きっといいひと
新幹線でのちょっとした出来事
11/11修正
出張で京都へ行くことになり、東京から新幹線に乗りこんだ。車内は外国人観光客目立ち、やや混みあっていたが、自由席の座席を確保できた。
すぐの品川駅で女の子が一つ前の席に乗り込んできた。肩に届かないくらいの髪をきれいな青みがかったグレーに染めていた。きれいな顔立ちで、人目をひくその雰囲気はきっともてるのだろう。注目されるのに慣れているようだった。前の席に座った彼女はすぐに背もたれの向こうに見えなくなり、こなさなければいけない仕事を思い出したのでパソコンに向かってあれこれ打ち込んでいるうちに意識は仕事モードに入り込んだ。
あれこれやり残したことを片付けているともうすぐ名古屋に到着するアナウンスが聞こえ、もうそんなに来たのかと首を上げ、早送りの画面のような窓の外の景色を眺めた。
しばらく外の景色をながめていたが突然ゴトっとなにか重量がありそうなものが床に落ちた音がした。3列席の一つ席を空けて隣に座っている同い年くらいの男性もおやっという表情をして私と目が合った。パソコンをテーブルの上からずらして床に目をむけると、スマホが目に入った。何かのバンドの動画が流れていた。隣の男性はもう充電器と思われるものを拾い上げていた。私はスマホを拾いおそらく向かいの席の女の子が落としたであろうと見当をつけ、目の前の背もたれの方に目をむけると、向かいの背もたれからひょこっと先ほどの女の子が顔を出し、ばつが悪そうに髪を撫でつけるようにかいて「あ、すみません」といった。
私と隣の席の男性がスマホと充電器を彼女に渡すと「ありがとうございました」と微笑み、目の前の背もたれの向こうへ彼女の姿は消えた。
彼女の仕草が見覚えのある光景だなと思い、何だったろうとしばらく記憶をたどっていると最近見た映画のワンシーンが浮かんだ。膵臓を悪くしてもうすぐ死んでしまう女の子と本が好きな男の子の話。彼が女の子の入院先に突然訪問したシーンだ。その時の主人公の女の子の仕草に似ていた。
前の席の女の子は新幹線に乗り込んできたときはよそ行きの表情だったのだろう。しかし、先ほどのスマホを落とした時の彼女は素が出ていたなと思った。よそ行きでない彼女はきっと優しくていいひとなのだろうと思えた。
彼女にも映画の主人公の様に素の表情を見せられる大切な人はいるのだろうか。そんなどうでもよいことを思った。