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第15話 過去との決別を・前編

 

 時は少し遡る。

 私たちは三人掛けのソファに腰掛けて、窓に映し出された映写幕(スクリーン)を眺めていた。


(こんなすごいものはあるのね)

「……(驚いた栞も可愛い。あー可愛すぎる)」


 審神者の登場によって、状況が大きく動いた。真里の影が大きく伸び、巨人のような魔蟲(まとう)の群れ、そして操られている親戚や宿坊の従業員たちが一斉に審神者たちを襲う。それを常春様たちが迎撃に出た。もっとも操られているだけの人たちは、気絶させて捕縛しているようだけれど。


 魔蟲(まとう)の侵食危険度壱あるかないかで、後遺症はさほど残らないだろう。婿候補という形で訪れた彼らは、魔蟲(まとう)のことを心得ているようだった。


(全員、アヤカシだとは思っていたけれど、お強い)

常春秋人(とこはるあきひと)は次の神主代理として、ある神社から引き抜きをした。そこそこ有名なアヤカシだ。君にも縁があるらしい」

「え?」


 記憶にないです。あんな金髪の雅な方知りません。人違いではないかと思うものの、本来は狐の姿らしいと言うのを聞いて、一気に心当たりが……。

 神々の御使いである白狐はよく神域にいるのだ。もふもふしたことや、傷を手当てしたこともある。


(でも絶対に、そこそこな感じではないような気がする……)

「秋人は情報通だから、もし何か知りたいことがあったら聞くと良い。狐の姿で触れ合うのも……。でも人の姿で抱擁は許さない」

「しません!」


 思わず食い気味で答えてしまったが、白鵺様はそのほうが嬉しかったようだ。頬が少し赤い。


「そうだな。栞は一途だからな」

「はい。それに白鵺様以外に抱きしめてくれたのなんて、両親ぐらいですわ」

「ああ。これからは毎日、抱きしめるから沢山甘えてほしい」

「……はぃ」


 はしたないと思われるかもしれないけれど、白鵺様に抱きしめて貰えると安心する。それに夫婦ならそのぐらいは許されるはず。


 ふと軍服姿の殿方が映り込んだ。


(速い。それにあの刀は──)

「先ほどから容赦なく切り刻んでいる軍服は、辻裡源十朗つじうらげんじゅうろうと言い、軍の人間であり、アヤカシ寄りの人間だ。戦闘力に特化しているから、何かあったら盾にして逃げるんだよ」

「盾……、え……盾?」

「うん。軍の人間だけれど、しばらくは栞の護衛でもあるから」

「ご、ご、護衛!?」

「今後栞を傷つけさせないためにも、護衛は必要だからな。でも辻裡に惚れないように」

「はい(……白鵺様が一段と過保護に!?)」


 軍人の辻裡源十朗つじうらげんじゅうろう様の太刀筋は、稲妻のごとく鋭くて速い。使っている日本刀もかなりの業物だ。そして角があるので、鬼のアヤカシなのだろうと推測できる。


(……私そこまで厳重に守れないといけない存在ではないような?)

「辻裡は戦闘に特化していて、小生とよく組んで魔蟲(まとう)討伐をしていたんだ」

「まあ。それでは白鵺様がお世話になっていると、挨拶しなければなりませんね」

「ムッ、小生が世話をしていたのだが」

「それでも……その妻として感謝をしたいのです」

「……妻。うん、栞が可愛すぎる」


 白鵺様は一瞬ムッとしていたが、すぐに笑顔になった。以前よりも感情表現が前よりも豊かになった気がする。そんな白鵺様も素敵だった。


「陰陽師の衣服を纏った眼鏡の男は、龍田周輔(たつくちしゅうすけ)だ。あれもそこそこのアヤカシだ」

(絶対にそこそこじゃない。……それにしてもオシャレな眼鏡だわ。外しても良いようにチェーンが付いているし)


 龍田様の戦い方は札を使っているけれど、何のアヤカシなのか全く分からなかった。白鵺様に聞いてみたら「見たとおりだ」と一言。もしかしたらなんらかの事情があるのかもしれない。


 操られた人はあらかた気絶させたけれど、魔蟲(まとう)の数に圧倒されてしまう。真里の影から、うじゃうじゃと湯水のように、魔蟲(まとう)という黒い蟲の塊が溢れ出ている。それは濁流のように恐ろしく見えた。


「この神社は元々、魔蟲(まとう)を集めるための撒き餌があるからな」

「そうですね……」


 私は驚いていないことを確認して白鵺様は、口元を緩めた。大方予想はしていたのだろう。


「ああ、やっぱり。正当な継承者には、そのあたりの話は聞かされていたか。いや思い出した──のほうが正しいな」

「一応は……ですが」


 それは昔、お父様とお母様に聞いたことだ。忘れていた記憶がスッと思い出せる。


 この地は周囲の魔蟲(まとう)をおびき寄せるよう術式が組んでいる。それが何かは教えてもらえなかったけれど、魔蟲(まとう)に対して刈り取るのが白鵺様であり、そして山神様の力をお借りして浄化するのが、月見里家の役割だ。

