にあの火傷の痛みと痕が残ることを意味する。でもそれは先ほど夢で否定した復讐ではないだろうか。自分の手を汚さずに、やり返すことに少なからず複雑な気持ちになる。

 こんな形で良かったのだろうか、と。


「鵺様、そのやり方は……復讐とは違うのですか?」

「これは山神や他の神々、小生が保険としてかけていた術式であり加護だ。悪意や敵意に晒されなければ発動しない。それに解呪のように呪いや悪意をかき消す術式や加護もあった」

「それなら──」

「そのかき消す加護や術式が切れたからこそ、呪詛返しが発動したのだ」

「え」


 一度や二度では呪詛返しは発動しないという。つまりは悪意や敵意が通常の加護を砕いた、砕かせる状況だったからこそ発動した。完全に自業自得だと。


「悪いことをした者は、それに相応しい未来が届く。良いことをした者も、またその良きことが形を変えて戻ってくる。……これは栞が今までの行いが形を変えて君の元に届いただけだ」


 自業自得。そう言われてしまえば、そうなのかもしれない。復讐に手を染めなくても、因果応報があるのなら、それが自分に返っていく。誰かを傷つけたら、自分がいつか同じ目に合うように……。

 あの夢で言われた言葉が、頭の中でぐるぐるしている。


「そもそも復讐とは、自分自身の感情や存在を解消するために相手に害を与える行動を指し示す。不当な仕打ちに仕返しを望むことは、自己救済でもある。けれど小生がするのは復讐ではない」

「あ」


 そうだ。鵺様は最初から因果応報だと言っていた。それは人の社会とは異なる人外の領域。神々の天罰、罰が当たるというニュアンスが近い。


(だとしたら、それはあの夢の人とは違う)

「まず気持ちを整えるためにも、湯船に一緒に入ろう」

「はい…………ん?」

「禊ぎの一つにもあるだろう。穢れを洗い流し、身を整えて食事をとる。それから今後の話をしよう」


 ポポン、と太鼓の音が鳴った途端、襖が姿を見せる。いつ見ても不思議だな、と思うもすぐに鵺様に向き合う。


「鵺様も一緒に湯船……!?」

「ダメか?」


 きゅうん、と途端に子犬のような潤んだ目をするのは反則だと思うのです。しょんぼりして尻尾が垂れる幻覚が見える。嫌ではない。一緒に入るなんて、なんだか照れ臭い。夫婦、伴侶になったのなら、これぐらい普通のだろうか。


 またもや違うことでぐるぐるしている間に、鵺様は私を抱き上げて歩き出す。

 いつになくぐいぐいくる鵺様に戸惑いながらも、大事にされていることが嬉しくて口元が緩んでしまった。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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