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そらのかけら  作者: 夜と雨
第六章:アズールヘヴンへの扉
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第二十一話:痕跡の集め方

 翌朝、登校準備をしている空のもとに、シィロが訪れた。


『おはようございますー、少し良いですか?』


 まだ、少し寝惚けているような声で喋るシィロは告げた。


「おはよう、シィロ。どうしたんだ?一緒に学校行くのか?」


『それですが、私はトガビトの警戒があるので、家で、ごろご…いえ、目を光らせておきます』


「…本音が聞こえてるぞ」


『さて、お仕事頑張るぞー』


 身体をピンと伸ばして、部屋から出て行こうとしていたが、思い出したかのように空の方を見た。


『そうじゃなくて、ノエリウムは置いていく方が良いと思います。トガビトが狙っていましたから』


「ああ、確かに…わかった、置いていこう」


 空はポケットの中から出したノエリウムを布で包んで、大事に机の中にしまった。


『ちゃんと、私が監視しているので、心配しないでくださいね』


「頼んだよ、シィロ」


『任されました!』


 シィロの髭がピクピク動いて頷いた。




 午前中の授業はあっという間に終わり、昼休みに空と伊織は購買でパン購入し屋上に向かっていた。


 屋上でパン片手に並んで腰掛ける。

 屋上の柵の隙間から風が抜け、空の髪をやわらかく巻き上げる。

 焼けたコンクリートの匂いと、グラウンドから聞こえる喧騒。


「昨日は気付いてなかったんだけど、結局、“痕跡集め”って何すればいいんだろな?鍵になるって言ってたけどさ」


「……正直、俺にもよくわかってない。痕跡って、思い出とか……そういうものだと思うけど」


「ふーん……でも、それってどこに落ちてんだ?落とし物でも探すみたいな感じか?」


「……」


 空は下を向いて、少し悩んだあと、顔をあげた。


「……放課後、一度帰ってシィロに聞いてみようか」


「そうだな…具体的にどうすれば良いかわかんなきゃ動きようがねぇもんな」


 二人が学校が終わった後、聞きに戻るという結論を出したとき、ふと、風の音が一瞬だけ止まった。

 空気がピンと張り詰めたような静寂。

 その瞬間、声が響いた。


『……その必要はありません!』


「うわっ!?……シィロ!?」


「どっから湧いた!?」


『すみません。……実は、お二人に渡さなければならないものがあって、来ました』


 シィロは人間の姿に変身して、ノエリウムを取り出した。


「……ノエリウム?」


「はい。鍵を作るためには、ノエリウムが必要です。……それも、“朝陽さんの”ノエリウムが」


「え、なんで?」


「……このノエリウムを観察してわかったのですが、これには朝陽さん自身の想いだけでなく、彼女のお母様の“想い”も記録されています。想いを繋ぐ鍵の触媒としては、これ以上のものはありません」


「……母親の……」


「はい。そして痕跡とは想いの残響……言ってしまえば、かけらのようなものです」


「…かけらか」


「ええ、そのかけらは今、空さんの想いによって、この世界に留められています」


「シィロ、そのかけらってのは、何処にあるとかはわかるのか?」


「…すいません、何処にあるか、までは分かりませんが、この町により強い想いが五つほどあるようです。」


「じゃあ、その五つを集めれば、鍵が作れるって事だな!」


「確実に…とまでは言いませんが…ただ、ノエリウム、朝陽さんの想い、お母様の想い、空さんの想い、これらの条件が揃っているからこそ、痕跡が集めることができ、そして鍵を作ることができます」


「それで…具体的にはどうやって集めるんだ…?」


「朝陽さんに関わる場所に行って、ノエリウムを反応させる……それを繰り返してください」


「…ノエリウムを持って、痕跡を見つけてみればわかるってことか」


「そうです。……でも、ひとつ懸念点が」


 そのとき、シィロの声に呼応するように屋上に、ひときわ風が強く吹いた。


「昨日、ノエリウムに惹かれて現れた“トガビト”も、恐らく、痕跡の残響に惹かれてきます。ですから、痕跡を集めれば集めるほど、彼らが引き寄せられる可能性は高まります」


「そうだな…あのとき、確か、渡せってって言ってたもんな…」


「でも、それでも……集めなきゃいけないんだ。朝陽を、取り戻すために」


「そうですね…しつこいようですが、危険だと思ったらすぐに逃げてくださいね」


 空はシィロからノエリウムを受け取った。

 指先に宿る温度に、心の奥がじわりと震える。

 これは確かに、朝陽の“存在の残響”だと空は感じた。


「それでは、ノエリウムも渡しましたし、私は天音家に帰りますね」


「ありがとう、シィロ。痕跡が集まったら、またよろしくな」


 シィロが帰った後、しばらくして昼休みの終わりを告げるチャイムがなり、二人は急いでパンを食べ、教室へ戻った。

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