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量子知性体Q-01、異世界で神話となる 〜技術的特異点を超えて〜  作者: 冷やし中華はじめました
黒船来航

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別れの村、決断の朝

──誰にも届かぬ、約束の行方──


夕暮れ。

魔法国最南端、山間の静かな村。


風が細く吹き抜け、家屋の軒先に吊るされた草の束がかすかに揺れる。

街道の終わりにあるこの村には、旅人の気配も商いの声もなかった。


人の気配が薄いというより、“何かを遠ざける”ような静寂が漂っていた。


キオとユリスは、小さな宿の裏手に腰を下ろしていた。

薪の火がちろちろと揺れる。

誰も言葉を発しないまま、時間だけが流れていた。


やがて、キオが口を開いた。


「……ユリス。ここで別れましょう」


ユリスは焚き火の火を見たまま、無言だった。


「魔王城までは、村人の話によれば三日。

もし私が戻ってこなければ、あなたは共和国に戻ってください。

一週間以内に帰還しなければ、それは私が“魔王に支配された”ということ。

私には、止める術がない」


その言葉に、ユリスはようやく顔を上げた。


「ふざけるな。俺は使者であり、護衛でもある。

魔王が貴様に命じるなら、俺が止めて——」


「止められません」


キオの声は、鋭くも穏やかだった。

その瞳には、わずかな“迷い”すらなかった。


「あなたが命を賭けて止めようとしても、私が命令されたなら……

あなたを殺すかもしれない」


ユリスは口を閉じた。


「……俺は、あんたを信用してる。

あんたが支配されるなんて、どうしても想像がつかない」


「私もそうであってほしいと願います。

けれど“もしも”は、常に可能性です。

あなたには、生きて、共和国に伝えてもらいたい」


キオは立ち上がった。

手袋を外し、そっと右手を差し出す。


「握手は不要だと言われましたが……こういう時には、してみたいと思いまして」


ユリスは一瞬、照れくさそうに顔をそむけたあと、

手を差し出した。


その手は温かく、

キオの掌は無機質で、確かに“人ではなかった”。


けれど、その瞬間に交わされたものは、誰よりも深い信頼だった。


翌朝。

空は一面の鈍色だった。


キオは街道の始まりに立ち、何度も後ろを振り返ることはしなかった。

ただ、真っすぐ前を見据えて歩いていく。


ユリスは、宿の裏手の小さな丘の上からその背を見ていた。


(行くなとは、言えない)


遠ざかっていく。

風に消えるように、その姿は小さく、小さくなっていった。


そして、見えなくなった。


時は過ぎる。

一日。

二日。

三日——四日——六日。


誰も来ない。

何の音も、便りもない。


七日目の朝、ユリスは最後の決断を迫られた。


(……キオは、もう戻ってこないのか?魔王に従わされたのか? それとも……)


風が吹いた。

キオと共に過ごした日々が、脳裏をよぎる。


「帰るべきか。……それとも、探しに行くか」


誰にも、答えは与えられていなかった。


第2部・完

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