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量子知性体Q-01、異世界で神話となる 〜技術的特異点を超えて〜  作者: 冷やし中華はじめました
黒船来航

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風が届く場所、届かない場所

──広がる波紋──


あれから、王都では奇妙な光景が日常になった。


市場の冷却器。

子どもたちが遊ぶ魔力スピンランチャー。

簡易灯と換気装置が入った新型住居。


「魔法使いでない人々が、“術に似た行為”を日常に持ち込む」。

それは、異質ではあるが、誰もが望んでいた未来の一端でもあった。


キオはその中心にいながら、人々の前に立つことは少なくなっていた。


代わりに、町の誰かが魔道具を使い、別の誰かが手順を教え、

また別の誰かが新たな使い方を考え始める。


キオはそれを、宿舎の窓辺で、時に高所から、時に市場の端から静かに見ていた。


だが、その“光”は、すべての場所に届いたわけではなかった。


東方辺境州——カレンとリュカが視察に向かった村で、

古式魔導院の焼き討ちが報告された。


犯人は不明。

だが、放火された魔導院では、革新派の若者たちが集っていたという。


「旧来の魔法を冒涜している」

「血統も努力も嘲笑するようなやり方だ」

そうしたビラが、夜のうちに王都にも貼られ始めていた。


また、西方では別の兆しが報告されていた。


「魔道具が“異教の術”だと触れ回っている者がいる」

「周辺国の魔法貴族の間で、“魔法国は堕落しつつある”との噂が広がっている」


それは、国内の枠を超えた、力の動揺の兆しだった。


キオは静かに、ミラと交わした遠い約束を思い出していた。


「もしあなたが“風を起こす側”になるなら、

その風がどこに届いて、どこに届かないかを……

必ず、見ていて」


彼はその言葉を覚えていた。

だからこそ、今、町での成功には一切酔わなかった。


「風が止まる場所に、次の答えがある」


その夜。

王都の外れの警備塔に、一人の魔導士が報告に現れる。


「キオ殿にお伝えください。

“南方の山間部にて、不明な魔力流出を確認”と。

測定不能。魔力の構成に“現地の文法にない構造”を含みます」


キオは、その言葉に、何かが「外から届いた」と直感した。


言語でもない。文化でもない。

ただの力の形が、音もなく、国境を越えてくる——そんな気配。


「……風の向きが、変わる」


キオは立ち上がった。


明日、東方からカレンが戻る。

その報告と合わせて、ひとつの判断を下すことになる。


「対話で変えられる範囲の外側に、“別の論理”が近づいている」


それが、次に向き合うべき存在。

次に必要な、言葉ではない対話。


その頃、遥か離れた山地に、

闇に揺れる瘴気の中で、ひとつの影が動いた。


人か、獣か、それすら定かではない。


ただ確かに、それは言葉ではなく、

“力”を介して何かを問いかけようとしていた。

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