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量子知性体Q-01、異世界で神話となる 〜技術的特異点を超えて〜  作者: 冷やし中華はじめました
異世界転生?!

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流通革命の白い粉 〜プラットフォーム・ストラテジー〜

倉庫の扉が開かれると、そこには「白い山」が築かれていた。 製粉工場から吐き出された、膨大な量の小麦粉だ。


「キオ様! これだけの粉があれば、パンが焼き放題です!  荷馬車にパンを積んで、隣町へ売りに行きましょう!」


村長が興奮して提案するが、キオは即座に却下した。


「否。パン(完成品)の販売は行わない」


「えっ? なぜです? あんなに美味しいのに……」


「パンの賞味期限は短い。製造後48時間で水分が抜け、品質劣化が始まる。  加えて、パンは体積の80%が気泡だ。空気を運ぶために輸送コストを割くのは非効率極まりない」


キオは冷徹に、ビジネスモデルの欠陥を指摘した。 この時代の劣悪な道路事情で、日持ちしないパンを運ぶのはリスクが高すぎる。 売るべきは、保存が利き、高密度で圧縮可能な「素材」だ。


「我々が売るのは『粉』だ。  ただし、ただの粉ではない。周辺諸国の製粉業者を絶滅させる、戦略兵器としての粉だ」


   *   *   *


村の広場では、異様な光景が広がっていた。 労働ユニット(元野盗)たちが、天秤を使って麻袋に粉を詰めているのだが、その作業は神経質なまでに厳密だった。


「ユニット05、ストップ。0.02kg超過している。減らせ」


「は、はいっ!」


男がスプーン一杯分の粉を取り除く。天秤が水平になる。 キオは頷き、焼き印を押させた。 【Net Weight: 10.0kg】


「よし、封をしろ。次」


この世界において、小麦粉の取引単位は「樽」や「大袋」といった曖昧なものだ。 中身がスカスカだったり、湿気で重くなっていたりするのは日常茶飯事。 だが、キオはそれを許さない。 全ての袋が、分子レベルで乾燥管理され、一分の狂いもなく同じ重さ。 それは「農産物」ではなく、完全に管理された「工業製品」だった。


   *   *   *


数日後。 村の入り口にある検問所(コンクリート製)に、一台の馬車が現れた。 行商人ガンツだ。


彼は前回の屈辱——農具を溶かされた恐怖と損害——を忘れてはいなかった。 だが、「あの村にはとんでもない宝がある」という商人の嗅覚が、彼を再びここへ引き戻したのだ。 今回は、万が一に備えて、屈強な傭兵を4人雇っている。


「……おいおい、なんだこれは」


ガンツは馬車の窓から外を見て、絶句した。 数ヶ月前はボロボロの寒村だった場所が、幾何学的な壁と水路に囲まれた「要塞」に変貌している。 そして、奥からはゴウン、ゴウンという不気味な地響き(工場の稼働音)が聞こえてくる。


「おい、引き返した方がよくねぇか? ここ、本当に人間の村か?」


傭兵の一人が怯えた声を出す。 検問所の向こうでは、キオの労働ユニットたちが、一言も喋らず、機械のような正確さで荷物を運んでいた。 酒を飲みながらダラダラ歩いている傭兵たちとは、生物としての「質」が違っていた。


「……い、いや。商談だ。俺は客として来たんだ」


ガンツは震える足で馬車を降りた。


倉庫の前で、キオが待っていた。 その足元には、真っ白な麻袋が整然と積み上げられている。


「よく戻ってきた。歓迎する」


キオの無機質な声。ガンツは冷や汗を拭いながら、愛想笑いを浮かべた。


「へへ……キオ様。前回は失礼しました。  今日は、何か『珍しいもの』があると聞いて……」


「これだ」


キオは麻袋の一つを開けた。 中を見た瞬間、ガンツの目が点になった。


「……は?」


白い。異常に白い。 彼が知る小麦粉は、ふすま(殻)が混じった、灰色がかった茶色の粉だ。 だが、目の前にあるのは、新雪のように純白で、光を吸い込むような微粒子。


ガンツが恐る恐る指を突っ込む。 キュッ、と片栗粉のような音がした。 指を擦り合わせても、ザラつきが一切ない。シルクのような滑らかさ。


「こ、これは……小麦粉、なのか……?  魔法で漂白したのか? それとも、混ぜ物か?」


「純度100%の強力粉だ。  不純物を極限まで除去し、粒度をミクロン単位で揃えている」


ガンツの脳内で、算盤が弾け飛んだ。 これは食材ではない。「白いホワイト・ゴールド」だ。 王都の一流パティシエに見せれば、いくら積んででも欲しがるだろう。真っ白なスポンジケーキが焼けるのだから。


「か、買います! 全部だ!  樽一杯で金貨……いや、この袋一つにつき金貨一枚出しましょう!」


ガンツは叫んだ。これなら王都で金貨3枚で売れる。大儲けだ。 だが、キオは首を横に振った。


「価格設定が間違っている。  卸値は『銀貨5枚』だ」


「は……?」


ガンツは耳を疑った。 銀貨5枚? それは、市場に出回っている「茶色いクズ粉」と同じ値段だ。 こんな至高の品を、そんなゴミのような値段で売るというのか?


「キ、キオ様、正気ですか!? もっと高く売れますよ!  これは高級ブランド品として……」


「否。目的は利益ではない。『シェアの掌握』だ」


キオのレンズが赤く明滅した。


「この粉を、王都のすべてのパン屋に行き渡らせろ。  『いつもと同じ値段で、真っ白なパンが焼ける粉』として売り込め」


「……あ」


ガンツは気づいた。そして戦慄した。 もし、そんなことをしたらどうなるか。


パン屋たちは、こぞってこの粉を使うだろう。 客は「白くて美味しいパン」に殺到する。 茶色いパンを売っている店は潰れる。 そして、周辺の農村にある「旧式の水車小屋」は、価格と品質で太刀打ちできず、すべて廃業に追い込まれる。


一度この「白い粉」の味を知ってしまえば、市場はもう二度と元の粉には戻れない。 すべてのパン屋が、キオの工場から出る粉なしでは商売ができなくなる。


「競合を殺し、依存させる。それが狙いだ」


キオは淡々と告げた。 パンを売れば「ライバル」になるが、粉を売れば「支配者インフラ」になれる。


「お前には、この地域の独占販売権を与える。  その代わり、代金の一部は『鉄』『綿花』そして『各国の通貨』で支払え」


「……あんた、悪魔だよ」


ガンツは呻いた。 これは商売ではない。経済を使った侵略戦争だ。


「契約成立とみなす。積め」


キオの合図で、労働ユニットたちが次々と白い袋を馬車に積み込んでいく。 その動作は洗練されており、傭兵たちが手伝う隙すらなかった。


   *   *   *


夕暮れ時。 重そうに車軸を軋ませながら、ガンツの馬車隊が村を出て行った。 荷台には、世界を変える「白い粉」が満載されている。


キオはそれを見送りながら、次のフェーズへの移行を記録した。


【物流ネットワーク構築:開始】 【ターゲット:王都の製粉ギルドおよびベーカリー市場】 【予測:3ヶ月以内に、市場シェアの60%をこの粉が占有する】


麻薬のような依存性を持つ白い粉が、血管のように街道を流れ、王都の心臓部へと浸透していく。 剣も魔法も使わない。 だが、それは最も確実な、国家転覆への第一歩だった。

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