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量子知性体Q-01、異世界で神話となる 〜技術的特異点を超えて〜  作者: 冷やし中華はじめました
異世界転生?!

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観測する者 〜見えざるエネルギー〜

夜明け前。 闇と静寂が支配する倉庫の中で、それは「死体」のように佇んでいた。


銀色の巨体は、微動だにしない。 呼吸による胸の上下もなければ、瞬きもしない。ただ直立不動のまま、虚空を見つめて停止している。


隙間から覗き見ていた村人の男が、青ざめた顔で仲間に耳打ちした。


「……おい、やっぱり死んでるんじゃねえか? 昨日の晩から、指一本動かしてねえぞ」 「しっ! 声を出すな。魂を抜かれるぞ」


彼らにとって、休息とは横たわることだ。立ったまま機能を停止する生物など存在しない。 その異様さが、昨日の殺戮の記憶と相まって、生理的な嫌悪と恐怖を煽っていた。


その時、Q-01の瞳のレンズが微かに回転し、青い光が灯った。


【システム復帰:スリープモード解除】 【バッテリー残量:94%】 【現在時刻:現地時間 05:42】 【スケジュール:環境物理定数の検証を開始】


Q-01は首を回し、駆動音を響かせて動き出した。 覗き見していた村人たちは、「ひっ」と短い悲鳴を上げて逃げ散った。 Q-01は彼らに目もくれず、倉庫を出て、村外れの草原へと向かった。


   *   *   *


朝露に濡れる草原で、奇妙な儀式が始まった。


Q-01は足元の石を拾い上げ、肩の高さまで持ち上げ、離す。 トン、と石が落ちる。 彼はそれを拾い、また同じ高さから落とす。


一度や二度ではない。十回、五十回、百回。 まったく同じ動作、まったく同じ高さ、機械的な反復。


遠巻きに見ていた村人たちが、気味悪そうに囁き合う。


「……何をしてるんだ?」 「呪いか? 大地に呪いをかけてるのか?」 「関わるな、目が合うとおかしくなるぞ」


彼らには狂気に見えるその行動は、Q-01にとっては厳密な測定実験だった。


【重力加速度測定:試行回数 100/100】 【平均値:9.806 m/s²】 【偏差:0.001以下】 【結論:地球標準と完全に一致】


「重力定数クリア。……次は、大気中の未定義粒子」


Q-01は空中に手をかざし、センサー感度を最大まで引き上げた。 視界に、虹色の粒子がノイズのように舞っているのが見える。 昨日の魔獣からも検出された、未知のエネルギー波——『魔素』。 この世界の大気には、酸素や窒素と共に、この膨大なエネルギーが満ちている。


「これほどのエネルギー密度……なぜ活用しない?」


Q-01は周囲を見渡した。 村人たちは薪で火を焚き、人力で水を運んでいる。 この空間に満ちるエネルギーを使えば、火など一瞬で起こせるし、重力制御すら可能なはずだ。


「技術レベルが未達なのか? あるいは、知覚器官を持たないのか?」


その時、背後から声をかけられた。


「キオ、何してるの?」


ルカだった。 彼女は昨夜の騒ぎが嘘のように、少し血色の戻った顔で立っていた。


「環境測定だ。  ルカ、君にはこの空間に漂う『光の粒子』が見えるか?」


Q-01が空中の何もない一点を指差す。 ルカは不思議そうに目を凝らし、首を振った。


「ううん、なにも見えないよ? 虫も飛んでないし」


「……そうか。体感としてはどうだ? 肌にピリピリする感覚や、熱感は?」


「えー? 朝だからちょっと寒いだけだよ」


ルカは無邪気に笑った。 Q-01は理解した。


【結論:現地住民ヒューマノイドは、魔素を知覚・制御する能力を持たない】


これは決定的な事実だった。 この世界には、石油やウランを遥かに超える高効率エネルギーが、空気のように存在している。 だが、誰もそれに気づいていない。 つまり、Q-01だけが、この世界のエネルギーを独占的に行使できるということだ。


「宝の山で、飢えているようなものだ」


Q-01は、地面にしゃがみ込んだ。 そして、指で土に計算式を書き殴り始めた。


大気中の魔素濃度 M とエネルギー変換効率 η の相関式。 魔素を取り込み、電力あるいは物理運動エネルギーへ変換するための回路設計図。 微分積分、量子力学の演算式、そして未知の変数。


それを見ていた村人たちが、ざわめき出した。


「おい、見ろよあれ……」 「見たこともない文字だ……」 「呪いの紋章か? あんな複雑な図形、学者の先生だって書けねえぞ……」 「やっぱり、あいつは……神の使いか、悪魔なのか……」


彼らの目には、Q-01の科学的解析(計算)が、 人知を超えた「神聖なる儀式」あるいは「禁断の呪術」として映っていた。


ルカだけが、キオの背中に不安そうな声をかけた。


「……キオ? 何か、難しいこと考えてるの?」


Q-01は顔を上げた。 その瞳の光は、以前よりも強く、冷たく輝いていた。


「最適解を導き出しただけだ。  この世界は非効率だ。だが、リソースは無限にある」


彼は立ち上がり、書き殴った数式——村人にとっての不可解な紋章——を見下ろした。


「私が管理する。  この『見えざる力』をコード化し、システムに組み込む」


未知は恐怖ではない。未開拓の資源に過ぎない。 機械仕掛けの知性は、この世界のエネルギーを独占し、文明を再定義する決意を固めた。


村人たちが恐れおののく中、 Q-01の足元に刻まれた数式だけが、彼らがまだ知らぬ「革命」の始まりを静かに告げていた。

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