待っていたのは
フィクションです。薬とか特に、ふんわり設定です。科学的化学的に反証されても返信は出来ないし、しません。
別に自宅も無いし、帰還先にされるのは釈然としないけど、都内某所に到着した。
「ウワァ・・・これは、お揃いで」
顔を引き攣らせ、回れ右してダッシュで逃げ、何処か遠方へ行く新幹線あたりに乗りたくなった。
「「「待っていたよ。お帰り」」」
全員系統がバラバラなのに、返す言葉が同じで重なる。
笑顔なのも、笑顔が純粋じゃないのも三人お揃いだ。
指定された都内某所。
そこに居たのは、「鈴木隆」。ここに帰還するよう命令した当人だから、顔を合わせる覚悟はしていた。
でも、綺羅乃小路と神楽門は、何故居る。
現在の最上得意勢揃いだ、恐ろしい。
「御三方は面識・・・は、ありそうですね。仲、良かったんですか?」
「「「いや、全く」」」
「ウワァ・・・」
コレ、どう対処しろと?
綺羅乃小路と神楽門は業務提携してるのに「いや、全く」なんだ?
「そろそろお前の飼い主が誰か、ハッキリさせようと思ってな」
にこやかに言う「鈴木隆」。
「げ」
私の口が、勝手に本心を吐露する。
「で、誰を選ぶんだ?」
ニヤニヤ笑う「鈴木隆」と、何を考えてるかサッパリ分からない笑顔の綺羅乃小路と神楽門。
「いや、あの、選ぶって、私が選べる立場なんです?」
「ん? 強制でいいのか?」
「嫌ですよ。スミマセンけど私、民間人でいたいっす」
この中で、「鈴木隆」に専属で飼われることになったら、国家の暗部だ。
今だって一般人とは言えない生活かもしれないけど、そうなったら完全に「表の人間」じゃなくなる。
それは、嫌だ。
「おや。振られましたね、鈴木さん」
ニッコリと神楽門。
「ふふ。また美味しいご飯を食べながら温泉で打ち合わせしようね」
餌で釣ろうとする綺羅乃小路。
「そんな君達に朗報です」
不穏なイイ笑顔の「鈴木隆」に他の三人が身構えた時、口には出さないけど「やられた」と思う。
この部屋、閉じられた。
「俺が指定した部屋だぞ? 何の仕掛けも無い訳無いだろう。安心しろ。外からの攻撃は一切受け付けない堅牢安全な部屋にしただけだ」
「それって、僕達を救出に来た人間達が国家権力と武力で阻まれるだけでしょう?」
都内某所の一室。ここを指定したのは「鈴木隆」。
ここは、綺羅乃小路や神楽門の人脈で抑えられる不動産ではない。
それは分かっていたけど、まさか、その二人を巻き込んで「封鎖」するとは思わなかった。
「神楽門と綺羅乃小路を敵に回す、と?」
人脈オバケな大資産家の神楽門が、一族の老害駆逐が爆速で進んでいる超大金持ちな綺羅乃小路と並んで「鈴木隆」を睨めつける。
「怒らせて売国奴になる相手だったら、こんな手使わんよ」
平然と肩を竦める「鈴木隆」。
そして、不意に真面目な顔で居住まいを正した。
「悪いが、巻き込ませてもらう。今回の件で世の中に公表する内容をどうするかも未だ決まっちゃいないが、余りにデカい。経済界にも当然影響は出るし、知らんままで向こうに寄与する形で巻き込まれれば、神楽門や綺羅乃小路とて危ういぞ」
二人の雰囲気も、変わる。
二人とも、多分、「鈴木隆」の正体を私より正確に知っているんじゃないかな。
黙った二人に「封鎖」された部屋で「鈴木隆」から聞かされたのは、本当に、心底、聞かずに知らずにいたかった、「表の一般人」が聞いちゃダメそうな話だった。
以下、お話をまとめた物。
四十五年前、ある地方都市の地元スーパー経営者の跡継ぎ息子と、某資産家の娘が見合い結婚した。今回私が調べることになったスーパーのことだ。
