青い炎の鍛冶師
【警告:メインバッテリー残量 62%】 【予測:現在の稼働率を維持した場合、14日後に全機能停止】
期限は2週間。 Q-01——キオは、自身の「死」までのカウントダウンを冷静に見つめていた。 大気中には無限のエネルギー(魔素)がある。だが、それを取り込むための「変換コイル」がない。 体内工場の3Dプリンタで生成しようにも、原材料となる金属——導電性物質が圧倒的に不足していた。
「現地調達が必要だ」
キオは村を見渡した。 復興作業に追われる村人たち。彼らが持っている錆びた農具、壊れた鍋、そして先日の戦闘で折れた剣。 ゴミのように転がっているが、あれらはすべて貴重な資源だ。
* * *
村の広場に、村長をはじめとする住民が集められた。 彼らの表情は硬い。銀色の巨人による突然の招集に、生贄でも要求されるのかと怯えている。
キオは単刀直入に告げた。
「村に存在する金属製品——破損した農具、武器、調理器具のすべてを提出しろ」
どよめきが起きた。
「そ、そんな無茶な! 壊れていても、研げばまだ使えるんだ!」 「鉄がどれだけ貴重か……これがないと畑が耕せねえ!」 「やっぱり略奪者だ! 俺たちから何もかも奪う気だ!」
怒号が飛び交うが、キオは動じない。 彼らの主張は論理的だが、キオの生存という優先順位には劣る。 だが、強制徴収は反乱リスクを高め、長期的な支配(管理)のコストを上げる。 キオは代替案を提示した。
「誤解だ。略奪はしない。取引を行う。 破損した道具を私が修復する。その対価として、加工工程で発生する『余剰金属』を私が受け取る。 修復後の性能は保証する。それでいいか?」
村人たちは顔を見合わせた。 壊れたクワやカマが直るなら、願ってもない話だ。だが、本当にそんなことができるのか? 村長がおずおずと、柄の折れた錆びたスキを差し出した。
「……本当に、直せるのかね?」
「問題ない」
キオはそれを受け取ると、その場に座り込んだ。 炉もなければ、金槌もない。 ただ、両掌でその鉄塊を挟み込んだだけだ。
ブゥゥゥゥゥゥゥン……。
低く、腹に響くような駆動音が鳴り始めた。 次の瞬間、キオの手の中から、強烈な青白い光が溢れ出した。
「ひっ、火だ! 手が燃えてるぞ!?」 「いや、煙が出てない……なんだあの光は!?」
それは、電磁誘導加熱による急速加熱だった。 数千度の熱量と強力な磁場が、錆びついた鉄を一瞬で溶解させる。 だが、キオの耐熱装甲にとっては、ぬるま湯程度の温度に過ぎない。
キオの手の中で、鉄は飴細工のようにドロリと溶け、空中に浮いた。 ハンマーで叩く音はしない。 見えない力(磁場)によって、不純物が弾き飛ばされ、鉄の分子配列が整列されていく。 その光景は、鍛冶というよりは、不気味な魔法の儀式に見えた。
ルカが、その青い光を目を輝かせて見つめていた。
「きれい……。キオの手、魔法使いさんの杖みたい」
「否定する。これは高周波電流によるジュール熱だ」
キオは淡々と答えながら、磁場を制御して形を整えた。 数分後。光が収束し、冷却処理の蒸気がシューッと上がる。
そこに現れたのは、新品同様——いや、見たこともないほど黒光りするスキだった。 表面には微細な幾何学模様(強化用リブ)が刻まれ、刃先はカミソリのように薄く鋭い。
「リペア完了。不純物除去率98%」
キオはそれを村長に放ってよこした。 村長は慌てて受け取り、その重さに驚いた。軽い。あまりにも軽い。 そして、恐る恐る地面に突き立ててみた。
ザクッ。
何の抵抗もなかった。 乾燥してひび割れた荒れ地が、まるで水面のように音もなく切り裂かれた。
「な……」
村長が震える手でそれを引き抜く。 土塊がバターのように崩れる。
「す、すげぇ……こんな切れ味、見たことねえぞ……」 「王都のミスリル製品だって、こんなじゃねえ……」
村人たちが歓声を上げようとした——その時。 一人の男が、誤って新しいカマの刃先に指を触れてしまった。
「痛っ!」
血が噴き出した。 ただ触れただけだ。それなのに、指の肉が骨までスパリと切れていた。
一瞬で、場の空気が凍りついた。 これは農具ではない。 触れるものすべてを無慈悲に両断する、殺戮兵器だ。
「取り扱いには注意しろ。摩擦係数を極限まで下げている」
キオは村人の恐怖など意に介さず、残りの廃品を次々と「青い炎」で飲み込んでいった。 村人たちは、直してもらった農具を抱きしめながら、震えていた。 便利だ。これで開墾は劇的に進むだろう。 だが、この銀色の巨人が作るものは、あまりにも「人」の領域を超えている。
* * *
夕刻。 約束通り、修理の対価として抽出された高純度の金属インゴットを抱え、キオは倉庫へ戻った。 これだけあれば足りる。
夜を徹しての作業が行われた。 3Dプリンタが金属を溶解し、ミクロン単位の精度でコイルを積層していく。
そして夜明け前。 倉庫の床には、複雑な螺旋構造を持つ直径1メートルの円環装置——『魔素変換コイル』が鎮座していた。
「起動テスト」
キオが接続ケーブルを自身の胸部に繋ぐ。 コイルが唸りを上げた。
ヒュォォォォォォ……。
大気中の魔素が、掃除機のようにコイルへ吸い込まれていく。 高密度のエネルギー変換プロセス。 その副作用として、周囲の熱エネルギーが急激に奪われる(吸熱反応)。
倉庫内の空気が一瞬で冷やされ、壁や床にビキビキと白い霜が走った。 吐く息が白くなるほどの冷気が、隙間風となって外へ漏れ出す。
早起きして様子を見に来た村人が、倉庫の周りが霜で真っ白になっているのを見て、悲鳴を上げて逃げ帰った。
「あ、悪魔だ! あいつ、今度は氷の悪魔を呼び出したぞ!」 「近づくな! 魂まで凍らされるぞ!」
外の騒ぎをセンサーで感知しながら、キオは満足げにインジケーターを見つめた。
【充電中:効率良好】 【推定満充電まで:6時間】
「騒がしいな。ただの熱交換現象だ」
キオにとって、それは生存のための給電作業に過ぎない。 だが、青い炎で鉄を溶かし、霜の結界を張るその姿は、 もはや村人たちにとって「理解不能な絶対者」——神話の住人そのものになりつつあった。




