歩みの中で見るもの
──変わる景色、変わらぬ問い──
魔法国の王都を出て三日。
キオとユリスは南西の山間を越え、平原地帯へと入っていた。
かつては農地すら疎らだったこの地に、いまは整備された街道が続いていた。
土を固めた簡易舗装に、要所ごとに設けられた水の補給所。
周囲には、共和国式の風力測定塔と、魔法式の地脈感知板が交互に立っている。
「随分と……変わったな」
ユリスが、ぽつりと漏らした。
「ここは数年前、獣道みたいなもんだった。
今は物流ルートの一部に組み込まれてる。食料も工芸品も流れてる」
キオは歩を止め、足元の舗装に触れた。
「この配合は……砂利と魔力練度の高い粘土を混ぜたものですね。
表面だけでなく、振動と熱を吸収する層になっている。
……実に、合理的です」
「それ、お前が考案したんだろ」
「私は提案しただけです。
使いこなしたのは、彼らです」
少し進むと、小さな村があった。
だが、かつての“村”の風情はなかった。
集落の中央には風力蓄電装置が設置され、
各戸に魔力灯と調理用の熱板が供給されている。
中央広場では子どもたちが紙に何かを書きながら、互いに発音の練習をしていた。
「……教育が根付いているな」
「はい。基礎文字と記録法、簡易算術が義務教育化されました。
この村も、学舎の分校が設置されたばかりです」
ユリスがうなずいた。
「文字を読む力は、“見る力”を変える。
理解できないものを“見えるようにする”ってのは、大したもんだ」
二人は昼食に、村の露店でパンとスープを買った。
ユリスはふと、店主の少年が扱う計算板を見て言った。
「……あれ、そろばんか? 共和国式に似てるけど、独自改良入ってるな」
「彼らが改良しました。
使いやすさより、読み取りの速さを優先した結果、配置も変わりました」
「お前の知識が、形を変えて受け継がれてる。……面白いな」
キオはパンを一口かじるふりをして(もちろん消化はしない)、
視線を遠くの田畑に送った。
「“正しさ”は、共有されることで“知恵”に変わる。
私は、その構造が見たいだけかもしれません」
道中の街では、工房から蒸気が立ち上り、
魔力補助つきの織機で布が編まれ、陶器に絵付けされた商品が市に並んでいた。
キオはその中で、手作りの玩具にふと目をとめた。
小さな魔力仕掛けで羽がぱたぱたと動く鳥の人形。
それを握りしめていたのは、笑う赤ん坊だった。
「……あれも、お前の仕組みだな」
「ええ。ですが、あの子にとっては“遊び”であり、
発明でも、技術でもないのです。
それが、いいのです」
ユリスは頷き、背中の荷を少し持ち直した。
「……だが、これだけ“人が育ってる”場所を離れて、
本当に魔王に会いに行くってのは、相当な決意だな」
キオは歩を進めながら、静かに答えた。
「だからこそ、行くのです。
この社会が“守られるに足るものか”、
そして“対話は、破壊より速く届くのか”……
それを、確かめに行く旅です」
道は、さらに山の向こうへと続いている。
魔王国は、その先にある。
だが、そこに至るまでに、
キオとユリスはこの世界の“変わりゆく風景”を、確かに目に焼きつけていた。




