理想と現実
1914年、アドルフは志願兵としてドイツ軍に加わった。彼はティアティラとの約束を胸に、槍の秘密を追うために戦場に向かったのだ。
西部戦線の塹壕――それは地獄そのものだった。
鉄条網の向こうで、砲弾が雨のように降り注ぐ。泥と血に塗れた地面には、無数の死体が転がり、空気は腐臭と硝煙で満ちている。
「生き残らねば……!」
アドルフは何度も死地を潜り抜けた。伝令兵として働く中で、彼は兵士たちの悲惨な死と無意味な戦闘を目の当たりにし、その心は次第に冷たく鋭く変わっていく。
その頃、彼の夢の中にティアティラが現れることが増えていた。
「アドルフ、あなたはまだ迷っている。人類を導く力を欲しているけど、それは何のために?」
「私はドイツを救いたい。だが、それだけじゃない。人類全体を新たな高みに引き上げる。それが私の理想だ」
ティアティラは寂しげに微笑む。
「それは、本当に正しい道なのかな?」
1918年、ドイツは第一次世界大戦に敗北した。敗戦による屈辱と経済的困窮は、アドルフの心に深い傷を残す。戦後の混乱の中で彼はウィーンに赴き、ついにロンギヌスの槍を目にする。
ホーフブルク宮殿の収蔵室に展示された槍を前に、アドルフは足を止めた。
「これが……人類を導く力……」
しかし、その槍に触れることはできなかった。ティアティラが彼の前に立ちはだかったからだ。
「アドルフ、まだその時じゃない。槍は力を与えるけど、その代償は大きい。あなたが覚悟を持てる時まで、私がそれを守る」
ティアティラは槍の前に立ち、彼を制止した。その光景は、彼女がただの人間ではないことを改めて証明するものだった。
ロンギヌスの槍を巡る調査の中で、アドルフはさらに奇妙な話を耳にするようになった。それは、アーリア人と呼ばれる古代民族が地球外から飛来したという伝説と、地球内部に存在するとされるアガルタという秘境についてだった。
「アーリア人は、この地球の文明の源だと言われている。そしてアガルタは、その知識と力が隠された場所」
ティアティラは説明を続ける。
「その伝説は事実に基づいている。私の使命もそこに関係があるのかも。でも、アガルタへの道を開くにはロンギヌスの槍が必要なの」
アドルフはこの話に強く惹かれた。ティアティラの言葉が真実であれば、自分が追い求める理想――新たな世界秩序――を実現できる鍵になると信じたからだ。