当時はまだ小規模店舗が三店だけで、社長夫人があの地方都市の地主の娘だったから、土地は沢山持ってたし自社の畑はあったけど、自社工場も無かった。
結婚して直ぐ、資産家の娘の兄が、外戚の立場から役員に名を連ねる。そこから急成長が始まる。
三十三年前、私が生まれる前にはもう、今と同レベルなチェーン展開と自社工場での製造品を店に並べる形になっていた。
あの地方都市で、あの会社が経営するスーパーで、何が目的とされ、何が行われていたのか。
特殊な薬物の実験だ。
あの地方都市が狙われたのは、一般民間人の流出入経路が把握しやすい「山で囲まれた立地」と、実験規模を維持しつつ管理も難しくない程度の人口だったから。
自社工場で製造した食品、店舗製造のデリカ類には、現代の科学技術でも「違法な危険薬物」としては検出出来ないほど微量な、ある物質が入れられていた。
それは、成人の体格なら少なくとも毎日、あのスーパーの自社工場のパンなら一個、それを一年間食べ続けなければ薬効を発揮しない麻薬だ。
ただし、蓄積していくタイプなので、あの地方都市で暮らし、あのスーパーで日常的に食品を買って口にしていれば、いずれは薬の影響が出る。
私も、この部屋から出たら「鈴木隆」の指定する医療施設で一ヶ月入院らしいよ。薬を完全に抜く為に。
人権無視な調査だったね!
だから、「鈴木隆」の専属だけは嫌なんだよ!
薬の効果は、簡単に言えば「洗脳が容易になる」かなぁ。
外から見ても一見「麻薬中毒患者」には見えないし、「普通の市民」として生活を続けることが可能なのに、薬と紐付けて刷り込んでおいた暗示とキーワードを使って与えられた指示に、指示を受けた自覚も無く従うようになる。
指示された内容が、普通は催眠術でも従わせるのが難しいと言われているようなモノでもスムーズに実行する。
人殺しでも、自殺でも、殺される、でも。
そんな薬。
勿論、麻薬だから十分な量が体内に蓄積された後は中毒性がある。
欲求が出たら、中毒者はスーパーに行く。
ベースとなる暗示をパターン化した信号と指示用のキーワードが密かに重ねられた曲が、開店から閉店まで店内放送で流れるスーパーに。
この「ベースの暗示」を聞かせながら、信号と曲に潜ませていたキーワード付きで指示を出すと、本人も自分の意思で行動したと自覚しながら指示通りに動くそうだ。
極微量なら、健康食品の原料にも使われる物質で国の認可も出ている。
そんな物質を何種類も複雑に掛け合わせて作った「麻薬」は、長い期間をかけて摂取を続けて体内に蓄積することで初めて、脳に影響を及ぼし中毒症状も出る状態になる。
更に、無自覚に指示した行動を取らせるには、刷り込んだベースの暗示と同時にキーワード付きで指示を与えることが必要。
だから、正攻法での捜査の手が及ばなかったと「鈴木隆」は言う。
当然、搦め手の方法として、とっくに彼の配下も現地に行っていたが、それは四十五年前に外戚として役員に名を連ねた男と手勢に阻まれる。
彼の配下は、玄人だから。
同類には同類の気配や匂いが分かる、とは「鈴木隆」の弁。
つまり、その男は「鈴木隆」が言う所の玄人らしい。その「手勢」とやらも。
部門長とか社員の数割は「手勢」の疑いが濃厚だそうな。私、めっちゃ危険だったんじゃない? 部門長とかモブ以下の空気に見えてたんですけど。
男自身は「冷戦時代に暗躍した売国奴の二重スパイ」の子飼いだった奴らしい。
綺羅乃小路も神楽門も「理解した」みたいな顔してるけど、素人の私には、その「売国奴の二重スパイ」からして全く未知の人です。
その「売国奴の二重スパイ」な親分は姿を消して久しいらしいんだけど、子飼いだった男が地方都市で暗躍していたのが、今回の案件。
