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そらのかけら  作者: 夜と雨
第三章:境界線
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第十話:日常のほつれ

 月曜日の朝、空はいつもより少し早く登校した。

 校舎を包む空気は、梅雨が明けきらない湿気を含んでいて、どこか重たい。


 教室に入ると、まだ誰も来ていなかった。窓を開けて風を入れながら、空はポケットをそっと確かめた。

 “かけら”は、何も言わずにそこにあった。


(……今は、静かだな)


 そんなことを考えながら席に着くと、しばらくして朝陽が登校してきた。


「あ、おはよう、朝陽。……あの、昨日……ごめん。探すの、手伝えなくて」


 朝陽はその言葉に少し驚きながらも、すぐに首を振った。


「ううん、気にしないで、気を遣ってくれてありがとう」


 会話はごく自然に交わされた。けれど、どこか引っかかる。

 空は昨日のことを、はっきり覚えていた。

 でも——朝陽の言い方は、まるで“本当に探していなかった”かのような、そんな口ぶりだった。


「……でも、また、ちゃんと探しに行きたいなって、少しは思ってて」


 朝陽はそう言いながらも、どこか曖昧な目をしていた。


 朝陽の反応に、空は少しの不安を覚えた。


(ペンダント…お母さんの形見だったんじゃ…)


 本当は、もう一度問いかけたかった。

 でも、口を開くより早く、教室の扉が開いて、いつもの朝の喧騒が流れ込んできた。


 言葉は、タイミングを逃して、喉の奥で止まったままだった。




 その後も中々、朝陽に話しかけることが出来ないまま、昼休みに入ってしまった。


 空は教科書を取りに鞄を開けたとき、ふと気がついた。


(……あれ、反省文……ない?)


 昨日、先生から提出するよう言われた“反省文”が、どこにも見当たらない。

 何度確認しても、鞄の中には入っていなかった。


(やば……まさか、机の上に置きっぱなし……!?)


 真面目な先生に怒られるのが確実で、しかもペナルティがあるかもしれない。

 ただの失念とはいえ、さすがに気まずすぎる。


(……最悪だ……なんで今日に限って……)


 その瞬間――


 ——視界が、ふっと白く霞んだ。


 


 次に意識を取り戻したとき、空は自分のベッドの上にいた。


(……!?)


(今の、なんだ……!?)


 状況が飲み込めず、空は身を起こす。


「お兄ちゃーん!早く起きないと遅刻するよー!」


 下の階から、あかりのいつもの声が響く。

 空は思わず時計を見た。……時間が、戻っている。


(……まさか、また……“巻き戻された”……?)


 あの感覚。あの眩しさ。あの時と、同じだ。


「やば……!」


 急いで制服に着替えながら、ふと部屋の机に目をやる。


(……あった!)


 置きっぱなしだった反省文がそこにある。

 空はすぐにそれを鞄にしまった。


(後で……ちゃんと考えよう。今は急がなきゃ)


 階段を駆け下りて、靴を履きながら叫ぶ。


「行ってきまーす!」


 朝ご飯も食べず、空は家を飛び出した。


 


 学校に到着すると、教室にはまだ数人しか来ていなかった。

 空は鞄を置きながら、ポケットの中をそっと確かめる。


 “かけら”は、静かにそこにあった。

 まるで——何事もなかったかのように。

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