 この土地は山神様の清浄な空気が強く、魔蟲(まとう)であっても浄化できる特別な土地。


 そのために代々一族の中で最低一人は、巫女姫、神巫あるいは覡がいたと言う。神楽舞、寄弦によって山神様の浄化効果を高める。

 私はまだ幼かったから、浄化の儀式はお母様とお父様が対応をしていた。そのため両親が鬼籍に入った後、叔父夫婦に経営権や権限を奪われてしまったので、浄化の勢いが以前より弱まっている可能性は高い。


(当時は私も子どもだったから、上手く立ち回れなかったのもある。ううん、大人になった今でも白鵺様がいなかったら……)

「しかしよくもこれだけの魔蟲(まとう)を集めたものだ。小生も定期的に対処していたが、やはり巫女姫である栞の待遇が悪かったせいで山の神もご立腹だったらしい」

「山神様が!?」


 白鵺様は「当然だろう」と、喉を鳴らして笑った。なんとも色っぽい。


「神々の愛し子を無下にされて、寛大で居続ける者などいない。小生とて君が酷い目に遭った時に、何度あの娘もろとも闇に葬ろうか悩んだものだ」

「踏み止まっていただけて良かったですわ」 

「そうだな、小生は頑張ったと思う」


 なんだか褒めて欲しそうだったので、獣の姿でするように頭を撫でてしまった。不敬な態度だったと思って手を引っ込めようとしたら、白鵺様がそれを止めた。


「すみませ──」

「栞。普段の姿でも、このように小生に触れるようになって嬉しい」

「ひゃう」


 その溢れんばかりの色香は、どうやって出ているのでしょうか。少し分けてほしいです。固まる私に、白鵺様は拳一つ分の距離を詰めてきた。


「先ほどの話の続きだが、行動に移さなかったのは、審神者──神祇審省からも止められていたのもある」

(そう。幸いだったのは、審神者様を始めたとした神祇審省が私と白鵺様側に付いてくださったこと)


 そのあたりは山神様をはじめとした様々な神様、そして白鵺様の存在が大きかった。私は色んな方々に支えて貰ってばかりだ。


「栞の瑕疵にならない形で、この神社や宿坊もろもろの権限を返して貰えるのならそちらのほうが、栞はよいのだろう」

「はい。それは……」


 でも私がそう強請ったことで、思ったことで、願ったことで白鵺様に迷惑をかけてしまったのなら──。


「迷惑じゃない。むしろ頼ってくれて小生は嬉しく思っている。小生と栞は夫婦なのだろう。であれば小生は栞を支えたい」

「ですが私は、白鵺様のように何かできるわけでは」


 そうしょげる私に、白鵺様は「そんなことはない」と断言した。その力強い言葉に心が救われる。


「栞が居るから小生は帰る場所がある。それに栞の毛繕いはいつだって小生のためになっているし、小生の生きる理由が栞になっていることは、十分な支えだろう」

「白鵺様……っ」


 蕩けるような甘い言葉だけれど、本心からの言葉だと分かる。口先だけじゃない溢れ出る思いが伝わってきた。誰よりも愛おしい人。この方が居たかららこそ、私は今もこうして人でいられるのだと思う。


 真里が人ではなくなってしまった。すでに魔蟲(まとう)浸食危険度は伍を超えて、人を象った者であり、切り裂かれても魔蟲(まとう)と同化したため、彼女の影からは未だに魔蟲(まとう)という黒い蟲が湧き上がる。


(真里……。人として留まることもできたのに、自分の過ちを認めず、顧みずに、我が儘を突き通そうとした末路が──)

「……さて、そろそろ小生たちも最後の仕上げを行おうか」

「というと、現場に向かわれるのですね」

「ああ」


 白鵺様と離れるのが寂しく、心許なくなる。白鵺様は自分の勤めを全うしようとしているのに、私は自分のことばかりだ。そんな自分が情けないし、歯がゆい。


(でも足手まといの私が行くよりは──)

「栞があの魔蟲(まとう)を全て浄化させる」

「え」

「もちろん、現場には小生も出る。栞の護衛のようなものだ」

「…………えええええ!?」


 声を上げる私に白鵺様は「君ならできる。むしろ余裕だろう」と自信満々に答える。すみません、自信がなんて全くないです。舞だって幼い頃でうろ覚えだし、魔蟲(まとう)を祓った記憶がないのです。


(あんなうじゃうじゃいる魔蟲(まとう)を、私が何とかできるの?)

「心配しなくていい。ちゃんと山神からの贈物もある」

「贈物?」


 そう言って私に手渡してきたのは、年季の入った梓弓だ。梓はカバノキ科の植物で、素材が強靱として弓の材料に使っている。しかしこの梓弓は、触れた瞬間に心音が聞こえてきたのだ。


(この梓弓、生きている!?)

「山神の力も上乗せできる。さあ、さっさと魔蟲(まとう)を浄化して祝杯を挙げよう」

(──っ、せめて心の準備をさせてほしかった!)


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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