ただの経歴作りだった筈
長編執筆中の頭リフレッシュとして、久々にシリーズの続きを書いてみました。
予想以上に、ほのぼのしなかったです・・・。
私の名前は佐藤友子。現在32歳独身。
本職は、非公式と言うか偶に非合法かもしれない覆面調査員。非合法と言うより治外法権?
依頼人は主に権力者。所謂お金持ち又は国家権力をブン回せる人。
仕事内容は、依頼人が指定する企業や店舗や事業所なんかに職員やスタッフとして潜入して実態を探り、場合によっては依頼人が欲しい物的証拠を確保すること。
多分、まぁまぁ売れっ子。
仕事が入る時は、結構間断無く入り続ける。
けれど安定職では無いから、ぽっかり空くように依頼無し期間が発生することもある。
仕事の無いまとまった時間は、休養などの自己メンテナンスに充てることもあるが、結局は仕事の為に使うことが多い。
国家権力ブン回し筆頭依頼人な人から紹介された、非公式の軍人養成施設みたいなキャンプ場に籠もって訓練参加。と言う、「もう一般人辞めてるよね」な時間とか。
けど、これが私の命を今まで何度も危うい所で救って来たから、私の精神安定の為にも定期的に参加している。
あとは、経歴作りに時間を割くことが多いかな。
私は調査員として潜入する時に、依頼人から用意された履歴書を使う指示が無い限りは、自分の本物の履歴書を出している。
その方が、ボロも出難いし、後から調査対象周辺の記憶に残り難いから。
何しろ、地方でも同姓同名が百人くらい居そうな本名だし。
そして、独身でも夫が居てもバツイチでも特別に注意を引かない年齢層だし。
面接時に訊かれても、高校卒業まで親が転勤族だったのも偽りは無いし、その為に転校しまくりだったから、大学入学以前の学歴を省略する理由も後ろ暗くないし。
ついでに、両親が既に鬼籍に入っているのも本当だ。
履歴書の学歴欄に書き込む大学名は、「難関大学」「バカ大学」のどちらでも無名な地方国立大学。
そこにもちゃんと入学も卒業もしてるから嘘は無い。
何も嘘を書いていない職歴にも、特に目を引く優秀さも無能さも、「この年代のこの学歴の女性」なら見当たらない。
所有資格も以下同文。
学歴も職歴も所有資格も、嘘は書いてないけど全部を書いてもいないだけ。
だからまとまった時間が取れた時は、せっせと「書ける経歴」を作る為に「目立たない職歴」になる仕事に就くのだ。
一番手っ取り早いのは、チェーン店のスーパーやドラッグストアのパート店員。
仮宿のアパートで住所持ちになった後、通勤に不自然さを生じない近隣の範囲内で、大体は複数の求人枠がある。
チェーン店と言っても、全国規模の大手は避ける。
いくら私の名前がありふれた物でも、何度も同一人物が従業員記録に残れば注意を引くだろうし。
そういうわけで、ここは住むのは初めてな某地方都市。ちょっと山に囲まれているけど、人口も交通もそこそこで、田舎だけど人の流出入も多めの地域。
そこで、地元の中でだけチェーン展開しているスーパーの一店舗に、無事採用された。
業態は、業務用ではなく一般向けの「よくある田舎のスーパー」で、ほどほどに手頃な商品が並ぶけれど、同種商品が激安特化な他の地元チェーン店と競合しないランクの中から選択されている模様。
因みに、激安特化型のチェーン店の方でも求人は出ていたが、引くほど「安かろう悪かろう」に終始する品揃えで、遠くない未来に何らかの事案で記録に残りそうなので応募を避けた。
ニュースになったり事件を起こした店で働いていた経歴は、人の記憶に残る確率が上がるから「書ける経歴」にならないし。
さて、意気揚々とまでは行かないけれど、普通に「普通の新人パート従業員」らしい態度で出勤した私を待っていたのは、「アレ? 今回は『お仕事』じゃなかった筈だよねぇ?」な日々だった。