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宰相閣下のお気に入りらしいですが、王城の苦情受付係を任されました

イケメン宰相のお気に入りらしいですが、王城の苦情受付嬢を始めます。1

作者: たんこぶ

 剣と魔法の統べる大陸にある辺境国の1つ、パルシア王国。

 そこが私の暮らす国だ。


 私の名前はリリアーナ・レイシー。

 愛称はリナ。

 18歳で性別は女。

 身長は平均よりやや小さく、体は細い。

 黒髪,黒目で特に特徴もない顔をしていると自分では思っている。時折、目が死んでいるとか瞳の奥が闇で染まってるとか言われるが、気にしちゃ負けだろう。

 基本は、いつも無表情で愛想もない。

 自分自身でも可愛くない女だなと思うこともあるが、これが私という人間なのでしょうがないし、私らしくて自分ではわりと気に入っている。

 仕事は王城で下級文官の補助業務。

 同い年の女の子らは、ちらほら結婚したりしているらしいが、ブサイクではないが平凡な顔立ちで愛想がほぼ皆無の私にそんな相手がいるはずもない。

 実家が城下町で商売をしているが、実家は17歳にして婚約者までいる弟が継ぐ予定なので、いずれ私の居場所はなくなってしまう可能性がある。

 補助業務とはいえ王城勤務に採用されて自活出来ている私は、もうすでに一生分の運を使い果たした気がする。

 とはいえ、読み書きが出来るのと多少記憶力がいい他には特に何か特技があるわけでもない私が任されるのは、部屋から部屋に書類を届けたり備品の整理や補充くらいだ。

 正直、地味で平凡な毎日だとは思う。

 資金的には贅沢をする余裕はないが、とりあえずの生活は出来ているし、特に不満はない。

 むしろ、今のこの状況は目立つのが嫌いな私としては願ったり叶ったりだったりする。

 今日も破棄する予定の備品が入った木箱を運んでいると若い侍女たちの話し声が聞こえてくる。



『ねえ、そういえば、聞いた〜? 今度、どこかの国のお姫様がお城に来るらしいよ〜』


『そうなの? お姫様だったら、すごくお綺麗な方なんでしょうね』


『うーん、綺麗は綺麗みたいなんだけど〜、ちょっと気難しいお姫様なのか、何か問題があるみたいなことも言っていたかな〜』


『言ってたって、誰が?』


『下級文官の彼氏だよ〜。あ~あ、お城でお姫様は綺麗に着飾れるのに、あたしたち侍女は飾り物もつけられないし、おしゃれもできないから、つまんないよね〜』


『そうね。せめて、少しくらい許してくれてもいいのにね』



 侍女たちはお揃いの服を支給されていて、それが城内への通行証代わりだったりする。

 一応、魔法が付与されていて登録されている本人以外は着ることが出来ないらしい。

 デザイン的にはそれなりに可愛いのだが、それだけではお洒落に興味のある年頃の女子からは不満が出るんだろうな……って、そういえば私も年頃の女子だったな。

 飾り物なんかに興味がなさすぎて、そんな禁止事項も忘れていたとは、私の女子力のなさも重症だな。

 まあ、そんなどうでもいいとも思える愚痴が侍女たちから出るほど、今日も城内は平和らしい。

 この世界は剣も魔法もあり、魔物もいて魔王なんてヤバイ奴までいるらしいが、今のところ魔法も使えず剣も振れず、魔王どころか最下級の魔物にも勝てるか微妙な私の人生には関係ない。

