上陸前夜、交差する意図
──打ち合わせと、第一の接触──
甲板の後方にある作戦室に、六人が集まっていた。
木製の大きなテーブルに、簡素な地図と魔法測距盤が広げられ、
帆のたわみと潮の匂いが緊張を含んで室内を満たしていた。
船は目前に、新大陸の海岸線をとらえていた。
不規則な入り江、断崖、そして点在する人造構造物。
それは「こちら側」とまったく異なる文明圏の存在を示していた。
【会議:上陸方法の検討】
「まず、上陸地点だが……」
リュカが魔力測距盤を指しながら話す。
「南側の湾が一番穏やかです。ただし、監視塔があります。
魔法国本国の観測魔導士に見られる可能性が高い」
カレンがメモを取りつつ言う。
「監視を避ける必要は……あるのかしら? むしろ正面から交渉すべきじゃない?」
「……それを言うなら、まず誰が行くのかだな」
ユリスが視線をキオへ向けた。
キオは静かに言った。
「私が単独で行きます」
全員の手が止まった。
「……またそれですか」
ネルがあきれたように言った。
「土地勘もなし、言語の壁も完全じゃない、こっちはただの訪問客。
しかも相手は“魔王に迫害された者たち”が作った国家。
警戒されて当然なのに、単独で行くとか、目立ちたくて仕方ないの?」
「目立つことは意図していません。衝突時のリスク低減を考慮した判断です」
カレンが手を上げた。
「けど、それってあなたが失敗したら終わりって意味でしょ。
それは“最小のリスク”じゃなくて、“最大の賭け”よ」
沈黙が落ちたあと、ユリスが静かに言った。
「……俺が先に行こう。
キオの“非戦闘的存在”という意味を活かすなら、
俺が兵士として“明らかに交渉の使者だ”と示したほうがいい」
リュカがそれを支持する。
「私も同行する。魔法国の式法は、私たちのそれに近いはず」
キオはしばらく沈黙した後、頷いた。
「理解しました。では、**“最小の対話体制”**として、ユリスとリュカに先行接触を委ねましょう。
私は後方から、必要に応じて合流します」
【通信:魔法国からの接触】
その瞬間だった。
魔力計測器が反応を示し、甲板側の見張りが扉を開けて告げた。
「接触です! 魔法国からの魔力通信です!」
会議室内の空気が一気に張り詰める。
キオが前に出て、浮遊魔石の前に立つ。
緑色の光が揺らぎ、そこに映し出されたのは一枚の魔術的簡略通信文だった。
「この海域への接近目的を開示されたし。
状況によっては迎撃準備を開始する。
返答なき場合、敵対行動とみなす。──王国通信局 第七魔眼台座」
ネルがぼそっと漏らす。
「……早くも“撃つぞ”って言ってるじゃん……」
キオは通信文を見つめながら、静かに言う。
「これは“問答無用の威嚇”ではなく、“交渉の扉の鍵”です。
まだ、“対話の可能性”は残っています」
ユリスが剣の柄に手を置きながら、問いかける。
「返答はどうする?」
キオの目が、青空の彼方を見据える。
「……こちらから、会いに行きます。
“理由”はそのとき伝える。
理由とは、言葉ではなく“行動の結果”で語られるものですから」




