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そらのかけら  作者: 夜と雨
最終章:
66/71

第六十二話

 レスルが記録者たちを率いて、レイスの元に向かう中、レイスは1人、トガビトと対峙していた。


 レイスの集中力は今までにないほど高められており、付かず離れずの距離を保ちながら、闇の攻撃をいなし、回避して、迎撃し続けていた。


「こんなものか、ミミ!」


 声を上げて、挑発するレイス。

 それに呼応するように、飛んでくる闇の速度が上がった。


「…む!…はは!……今のは少し危なかったな!」


 地面を凍らして滑ることで、危なげなく回避するレイスは顔に笑みを浮かべる。

 2人が通った後は、闇による大地の侵食や不自然に抉られた後などが残っていた。


『…何を楽しんでいるんですか、あなたは。こちらは再配置完了しましたよ、30秒後にスイッチしましょう』


 レイスの通信機からレスルの呆れた声が響く。


「レスルか…う、うむ…わかった」


『残念そうな声を出さないでください、では一度引いてください』


 入れ替えの指示に残念そうな声で応えるレイスを無視するように通信が切れる。

 そして、きっかり30秒後にレスルが現れて、入れ替わった。


「…中々に手強いから気を付けろ」


 レイスはすれ違う際に忠告した。

 槍の形をした闇がレイスの背後から迫る。


「それは……わかってますよ!」


 レスルはそれを短剣の形をした封具で弾いて、立ち止まる。


「それでは、作戦を再開しましょう」


 レイスが誘導班に合流したことを横目で確認した後、短剣を構えた。


 * * *


 挑発するようにトガビトに魔力を飛ばして、自身の身を追わせていく。


「そろそろ、次の配置場所に着きます。準備しておいてください」


 手早く通信機で連絡を飛ばして、後方に視線をやる。

 手を上げて応える記録者を確認して、一気に下がった。


「もうすぐトキレイムです。無理はせず、異常があればすぐカバーに回ります」


 涼しい顔のレスルは、緊張した顔の記録者の肩をすれ違う瞬間に軽く叩いた。


「こっちだ!トガビトめ!」


 少し緊張が解れた顔になった記録者はトガビトの注意を引くために大きく魔力を放った。

 トガビトの標的が変わり、新たな記録者へと向いた。


 * * *


 交代を繰り返して、ようやくトキレイムの門が見えてきた。

 町と外界を隔てている門は開かれており、町中には人の気配はなく、すでにトガビトの侵入に備えているようだった。


『すでに住民は避難させています。そのまま本部まで向かってください』


 誘導をするレイスに、レスルは指示を出す。


「よし、ラストスパートだな!」


 そう言って、門へと疾走して、潜り抜けるレイス。

 その走りは長時間の誘導を続けているにも関わらず、疲れを一切感じさせないほどであった。


 トガビトもレイスのすぐ後を追って、門を乗り越えるように抜けた。


「ついて来い、ミミ!ゴールはもうすぐだぞ!」


『…⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!』


 トガビトを振り返り、声をかける。

 反応するように身体中に張り付いた目をレイスへと向けて、声を上げるトガビト。


 トガビトは建物に当たり、乗り越え、潰しながら追いかける。


 やがて見えてきた記録者本部。

 その奥には記録の塔が聳え立っていた。


『レイスさん、記録の塔の最上階へはどう向かいますか?本部の中を通るには、やつでは狭すぎます』


「ふ…そんなもの…!外側を登るとするさ!」


 レイスは手に持った封具に魔力を纏わすと氷で塔までの階段を形成していく。

 階段に飛び乗ると一気に駆け上がる。


 トガビトも同様に氷の階段に飛び乗り、減速せずに登り始める。

 重量で氷に亀裂が入るが、砕けることなく支えた。

 身体を構成する闇が氷を侵食していく。


 そして“何か”に呼ばれるように——その目を塔の頂に向けて、咆哮を上げる。


「…あ…!レイスさん!こちらです!!」


 最上階にいたであろうシィロが咆哮に反応して、塔の上から顔を出した。

 シィロはレイスを見つけて安堵した表情で見下ろして手を振っていたが、すぐ後ろに迫るトガビトの姿を見て息を呑んだ。


「シィロ!…待たせた!このままそちらに行って大丈夫か!?」


「祈りの舞台には特殊な結界があって、ミミの動きを止めることができます!気にせず向かってください!」


 氷を侵食していた闇が、トガビトの走る速度を凌駕してレイスの背後まで迫っている。


「レイスさん!後ろ!氷の色が異常です!」


 シィロの声に反応したレイスは自身の後ろの氷を切り落として闇を落として侵食を防ぐ。

 しかし、それも一瞬のことで、すぐさま新たな闇が伸びて侵食を再開する。

 今の攻防でトガビトとの距離が少しだけ縮まったように見えた。


「かなり近付いています!急いでください!」


 シィロは塔の最上階から、半ば身を乗り出すようにして声を張り上げた。

 焦り、恐怖、そしてレイスを信じる想いが、喉を震わせていた。


 ここにきて、トガビトの速度が上昇する。


「…ああ!ミミの速度が上がっています!」


 駆け上るレイスとトガビト。

 徐々に縮まっていく距離にシィロは思わず目を塞ぐ。


「…任せておれ」


 何処からともなく声が響いた。

 凄まじい魔力の奔流を感じて、目を開いたシィロは目の前の光景に驚いた。


 レイスとトガビトの間を隔てるように、見えない何かがあった。

 それによってトガビトや闇の侵食は思うように進むことが出来ずにレイスとの距離が再び開いた。


「この魔力はハンゲツ様…?レイスさん、今のうちですよ!」


 そう思ったのも束の間、見えない何かは消失したのか、トガビトがレイスに向けて駆け上がり始める。

 最早、闇の侵食よりも速く迫っていくトガビト。


『⬛︎⬛︎⬛︎!⬛︎⬛︎⬛︎!』


 トガビトは喉の奥から濁った咆哮を絞り出し、肉が捩じれるように形を変えた。

 闇の触手が這い、空を裂くように伸びていく。

 その姿はレイスを掴もうとしているようであった。


 誰もがレイスを掴んだかのように見えた。

 だが、そのとき最上階付近に到着した彼女は、前方に大きく跳躍しギリギリのところで交わして、最上階に着地した。

 流石の彼女も肩で息をしていた。


 ほぼ僅差と言っても過言ではないタイミングで、トガビトも祈りの舞台へと到達する。

 シィロは近くで見るそれの迫力に息を止めた。


 そして、祈りの舞台に静かに光が灯り始めて、神々しい光へと変化していく。


『…⬛︎⬛︎!?』


 その光がトキビトを包み込むと、動きが止まった。


 光に目が慣れるころ、祈りの舞台の中央。

 一点の濁りもない純白の装束をまとい、朝陽は静かに祈りの舞台に立っていた。

 視線はまっすぐにトガビトを捉え、わずかに震える指先も、揺らぐことはなかった。


「……ミミ、待ってたよ」

 

 朝陽は静かに語りかけるように言った。


 ——いよいよ、「祈り」が始まる。


 最後の幕が、いま上がろうとしていた。

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