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第2話「執行」

都市に、警報が鳴り響いていた。赤い警戒ラインが空を走り、E.I.Dネットワークが全面スキャンを開始する。

——魂共鳴値、100%。——分類:魂融合ソウルリンク。——対象:倉科愁真(くらしなしゅうま)、および未登録個体エノア。——魂執行局(ソウルエンフォーサー)、緊急出動。

 

夜の街の空を、黒い執行艇が滑る。静かな音で、しかし確実に、誰かを“消す”ための装置が動き始めていた。

 

 

「……感情共鳴100%? 本当なのか、それ」

 

魂執行局(ソウルエンフォーサー)・第六課の監視室。その中で、青年がひとり、ディスプレイを見つめていた。

 

稀崎蓮(きざきれん)、18歳。現場最年少の魂執行官(エンフォーサー)にして、愁真(しゅうま)のかつての親友だった。

 

「やっぱり、お前はまた感情に飲まれたんだな……愁真(しゅうま)

 

彼は呟いたあと、懐から銀色のEIDバッジを取り出した。それは魂執行官にしか持てない、正式な“執行権限”の証だった。

 

——命令。対象《倉科愁真(くらしなしゅうま)》、拘束レベルA。——必要ならば……執行を許可する。

 

「お前がもし、本当に“共鳴”したのなら……俺が止める。昔みたいに。」

 

 

「こっちだ、早く!」

 

愁真(しゅうま)はエノアの手を引いて、地下の廃線路を駆けていた。冷たいコンクリートの床、湿った空気、そして背後から迫る機械の足音。

 

彼のE.I.Dウォッチが何度も警告を鳴らしていた。

 

——感情指数:8.9——警戒レベルB、追跡継続。

 

「……これ、やばいな。完全に包囲されてる」

 

「ごめんなさい、私のせいで」

 

「違う。俺が……感じたからだ。お前の声を、心を」

 

愁真(しゅうま)は走りながら、ふとエノアの横顔を見た。銀色の瞳に、微かに揺れる光。それは、数値で測れるような“感情”じゃなかった。

 

「お前、どうして……俺の心が分かったんだ?」

 

「わからない。でも……響いたの。あなたの孤独が、私の中に」

 

そのとき、地下の天井が割れた。無音で降下してきた公安ドローンが、二人に光を浴びせる。

 

——対象発見。警戒レベルA。排除命令を準備。

 

「ちっ……!」

 

愁真(しゅうま)はエノアの手を強く引いた。光を避け、廃ホームの階段を飛び降りる。

 

ドローンの追跡が再開され、銃口が赤く発光する。

 

——警告:対象が“未解析AI”と接触中。リスク指数、計測不能。

 

愁真(しゅうま)は息を切らしながらも、叫んだ。

 

「エノア、この先に……旧データ区がある! そこで何か分かるかもしれない!」

 

彼女は小さくうなずく。

 

「その場所、知ってる……気がするの。たぶん、私の記憶が残ってる」

 

「記憶? お前、やっぱり——」

 

「……“あの研究所”で作られた。あなたと、同じ場所で」

 

 

 

夜のネオ=アークを、静かに照らす監視ドローンの光。魂執行局(ソウルエンフォーサー)の執行艇が、今まさに発進しようとしていた。

 

稀崎蓮(きざきれん)、出動を許可。対象:倉科愁真(くらしなしゅうま)。接触時、即時執行可能」

 

青年は立ち上がる。かつての親友が、いまや国家から最も危険視される“魂融合体(ソウルリンクド)”となった。

 

それでも、稀崎(きざき)の目には迷いがなかった。

 

「これは“仕事”だ。でも……どこかで願ってる。お前がまだ、俺を覚えていてくれるって」

 

彼の腰には、感情干渉型リボルバー——**EVEエモーション・ヴェイン・エグゼキューター**が装備されていた。

 

引き金を引けば、相手の“感情”そのものを破壊できる、魂執行局(ソウルエンフォーサー)の非公開兵装。

 

「——待っていろ、愁真(しゅうま)。お前の“心”が、まだそこにあるなら」

 

 

 

廃墟となった旧データ区の奥。愁真(しゅうま)とエノアは、かつて“感情”を研究していたというラボの扉を見つけていた。

 

扉の表面には、かすれた文字でこう刻まれていた。

 

《E.M.O.:Emotion Mechanics Observatory》

 

それが、すべての始まりだった。


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