『不審』データベース
もう本心からは茶化せない状況。
私の依頼人の中には、国家権力をブン回す人がいる。
私は表向きの立場の名前しか知らないし、一体実際はどこまでどんな権限を持ってて何を動かせる人なのか、なんて知らないし、知りたくない。
でも、国家権力をブン回しているのは知っている。
それで依頼を強いて来ることもあったし、そんな人だから絶体絶命の危機から助けてもらえたこともある。
で、その人が持ってて、偶に必要が生じた場合、アクセス権限を貸してくれるデータベースがある。
その名も【『不審』データベース】。
アクセス権限と言っても、私が借りられるのは閲覧オンリー。書き込みや改変は不可。する気も無いけど。
ウッカリやらかすのも怖いから、最初から権限を絞ってもらって借りている。
何のデータを集めた物かと言えば、名前のまんま、『不審』を集めたモノだ。
例えば、解決したことになっているけど不審な点の残る事故。
例えば、事件として扱われなかった不審な死。
例えば、疑惑のままで迷宮入りした事件の不審な関係者。
例えば・・・、例えば・・・。
そんな感じのデータが、膨大な量で収められている。
アクセス権限を借りる為に連絡を取ったら、洗い浚い現状を吐かされた。
別に端から隠すつもりは無かったけど、気分としては「吐かされた」だ。
物凄くイイ笑顔が見なくても想像出来る調子で、「土産持ってサッサと戻って来い」と言われた。
戻って来いって、私の上司でも家族でもないでしょうが、貴方。
私の依頼人は、基本が権力者なせいか、上得意になるほど私の所有者めいた発言をするようになる。
多分、私の能力を「使える」と認めてくれてるからなんだろうけど、そのうち躱しきれなくなりそうで怖い。誰の専属になってもヤバい気がするんだよなぁ。
とりあえず、女王様の件から片付けることにした。
女王様が採用されたのは、あの店舗が開店した二年後で、今から十二年前のこと。女王様の夫が店長に昇進したのと同じ年だから、コネ採用かも?
あ、この辺りの女王様他従業員の採用情報やら履歴書に載っている系の個人情報は、店舗のパソコンから見れたよ。危ないね!
多分、嫌がらせの一環で、使い方もパスワードも教えずに、パソコンで発注した商品の欠品状況を調べろって命令されたから、チョチョイと弄ってたら本部のデータに繋がっちゃった。テヘ☆
実際、この会社のデータ管理に関するセキュリティは紙装甲以下だったんだけど。
コレ多分、社員か社員の知り合いの中に「パソコン得意な人」がいて、その手の素人にシステム構築させたんじゃないかと。
公開されてる会社の変遷を見ると、八十三年前の創業時は「田舎の個人商店」だったらしいけど、三〜四十年くらい前辺りの「スーパーをチェーン展開する地方の大規模事業所」になった時点で、情報セキュリティ関連に専門家を入れた方が良かったんじゃないかなぁ、と個人的感想。
だって、めっちゃ穴だらけだし。履歴書記載分だけだとしても、ここに自分の個人情報も入ってると思うと凄くイヤ。
それはさて置き、女王様が女王様になったのは、この店の店長が今の店長、女王様の夫の後輩だね。になった十一年前からのようだ。
そこから、それまで以上に女王様が所属する「日配部門」の従業員の入れ替わりが激しくなっている。
開店から間もない店舗で人の入れ替わりが落ち着かないのは、まぁあることかな、と思うけど、それを越えて目に付く頻回さになっている。
ある程度入れ替わりは安定したのは、八年前。スネ◯集団が固定されたからかな。
因みに、部門長は社員なので、一年我慢すれば異動願いが出せるシステムらしいよ。
社員には色んな経験を積ませる為って建前らしいけど、各店舗にヤバい地元民パートが居るから、社員を守る為に最長一年で逃がすシステムだったり? 違うか。
入れ替わりは安定した八年前からは、新人が頻繁に居なくなるようになってる。
の◯太くんの入れ替わり開始だ。
この去った「の◯太くん」達のその後の手掛かりとして、【『不審』データベース】を使用。
・・・見なきゃ良かった事実発覚。
ある程度は想像してたけどねぇ。
去った「の◯太くん」総勢二十一名。
内、九名が既に死亡。
内訳は、遺書もある自殺扱いが六、病死扱いだが薬の過剰摂取や摂食障害による衰弱が死因というのが二、突然叫んで道路に飛び出しての事故死が一。
残りの十二名に関しては、【『不審』データベース】には情報が収められていない者が八。
情報が収められていた四名は、薬物中毒で収監中が二、同居家族全員に複数の包丁やナイフで切りつけ殺人犯として収容中(収容先は病院)が一、失踪者が一。
残り八名も、家族が届け出ていないだけで実際は失踪者となっている可能性アリ。
自殺扱いの六名の遺書は、女王様と取り巻き達を名指ししたものも、当然あった。
遺族が全員黙っていたとは思えないから、「この地域のスタンダード」の力を揮って黙らせたのかねぇ。
地方社会で「その地域の最大勢力」に逆らったら、社会的に死ぬ。
グローバルとかネットとか、地方でも新しい社会感覚の波が皆無とは言わないけど、それは未だ地方の一般人の生活が飲み込まれるほどでもない。
まだまだ、「村社会」のまま人々の生活は変化が然程無かったりする。
データベースに名前が在る「の◯太くん」達は、家族ごと、この店で働いていた時とは違う住所に引っ越していた人が殆どだった。
一家惨殺も、県外へ引っ越した後のことだったから、この店と関連付けて騒がれることが無かったってこと? 事件発生は、辞めてから二年後、引っ越してから一年半後だし。
いや、けど、引っ越しケース多過ぎない?
勝手な偏見かもしれないけど、田舎の一家って、転勤族でもなければそんなに引っ越す?
揺り籠から墓場まで同じ土地で人生過ごして終える人の方が多そうなんだけど。
・・・何か、どんどん嫌な予感が迫って来るんだけど。
スネ◯集団固定後の「の◯太くん」だけじゃなく、それ以前の退職者のその後も調べよう。
それから、他の店舗の辞めて行った従業員のその後。
それと、公開されてる名前だけでも、このスーパーを展開する会社の関係者の名前が、【『不審』データベース】に収められていないか。
コレ、絶対、普段の「お仕事」よりハードだ。