ナチスの台頭とティアティラの沈黙
ある日、ティアティラが球体の部品を使って小さな装置を作り、誇らしげにアドルフに見せた。
「じゃーん!これを見てよ、すごいでしょ?」
「……なんだそれは?」
「これ、いわゆるホログラムだよ!」
ティアティラが装置を操作すると、空中に浮かび上がったのは彼女自身の姿だった。しかし、どこかコミカルにデフォルメされたもので、まるで人形のようだ。
「これが私!」
「……これは何の役に立つんだ?」
アドルフの素っ気ない反応に、ティアティラは頬を膨らませた。
「君って本当に楽しみ方を知らないんだね!これは遊び心ってものだよ!」
「遊び心だと?こんな時代に無駄なことをする暇などない!」
「それが問題なの!アドルフ、君はもっと柔らかくならなきゃ!」
二人は口論を続けたが、最終的にはティアティラが彼の顔にホログラムを映し、「ヒゲの生えたおじいちゃんアドルフ」として笑い転げたことで和解した。
1920年代、アドルフはナチ党を結成し、ドイツを立て直すべく政治の世界に足を踏み入れた。ティアティラは彼の傍らにいたが、次第にその沈黙を保つようになる。
「ティアティラ、なぜ何も言わないんだ?」
「あなたの道を見届けているの」
アドルフはその言葉に不満を抱きつつも、次第に彼女の存在を心の中に秘めるようになった。そして1933年、彼はドイツの総統となり、ロンギヌスの槍を手に入れる計画を本格化させる。
アドルフとティアティラの関係が離れる一方で、彼女の球体の解析はひそかに進んでいた。解析の結果、装置から得られた技術は、後に「ヴィヴァナ」と名付けられるタイムマシンを生み出す鍵となる。
この解析を推し進めたのは、後年ヒトラーの側近となる科学者ハンス・カムラーであった。カムラーはヴェヴェルスブルク城を拠点に、ティアティラの球体から得られた技術を元に、時空を超える装置を完成させた。
「ヴィヴァナは、我々の未来を変える。ティアティラがもたらした知識が、新たなドイツの夜明けをもたらすだろう」
そんなある日、アドルフはティアティラに訊ねる。
「君の金の髪と青い目は、まるで神話の中から抜け出てきたようだ。君のような姿が、本来あるべき人類の姿なのか?」
ティアティラは少し驚いたように首を傾げたが、すぐに笑った。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「……君を見ていると、そう思わざるを得ない。強さと美しさ、純粋さ……君のような存在が、この世界の理想ではないかと」
ティアティラの瞳が一瞬、揺らいだ。その後、彼女は静かに口を開く。
「アドルフ、私の見た目はただの殻にすぎないよ。けれど、確かに私を作った存在は『人類の理想像』としてこの姿を選んだみたい」
「それならばなおさらだ。君のような者こそが人類の未来を導くべきなのだ」
「それって、君が抱えるコンプレックスが理由なんじゃない?」
彼女の率直な言葉に、アドルフは少し顔を曇らせた。だが彼女の目に嘲笑はなく、ただ真剣な光が宿っているだけだった。
ティアティラはアドルフの傍で、ナチスの政策と彼の行動を見守り続ける。しかし、ユダヤ人の迫害と収容所での虐殺が始まると、彼女の瞳に怒りと悲しみが宿った。
「アドルフ、これがあなたの理想なの?」
「彼らがドイツを堕落させた……彼らを排除しなければ、新しい時代は訪れない!」
ティアティラはその答えに沈黙した。その姿を見て、アドルフはかつての彼女の天使のような光を失ったことに気付いたが、後戻りはもうできない――――。