 そんなものたちより私の人生に勝手に関係してくるヤバイ奴は他にいる。

 突如、悪寒とともに背後に人の気配を感じた。



「やあ、リリアーナ、暇そうだな」


「くっ、出会ってしまったか」



 無表情が標準仕様であるはずの自分の顔が、舌打ちでもしそうなくらい歪んでるのがわかる。

 小柄な体格の私が前が見えないくらいの大荷物を頑張って抱えている状態で、こんな言葉をかけてくるのは、この王城広しといえども1人しかいない。

 振り向くと簡素ながらも上等な仕立ての文官服を着た絶世の美青年が立っていた。

 この国の誇る宰相、ノルドリード・フォン・シュテイレン様だ。

 長ったらしい名前なので,心の中では勝手にノルド宰相とか、イケメン宰相とか呼んでいる。

 私は半眼になりながら、イケメン宰相の姿を見る。

 長身痩躯ながらも、ひ弱な印象を抱かせないくらいに鍛えられた肉体。

 手入れの行き届いた艷やかな長い銀髪と、どこまでも見通していそうな蒼い瞳が特徴的だ。

 相変わらず、存在自体が派手な人だ。

 地味が服着て歩いている私とはえらい違いだな。

 たしか年齢は22才で、その年齢での宰相への登用は異例中の異例の大抜擢だったらしい。

 多少家柄などがよくても若年での宰相登用ともなれば風当たりの強さもとんでもなかったはずなのに、そのすべてを自身の美貌と才能を駆使して、ぶっ飛ばしてきた実力の持ち主だ。

 だが、敵対さえしなければ基本的には誰にでも優しく公平な好青年。万人に優しく、見目も麗しいとくれば当然人気もあり、一部の熱狂的なお嬢様方によって『宰相様をお慕いする会』なるものまで結成されているらしい。

 しかし、この完璧イケメン宰相には大きな欠点がある。

 いや、そこを欠点と思っているのは、この国中を探しても私だけかもしれないんだが……その欠点とは、何故かことあるごとに私にちょっかいをかけてくることだ。

 私を見つけた宰相は、今日もその内心をひた隠しにしたまま極上の微笑みを浮かべている。

 うわぁ、きっと大好きな玩具を見つけた子供って、こんな無邪気な顔してんだろうなと、心の中で呟く。

 思わず「はぁ」と小さくため息が出てしまうのもしょうがないことだろう。



「こんな地味な雑用係がイケメン宰相と会話をしているだなんて、他の人々から好奇の目で見られるから止めてほしいんだけどな」


「ん? リリアーナ、何か言ったか?」



 おっとっと、本音が口からこぼれてしまっていたようだ。



「いえ、何も言っておりません……ただ、今をときめく宰相様には、大荷物を抱えている私が暇そうに見えるのですね」


「そのようにしか見えないのだが?」



 身分違いで、そんな事は絶対に不可能なのはわかっているが、この木箱を投げつけてやりたいと思うくらいは許してもらいたい。

 こいつ、平然と私を暇人扱いしやがって。

 そういう態度なら、こっちもハッキリと言ってやろう。



「頭脳明晰で仕事を速やかに処理され優雅なお散歩に興じられている宰相様と違い、凡庸で非才な私は暇ではありません。今もこうして精一杯、自分に与えられたお仕事をさせていただいております」


「そんな暇を持て余しているお前に頼みたいことがある」



 おっと、このイケメン野郎、精一杯の嫌味を込めた私の言葉を完全に無視しやがった。

 暇を持て余しているのはお前のほうだろ。



「あの、私の言葉聞こえてました?」


「さて、ここではなんだし、場所を移そう」



 再び私の言葉を無視したイケメン宰相は、その蒼い瞳を輝かせている。

 ダメだ、これは私にちょっかいをかけたい欲求が溜まっている時のパターンだな。



「はぁ……わかりましたよ。ついて行けばいいんですよね」



 本日2度目のため息をつきつつ、ようやく絞り出した私の言葉を聞いて、イケメン宰相の顔が喜びで輝いた。

 うっ、眩し!

