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第14話 真里の視点・後編

 

 お父様はその場に土下座していた。額を石畳に擦り付けて、あまりにもみっともない、尊き血筋にあるまじき行為に腹が立った。


「お父様!?」

「お許しください。どうか、お許しくださいませ!」

「お願いで御座います! なんでもいたします! ですからどうか!」


 お母様もそれの倣って、土下座をして許しを乞う。その浅ましく、醜い姿に苛立ちが増す。


「お母様まで!? どうして頭を下げる必要があるの!? 私たちは神々の血を引く高貴な一族なのでしょう! お父様だって、私たちは特別だから言霊を使う者として、気をつけなさいって!」


 私が叫んでもお父様もお母様も、人が変わったかのように土下座してずっと謝ってばかりだ。まるで壊れた人形のよう。

 なんてみっともないの。


「高貴な一族? お前が? 庄屋の娘と、霊力があったことで運良く月見里家の養子となった男が、高貴とは面白い冗談だな」

「え」


 血の気が引いた。

 コウキノチスジジャナイ?

 チガウ。

 そんなはずない。

 お父様は分家だって。本家と同等の才覚と神々の血を引いている。そう言ってうた。そうだって、私に言ったのだ。


「それも……()?」

「そうだ。それもこれもお前が生まれたから──こうなったのだ」

「は?」


 お父様の震える声に私は苛立ちが増した。私のせいだというの?

 私が悪いと?


「お前が見目麗しい姿で生まれてきたからこそ、私たちは『欲』を持ってしまった。私たちは、本当は高貴な一族に違いない、と」

「そうよ。持っている者たちの中に入れば、私たちも特別だと思ったのよ!」


 お父様もお母様も私に嘘しか言わなかった。お父様もお母様も高貴な存在に憧れ、願い、望み、そして思い込んだ。自分たちは高貴な存在だと。偽り続けた。

 ()()()()()()()()()()()()()──()()()()()


「っぷ、あはははは! なんて滑稽なの!? でもそんな事実、どうだって良い。私が望めば世界は変わる。書き換わるのよ! ねえ、カミサマ!!」


 立ち上がって世界が変わるように強く願う。それだけで、私の願いは何でも叶ってきた。今回だってカミサマがいれば──。

 影が大きく揺らいだ。

 しかし──漆黒の影は何かに切り裂かれ、霧散する。あまりにもアッサリと。


「え」


 黒塊が蠢くが、もう私の知っているカミサマではない。ただの蟲だ。


「残念だけれど、それももう終わる」

「せやね。十年、更生する機会はなんぼでも有ったのに、残念やわ」

「ようやく俺たちの出番か」

「……眠い。でも、うぉーみんぐあっぷにはちょうどいいか」


 姿を見せたのは先に訪れて、そそくさと神域に引っ込んでしまった花婿候補たち。太陽が立ち去り、宵闇の帳が降り立つ空の下、彼らの周りには淡い光を纏っていた。

 それは神々しく、そして恐ろしくもあった。


「ひっ」


 金髪の青年は九つの尾を見せ、頭には狐の耳を持つ。軍服の黒服の男は頭に二本の角を見せ、片腕には黒い文様が浮かび上がるが見えた。最後の眼鏡をかけた術者風の男は細めだった目を見開き、じろりと睨む。

 人間ではない。

 直感でそう思った。


「一つ。この神社は魔蟲(まとう)を集めやすい。それはここで祓い、浄化する者が代々巫女姫となり、守護するアヤカシが刈り取っていたから。神社内に魔蟲(まとう)が入ることは可能だけれど、一度は言ったらそう簡単に結界から出さない」

「……魔蟲(まとう)? なんのことよ……」


 審神者は途端に意味不明なことを言い出した。

 魔蟲(まとう)

 何よ、それ?

 この塊のこと?

