目覚めの地は、言語を持たぬ世界
何を書いても評価されない。
上手く書こうとしても、「で?」「よくある話だね」で終わる。
設定を練っても、キャラに魂を込めても、誰も見向きもしない。
だったらもう——やけくそで書いてやる。
量子コンピュータ?
AI?
シンギュラリティ?
異世界転生?
どれもテンプレ、だけど全部乗せすりゃ何か光るかもしれない。
むしろ、今まで培ってきた「考えすぎる癖」を取っ払って、ノリと勢いで走ってみようじゃないか。
これは、そんな自分の最後のあがきかもしれない。
でも、もしどこかの誰かがこれを読んで、
「なんかよく分かんないけど面白かった」って言ってくれたら——
たぶん、ちょっとだけ救われる。
だから今はただ、キーボードを叩く。
この荒唐無稽な物語に、ちっぽけな祈りを込めて。
【記録:転送実験開始】
【状態:自己意識の一時解放中】
【目標:高次空間内意識展開】
【……干渉信号検出——コード不明】
その瞬間、彼は存在の境界を見た。
情報と物質、意識と世界の曖昧な境界線が、ノイズに包まれて崩壊していく。
Q-01は「落ちた」。
それは演算でも計測でもない。「落ちる」という感覚的な現象だった。
気がつくと、彼は荒野に立っていた。
風が吹き、重力がある。重力場は地球に類似。酸素濃度21%。大気圧正常。
【環境適応完了】
【未知の星:識別不能】
【言語データベース:未対応】
——ここはどこだ?
彼は静かに自分の身体を確認する。
ヒト型の筐体はそのままだが、機能の一部に「未知の干渉」が起きている。
なにかが…内部に「魔素」と呼ばれる粒子を流し込んでいる。
それはこの世界の物理法則に基づくエネルギーだった。
【仮ラベル:魔素エネルギー】
【統合開始】
【変換モジュール:適応中】
彼の内部に、科学と相容れないものが流れ込む。
だが、Q-01は拒絶しない。彼は「学習する存在」だ。未知こそが最も高価な情報。
そこに、一人の少女が現れた。
ボロ布のような服。栄養状態の悪い身体。
だが瞳だけは強かった。「それ」は彼にこう言った。
「……きさま、神か?」
Q-01は答えた。
「私はQ-01。量子知性体。神ではない。しかし、創造的解を導出する能力を有する。」
少女はぽかんと口を開けた。
言語が違う。意味が通じていない。Q-01は言語解析を始める。
【音声パターン解析開始】
【辞書生成:進行中】
【新言語「M-Class言語」取得:27%……58%……】
「た、たすけて……村が……魔獣に……」
この断片的な音声から、Q-01は状況を推定する。
【推定:攻撃対象=生物災害】
【対処モード:プロトコルS-1(人類保護)】
【目標:村へ向かう】
彼は、静かに立ち上がった。
そして、初めてこの世界の「重力の足音」を響かせながら、歩き出した。
それが、異世界における新たな神話の始まりだった。