 ただでさえイケメンなのに、こんな表情をされたら勘違いしてしまう女性も続出するんじゃないだろうか。

 もちろん、私は勘違いなんかしないけどね。



「いや〜、リリアーナが物分りの良いやつで良かったよ。リリアーナが断っていたら、危うく、リリアーナの実家からの納入物品について再検討しないといけなくなるところだった」


「どういうことです? まさか、私への嫌がらせのためだけに、うちの実家から城への納入を減らす気だったんですか?」



 私が迷惑そうにジト目で睨んでいるのに、宰相は極上の笑顔を向けてきた。



「いや、減らすだなんてとんでもない。リリアーナの実家はまだまだ小さい商会で大変だろう。逆に納入数を爆増させることによって継続的に大きな利益を出してもらい、正式に王直筆の書簡でもって王城御用達の店にしてやろうと思っていただけだ。そうなればリリアーナも王城御用達の大店の令嬢という扱いになり、さぞや皆の見る目が変わることだろう。そんなご令嬢に、とてもじゃないが今までのような雑用業務は頼むわけにもいかず、リリアーナにも私の話を聞ける暇な時間が出来るというわけだ」



 宰相が面白そうに私の反応を眺めている。

 このイケメン野郎、なんて派手で婉曲な嫌がらせを考えやがるのだろう。

 実家に王城御用達の大看板なんかあげられたら、確実に私の地味生活に支障が出てしまう!

 やっぱり、イケメン宰相から逃げるのは無理と諦めるしかないかと、3度目のため息をぐっと堪えつつ、私は覚悟を決める。



「そのような私以外の者には利益しかない嫌がらせをよく思いつきますね。……では、さっそくご要件を伺いに、ご一緒したいところなんですが、この荷物はいかがいたしましょう?」


「確かに、その荷物は邪魔になるな。よし、すぐに代わりの者を手配させよう」



 イケメン宰相は近くにいた文官に指示して人を呼びつけ、私の持っていた荷物を引き受けさせると私を連れ立って目的の場所へと歩き出した。

 向かった先は宰相の執務室だ。



「さあ、さっそく暇つぶしの要件に取りかかりたいところなんだが、少しだけ待て。今、上級文官を呼びに行かせているので、すぐに来るはずだ」



 イケメン宰相の野郎、今、暇つぶしって露骨に言いやがったな!

 ぐぬぬと顔を歪ませながらも、ふと気になる。

 上級文官をわざわざ呼びに行かせてまで私に何をさせたいというのだろう。

 少し思案していると、壮年の上級文官の男性が入ってきて部屋の主である宰相が出迎えた。

 見かけたことはない方だが、物腰と服装から上級文官でも相当高い役職の方なんだろう。



「ロバウト殿、よく来てくれたな。紹介しよう、こっちにいるのが、リリアーナだ」


「ああ、この娘が、あのリリアーナですか」


「そう、そのリリアーナだ」


「……あの、こう言っては失礼かもしれませんが、大分、お若いというか……幼いようにも見えるのですが、本当に宜しいのでしょうか?」



 上級文官が私の方を見て、そんなことを言ってくる。言葉だけでみると色んな意味にとることができてしまうな。

 今執務室にいるのは私と男性2人の3人だけ。

 もし襲われそうになったら、私の拳を顔面にプレゼントしてやろう。まあ、この上級文官からは下心というよりは私への純粋な不安が見て取れるし、イケメン宰相にいたっては、そういう相手に不自由しなさそうだから、そんな必要はないんだろうけど。



「確かに、リリアーナは無愛想で貧相な身体つきをしている」



 やっぱり、訂正。

 イケメン宰相には拳を個人的にプレゼントする必要がありそうだ。

 いくら自覚しているとはいえ、堂々と他人に言われると腹が立つ。



「だがな、こう見えてもリリアーナは成人しているし、口も固い。打ち合わせにでていた内容でなら安心して相談してみるといい」


「宰相殿が、そこまで言われるなら」



 一応、お偉いさん達だし、会話を邪魔をしちゃ悪いかと黙って見守っていたが意見がまとまったようだ。

 それにしても何なんだろう、この一連のやり取りは?

