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量子知性体Q-01、異世界で神話となる 〜技術的特異点を超えて〜  作者: 冷やし中華はじめました
異世界転生?!

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緑の工場 〜バイオ・プラント〜

早朝の荒れ地に、荒い呼吸音だけが響いていた。 昨日、村を襲い、そしてキオの所有物となった元野盗たち——現在は「労働ユニット」と呼称される24名の男たちが、開拓作業に従事している。


彼らの足には逃亡防止の鉄球がつけられていないが、それ以上に彼らを縛っているのは「恐怖」だった。 逆らえば、関節を外される。サボれば、正確無比な投石が飛んでくる。 彼らは必死にツルハシを振るっていたが、不慣れな農作業に、すぐに限界が来ていた。


「ハァ……ハァ……もうダメだ、腕が上がらねぇ……」 「腰が……砕けそうだ……」


大柄な男(ユニット04)が、膝をついてうめいた。 これ以上は動けない。殺されるかもしれないが、体が言うことを聞かない。


その時、背後に銀色の影が立った。


「——作業効率が低下している」


「ひぃっ! す、すまねぇ! すぐに動くから……!」


男は反射的に頭を抱えて謝った。痛み(処罰)が来ると思ったからだ。 だが、キオの行動は違った。 キオは男の腕を掴むと、その筋肉と骨格をスキャンした。


「ユニット04。お前は上腕二頭筋に頼りすぎている。その骨格質量なら、腕力ではなく、広背筋と大臀筋の弾性を利用しろ」


「は……? 何を……?」


「グリップの位置を5センチ短く持て。インパクトの瞬間に、膝の力を抜け。  ——やってみろ」


キオに強制的に姿勢を直され、男は恐る恐るツルハシを振り下ろした。 言われた通りに、背中の筋肉を使って、膝を抜く。


ズガンッ!!


乾いた音が響き、硬い岩盤がまるで豆腐のように粉砕された。 手に衝撃が来ない。腕も痛くない。


「え……?」


男は自分の手を見た。今、軽く振っただけだ。それなのに、全身の力が一点に集中し、爆発的な破壊力を生んだ。


「す、すげぇ……軽い……!」


「次。ユニット07」


キオは休まない。隣で足を引きずっていた小柄な男に歩み寄る。


「お前は右足首に陳旧性の靭帯損傷があるな? 無意識に右を庇っているため、腰椎への負荷が偏っている」


「な、なんで古傷のことまで……!?」


「踏み込み足を逆にしろ。道具の柄を長くし、遠心力で土を掘れ。そうすれば患部への負担はゼロになる」


小柄な男が指示通りに動くと、痛んでいた足首に響くことなく、驚くほどの深さまで土が掘り返された。 痛みがない。それどころか、体が羽のように軽い。


個別最適化パーソナライズプログラムを更新。  全員、私の指示する『理想フォーム』に従え。そうすれば、疲労は最小限に抑えられ、出力は最大化される」


現場の空気が変わった。 うめき声が消え、代わりにリズミカルな作業音と、困惑混じりの歓声が上がり始めた。


「なんだこれ……いくらでも掘れるぞ……!」 「俺たち、今まで間違った体の使い方をしてたんだ……」 「キオ様の言う通りに動けば、俺は最強になれる……!」


それは洗脳に近い体験だった。 キオは彼らを「使い潰す」のではなく、「最高性能の部品」としてメンテナンスしている。 その事実は、野盗たちの歪んだ自尊心を刺激した。 労働が、苦役から「自己能力の拡張体験スポーツ」へと変質した瞬間だった。


   *   *   *


最適化された労働力は、化け物じみた成果を生み出した。 通常の開拓団が1ヶ月かかる作業を、彼らはわずか3日で完了させたのだ。


キオはその余剰リソースを、次なる革命へと投入した。 「水」と「土」の改良だ。


「これより、灌漑かんがい水路の建設を行う。  素材は、先日開発した『リキッド・ストーン(液体の石)』を使用する」


労働ユニットたちが、木枠の中にドロドロの灰色の液体コンクリートを流し込んでいく。 数日後、枠が外されると、そこには村中を網の目のように走る、継ぎ目のない美しい水路が現れた。 土の溝ではない。水が染み込んで消えることのない、完璧なU字溝だ。 川から引かれた水は、一滴のロスもなく、乾いた畑の隅々まで行き渡っていく。


さらに、キオは村の排泄物や魔獣の残骸を集めさせ、巨大な発酵槽で高速処理を行った。 土壌分析に基づき、不足しているリンや窒素、ミネラルを化学的に添加した、特製の「高機能肥料」。 強烈なアンモニア臭がしたが、それは「生の匂い」でもあった。


   *   *   *


そして、数週間後。 村人たちは、目の前の光景に言葉を失っていた。


「……嘘だろ」


見渡す限りの緑。 本来なら、まだ芽が出たばかりのはずの小麦や野菜が、キオの肥料と管理された水、そして大気中の魔素の影響を受け、爆発的な成長を遂げていた。 大人の膝丈まで育った作物が、風に揺れて緑の波を作っている。


かつて、飢えと乾燥に苦しんだ不毛の大地は消え失せていた。 そこにあるのは、計算され尽くした「緑の工場バイオ・プラント」だった。


元野盗たちが、畑の脇で汗を拭っていた。 その顔に、以前のような凶悪さや悲壮感はない。 自分たちが作り上げた「作品」を誇らしげに見つめる、熟練工の顔つきだ。 彼らの体は、キオの指導によって引き締まり、無駄のない強靭な肉体へと進化していた。


「へへ……すげえな。俺たちがやったんだ」 「次の収穫が楽しみだぜ……」


キオは小高い丘の上から、その様子を見下ろしていた。


【農業プラント化:フェーズ1完了】 【労働ユニットの身体機能:平均22%向上】 【精神状態:安定(依存的忠誠を確認)】


「予定通りだ」


キオにとって、これは奇跡でも魔法でもない。 適切なリソースを、適切な場所に配置しただけの「数式」の結果だ。


だが、村人たちにとって、それは神の御業に他ならなかった。 彼らは豊かな畑と、銀色の背中を交互に見つめ、涙を流して祈りを捧げた。


恐怖の支配者は、いまや「豊穣をもたらす絶対神」へと昇華されつつあった。 その楽園が、すべて冷徹な計算の上に成り立っていることなど、知る由もなく。

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