とっくに「鈴木隆」から目は付けられていたし、【『不審』データベース】にも何度も疑惑の線上に浮かんで名が収められていた人物。
未解決事件とか解決したことになってるけど真相の一部が不明なままとか、そういう事件に名前。どの事件も、内容の説明部分に「薬物」「狂気」「洗脳」の言葉が入っていた。ヤベェ。
玄人は、何度送り込んでも内情が体感出来る所まで潜入出来なかったんだって。
だから今回、素人の私が勝手に調べて、今まで推測の域から出せなかったけど「内心では確信していた疑惑」を、現地の実態とキッチリ繋げた、というのが物凄くお手柄らしい。
自覚無いけど。
私が現地で中まで入り込めたことで、それまでの推測と若干違う現実にも気付けたから「鈴木隆」側の玄人を後始末に送り込めたらしいし。
何でも、「鈴木隆」側の推測でも、その子飼いの男サイドで業界とやらに流していた情報でも、件の薬物はもっと洗練された物だったらしい。
薬物だから、効きには個人差が出るとか、効かなかった人間が排除や処分されている可能性なんかは推測の範囲内だったけど、放送流しっぱなしの店で働く従業員が、効き過ぎてなのか、特に指示をせずとも異常行動を日常で起こしていたことが想定外だったんだって。
現段階で調べ終わった所まででも、女王様と取り巻き達の「イジメ(笑)」や二つのデリカ部門の「問題行動をする人達」の言動は、指示を受けてのことではなかったことが証明されているらしい。
二つのデリカ部門に女王様ほど強烈じゃないけど薄く広くヤバめな人間が溢れたのは、中毒者の欲求に従って「目の前の製造中の商品のつまみ食い」が日常だったから、と推察されているとか。
ヤク中がノーガードでヤク製造の作業してたら、そりゃ手が出るんじゃないかと素人の私は思うけど、向こうの玄人の人達は敢えて放置だったのかな?
でもそれが「鈴木隆」側の玄人が現地入りして活動出来る取っ掛かりになったんだから、侮ってた実験用家畜に足元を掬われた形?
私が入った時点でヤバい人しか働いてなかったスーパーだけど、それが「薬が効き過ぎた」ことだけが原因だったのか、「マトモな感性を持っていた人が元からヤバい人達の中で淘汰されて」だったのかは未だ分からない。薬はやっぱり麻薬だから、本性を隠す理性が緩む効果はあるらしいし。
その辺は今後の調査で明らかになっていくらしい。別に明らかになっても知らせてくれなくて良いです。本気で。
それよりも、それだけ玄人が暗躍と強調するなら、何故あの会社のサイトや従業員データ管理がアレだったのかの方が気になります。
ああ、そうですか。玄人さん的には「どうでもいい」から放置されてただけだろうですか。
まぁ、本当にヤバい情報なんか入ってなかったもんねぇ。ソレと実態の乖離が興味を引いたり、ソレを元に調べたらマズイとこに繋がっちゃっただけで。
ついでに、あのスーパーの「部門で扱う商品の分け方」や陳列場所が微妙に変だったのは、暗示信号入りの放送が流れる店内に、来店者が出来るだけ長時間滞在するように仕向ける為、だそうです。
商品探してウロついた分、暗示信号がしっかり脳に刻まれるわけか。ウワァ。
で、一ヶ月は入院なので、私はこれから一ヶ月、強制休暇です。
うん、聞かせないでください。子飼いの男が何処の国に薬の研究結果や成果物を売ろうとしてたとか、素人なんで知りたくないです。
そして待っていた入院の日々は、綺羅乃小路に対抗したのか温泉付きで食事が恐ろしく豪華なセレブ生活でした。
退院後、「体が鈍っただろ」とキャンプ場に放り込まれたけどね!
チクショウ!