 私は至って普通の文官補佐のはずで、宰相や上級文官の間で話題になるようなことはしてないはずなんだけどな。

 そんなことを思案する私に上級文官が近づいてくる。



「リリアーナ、初めて会う君にこんな事を頼むのもおかしな話かもしれないが、私の困り事について聞いてほしい」


「困り事……ですか?」



 おっと、危ない危ない。

 気を抜きすぎてて、危うく上級文官相手にタメ口を聞くところだった。

 私が聞き返した言葉に1つ頷くと、上級文官が続きを話し始める。



「実はこの度、城内に新しく侍女見習いを3人雇い入れたのだが、見分けがつかんで困っているのだ」


「どういうことですか?」



 聞けば、新しい侍女見習いというのは、リア、ピア、ネアという16歳の三つ子の女の子らしい。

 なんでまたそんなややこしい者を採用したのだろうか。

 採用したやつは馬鹿なんじゃないか?

 大方、縁故採用で断りにくかったか、色仕掛けにでもやられたというところだろうか。

 だけど、少し気になるのは名前があまり人間に付けるような感じじゃないんだよな。この国では人に付ける名前は三文字以上が基本で、二文字というのは、どちらかというと愛称だったり、犬猫などに付けられることがほとんどだ。

 三つ子だからと名前を考えるのも面倒だったにしても雑すぎるぞ!

 そんなことを考えていると上級文官は顔を曇らせながら話を続ける。



「本人たちに失態があるわけでもない以上はクビにするわけにもいかないのだが、見分けがつかなさすぎて周りからの苦情があとを絶たんのだ」


「そのようなことであれば、3人を別々の場所に配置すればいいのではないでしょうか?」


「例え別々の部署に配置しても、ふと廊下などですれ違った際に伝言などを頼んだりして、それが違う者だと困るだろう。そもそも約定で別々の場所に配属することも難しいのだ」



 約定とは、どういうことだろう?

 まあ、下級文官補助の私ですら、こうして宰相たちに絡まれているくらいだし、他の侍女や侍女見習いたちが雑用を頼まれることもあるのかもしれない。

 確かに見分けが、つかないのは不便だな。



「今、その方たちをここに呼ぶことは可能ですか?」


「可能だ」


「では、お願いします」



 しばらくすると執務室に三つ子の侍女見習いたちがやってきた。



「ん?」



 三つ子の侍女たちを見て、ちょっとだけ違和感を感じる。

 たしかに3人とも三つ子というだけあって、それなり以上には似てはいるんだが、はたして見分けがつかないってほどだろうか?

 まあ、自分は女同士だから見分けやすいだけかもしれないし気にするだけ損だろう。

 どれどれ、3人とも可愛らしい顔立ちで、髪は全員肩辺りで切り揃えられており、髪をアレンジするってのも難しそうだ。

 そもそも、城内で働く男性たちに髪型のちょっとした変化で女性を見分けるって事が出来るかも怪しい。

 というか、絶対に無理だろ。

 となると、取れる方法は限られるな。



「いっそのこと額に名前でも書いてあったらわかりやすいんだがな」



 イケメン宰相が馬鹿な事を言っている。

 年頃の女子に、そんな恥ずかしい真似ができるわけが・・・って、それ案外悪くないかもな。

 確かに直に名前を書くというのは絶対にないが、見ただけでわかるというのはアイデアとしては悪くない。

 この子らの名前が、リア、ピア、ネアね。

 よし、そういうことなら、これでいこう。

 私は悠然とこちらの様子を眺めていたイケメン宰相に声をかける。



「安物でも結構ですので、用意してもらいたいものがあるのですが、お願いすることは出来ますか?」


「すぐに用意させよう。それで何が必要なんだ?」


「それは装飾品です。出来ることなら、いくつも種類があると助かります」


「そんなものでいいなら、すでにここにあるぞ」



 私が必要なものを告げるとイケメン宰相が自分の執務机の引き出しから、箱を取り出し開けてみせる。中には簡素ながらも質の良い装飾品がいくつも入っていた。

 しかも全て女物。

 なんでイケメン宰相は女物の装飾品を大量に持っているんだろう?