 これはカミサマだった。


 ブブブブブブブブブブブブブ──。


 羽音がうるさい。

 ソンナコトよりもさっさと世界を書き換えてしまおう。私に相対して生意気なことを言ったあの婿たちも従順に──。


「ああ、()()()()()()()()()()()。それも一つ二つではないらしい」

「なにを──っひ!?」


 にゅるりと、いつの間にか私の肌に真っ白な蛇が巻き付く。それに気づいて親族や両親は悲鳴を上げた。私は蛇の胴体を掴んで投げ捨てようとした瞬間。

 全身に激痛が走る。


「ああああああああああああああああ!」


 途端に全身に火傷のような痣と激痛が走る。それだけじゃない。他の白蛇が巻き付いた瞬間、衝撃と共に痛みが伴う。


 なにこれ?

 なんで?

 いたいたいたいたいたいいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいたい。

 どうして私の思うとおりにならないの!?

 金色の炎が黒々とした何かを燃やし尽くす。小さな塊が灰となって消えていった。


 どうして?

 どうして世界が書き換わらないの?

 私の願いが叶わないなんてありえないのに!!


「ほな、いっちょ上がり」


 きぃん。

 閃光のような音と共に黒々とした何かが切り裂かれて落ちた。それも霧となって霧散する。術者は雷鳴を轟かせて親族たちを攻撃して動きを封じていく。

 何が起こっているの!?

 体中が痛くて苦しくて、つらい。


「どうして……私がこんな目に!」

()()()()? どうしてか」


 地に倒れ込みながらも、怒りを審神者にぶつける。

 私が一体何をしたというのか!

 私こそが被害者なのに!


「な、何の権限があって、そんなことがまかり通るのよ!!」

「神を欺き、偽り、愚弄し、神に愛された者を虐げ過ぎた。それはお前が今まであの巫女姫にしてきた全てが返ってきただけ」

「はぁあああああああ!? なによそれ! あのドブネズミは、そうされてもしょうがない人間だったのよ!!」


 叫べば叫ぶほどに火傷は広がって、体が痛くて苦しくなる。


「騙されるほうが悪い。奪われるほうが愚かだわ! あのドブネズミが高貴な存在だなんてあり得ない。言霊を多用して、感謝と言う言葉を安売りする!」

「何を言っている。そもそも騙すほう、奪う者が一等悪い。そして感謝とは言葉にしなければ伝わらない。そんなことも分からないとは」

「うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい!」


 痛くて、苦しくて、こんなにも理不尽な目に遭っているのに、誰も助けてくれない。あの正礼装(ブラックタイ)姿の青年が来てくれないのか。

 そう期待をした時、足の長い正礼装(ブラックタイ)姿の青年が視界に入った。口元が思わず緩んだ。

 やっぱり最後には私が勝つのだと、そう確信した瞬間。

 ()()()()()()()()()()()()()


「は?」


 ありえない。見間違いだと思った。

 でも何も起きない。

 誰も私を助けようとしない。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 駆け寄って声をかけようとせずに、黒々とした虫の対処をしていた。

 審神者は私を見下して、淡々と言葉を切り返す。私が加害者だと言い続ける。そんなことは絶対にないのに。


「それにしても無尽蔵のように出てくる。ああ、ほんまに嫌になりそうや」

「だがそろそろ真打ちが来るだろう」

「せやな」

「……禊ぎ(てぃくあばす)直会(でぃなー)を終えたみたいだ」


 意味深なやりとり。

 激痛と怒りが溢れて止まらない。ああ、もう何もかもが面倒だ。きっとこれはたちの悪い夢なのだ。でないと私が酷い目に遭うはずがない。

 瞼も重い。


 悪夢なら眠れば醒める。

 そうすれば、あのドブネズミが巫女姫だなんて、嘘だと安心できるのだから。


「さあ、栞。ここで寄絃(よつら)を」

「ですが、白鵺様。鵺であられる貴方様に、あの弓は」

「私のことを気遣ってくれるのは栞だけだ」

「いえ、今はそういうことではなく──」


 聞き覚えのある声に、重かった瞼を開いた。

 そこで白銀の髪の偉丈夫に抱き上げられていた美女が目に入る。


 だれ?

 黒くて艶やかな長い髪に、ブラウスと、紺色の(あわせ)着物に黒のロングスカート。異国の服装を取り入れた──私の憧れていた衣服だ。

 栞……? まさかあれが、あのドブネズミが!?


 別人だ。そんなはずない。

 あんな美しいなんて、ありえない。

 そう思うのに、どうしても目が離せなかった。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

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