 まあ、贈る相手には困らないだろうし、こいつなら、自分で付けたとしてもそこいらの女性陣より似合うだろうけどな。

 まさか、意中の相手に贈ろうと購入したはいいものの臆病過ぎて贈れなかったとか、こいつに限ってはないだろう。

 それはそれと置いといて、と。



「このように、リアにはリング、ピアにはピアス、ネアにはネックレスを付けてもらい、それで判別していただくのはいかがでしょう?」


「なるほど! 同じ装いであっても身に付ける装飾品を変えれば見分けも容易いというわけか」


「一応目印代わりということなので、貸し借り防止用に魔法も付けておけば完璧かと思われます」



 上級文官はたいそう驚いた様子だが、そこまで難しい話でもないんだけどな。



「では、その方法でいくとしようか」



 イケメン宰相も賛同してくれたようだし、ついでにオマケとして他の苦情も片付けといてやるか。



「この3人だけ装飾品を身に付けるとなると、他の侍女たちから不満や苦情が出るかもしれません。なので仕事中であってもある程度自由に装飾品を付ける事を許して頂けるなら、喜ぶ侍女も多いと思いますよ。一度、ご検討頂けたら幸いです」


「そういえば、おしゃれが出来ないとの苦情も一部の侍女たちから出ていたな」



 イケメン宰相のやつ、知っていたなら、もっと早くに対処してやっても良かったんじゃないだろうか。

 このイケメン宰相は本当に世間で言われているほど、有能なんだろうかと疑いたくなる。

 このあと、執務室で茶と菓子をご馳走になりながら、何処までの装飾品を許可するかの話し合いを軽くして、そのあとは解散するだけだ。

 受けたストレスは小さくなかったが、出された高級そうな焼き菓子は美味しかったし、その余韻に浸りながら、さっさとここから退室しようと思っていると、イケメン宰相に呼び止められた。



「そうだ。リリアーナ、今後他の侍女たちが付けるならお前も1つくらいは持っといたほうがいいんじゃないか? 今回、暇潰しに付き合ってくれた礼だ。どれでも好きなのをやろう」



 そう言われ、装飾品の入った箱を差し出される。

 箱の中にはまだ沢山の装飾品があったが、一際立派な宝石のついた指輪が目に映ったが、さすがにそれを貰ったら強欲過ぎるだろう。

 何か他で無難そうなものはないかな……と。

 おっと、良いのがあるじゃないか。



「じゃあ、これで」



 腕輪を1つ取り出す。

 地金も多く使われているし、シンプルなデザインで私がつけても嫌味がないし悪くない。



「それでいいのか? こっちのほうが高かったと思うぞ」



 イケメン宰相がさっき見た立派な指輪を出してくるが、そんなものは怖くて受け取れない。



「宝石はカットなどの流行り廃りもありますし、指輪より腕輪のほうが価値の変わりにくい地金が多く使われており、さっさと売れるんで私好みです」


「おい、さっそく売る気満々じゃないか」



 イケメン宰相が何やら文句を言ってくるが、それも庶民の生きる知恵の1つだし、悪いことではないだろう。

 だけど、試しに着けてみると、わりとこの腕輪を気に入ってしまっている自分もいる。



「生活に困った際にはそれも考えますが、今のところ生活に困ってはいませんし、せっかく宰相から頂いたものなので大事にさせていただきますよ」


「!?」



 ん、イケメン宰相の奴、驚いた顔をしてどうしたというんだ。

 そんなに私の言葉は意外だったんだろうか?



「そうか、大事にしてくれるのか……それなら良かった」



 腕輪を身に付けて状態確認している私を見つめるイケメン宰相は、今は満足そうに微笑んでいる。

 それなりに高そうな腕輪も貰ってしまったし、これで実質的な収支はプラスといったところか。

 ただ、何か特別な理由で早く腕輪を処分したかったのか、イケメン宰相は惜しむどころか、かなり嬉しそうだったのが不思議だが、そこは気にしてもしょうがないだろう。



 ◆   ◆   ◆   ◆



 後日、隣国から国使として3人の美しい姫君たちが招かれて、それぞれに贈り物が贈られつつ、滞りなく歓待できたという話を侍女たちがしているのが聞こえてきたが、きっと私とは何の関わりもない話だろう。


 いつものように雑用で廊下を歩いていると、イケメン宰相とこの間の上級文官が歩いてくるのが見えた。



「やあ、リリアーナ、この間は助かったよ」



 私で良い暇つぶしができたイケメン宰相は、今日も鬱陶しいくらいに輝いている。

 あまりに鬱陶しいので、上級文官の方へと視線を移すと上級文官も私に丁寧な礼を述べてきた。



「おかげで無事に苦情を解決することができた。リリアーナ嬢、本当にありがとう」


「お役に立てたのなら良かったです」



 イケメン宰相はともかく、自分の上司のさらに上司に嬢付けで呼ばれつつ、礼を言われてまで無愛想を貫く理由はないので、自分でも思い出せないくらい久しぶりに微笑んでみることにした。



「「………………」」



 イケメン宰相と上級文官から返ってきた反応は絶句だ。

 ……どうしよう、いたたまれない。



「あの、どうされました? 私の顔に何かついてますか?」



 私の微笑みを見た2人が押し黙ってしまったので、ちょっと心配になって声をかけてみた。

 城務めになってからは、イケメン宰相のちょっかいのおかげで、さらに笑顔とは無縁で過ごしていたからわからなかったのだが、私の笑顔ってそこまで酷いものなんだろうか。

 やはり、私には無愛想が一番似合う。

 そういうことなんだと思う。

 そんなに人様に晒す機会は今後もそうそうないだろうが、これからはもう少し気をつけるとしよう。

 私が、そんな決意を固めているとも露知らず、上級文官は納得したような顔をしている。



「なるほど。いやはや、リリアーナ嬢は、さまざまな面で宰相殿のお気に入りになるわけですな」


「「!」」



 なんだろう。

 今、世界で一番最悪な言葉が聴こえた気がする。

 ジト目でイケメン宰相を見てみると羞恥で顔を赤くしてやがった。

 そりゃ、お気に入りの玩具(私)で遊んで子供みたいって思われてたら、さすがのイケメン宰相でも恥ずかしくもなるか。



「私、宰相様のお気に入りなんですか?」


「なっ!」



 不意を突いた私の言葉で、イケメン宰相の顔がさらに赤く染まったが、何を今さらという話だ。

 私にちょっかいをかけること()()が好きだってことはわかってるし、勘違いなどするはずがない。

 だが、いつもいいようにやられているから、この反応はちょっと楽しいかも。

 私が追撃をかけようと思っていると、イケメン宰相が強引に話題を変えてくる。



「よし、今回のことでお前の能力は十分にわかった。リリアーナ、お前、苦情受付嬢をやれ」


「何なのですか、その苦情受付嬢って?」


「王城中の者たちの苦情を聞いて、解決まで導いてやれ。それと、どのような苦情があったか、1日の終わりには、私にしっかり報告もしてもらうぞ」



 王城中の苦情を聞かされつつ、毎日イケメン宰相に報告しに会いに行くって、どんな地獄よりキツいだろ。

 ここは絶対に抗議だ。



「はぁっ!? なんで、私がそんなものをしないといけないんですか?」


「これは宰相命令だ」


「職権乱用ですよ」



 国の宰相に向かって、こんな口を聞いたら処罰もんだが、そんなこと言ってられない。

 だが、宰相からの直々の異動命令だ。

 実務能力に長けているイケメン宰相のことだし、実際に周囲を丸め込んで実行させるに違いない。



「私が苦情の受付嬢って……私のこの苦情はいったい誰に相談したらいいんだろ?」



 私はいつもの無表情で、そう呟かずにはいられなかった。

ブックマークや評価をしてくれた方々、ありがとうございます。時間があれば、同じく短編で続きの2を投稿するので、良ければ読んでみてください。

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