家。
夏休みが始まってから、私は毎日あの神社に赴いていた。
初めてできた友達は小さくて言葉も通じない野良猫だけれど、それでも一緒にいるだけで楽しかった。
特別なことは何もしない、ただ並んで階段に腰掛け一緒に水を飲むだけの時間、そんなものでも共有できているのがなんだかくすぐったかった。
八月七日、そんな日々が一週間続いた頃、私は今日も相変わらず神社に来ていた。
むせかえるような暑さと蝉の喧騒に顔を顰めながらいつもの場所に腰掛けあの子が来るのを待つ。携帯なんて持っていないからこういう時暇を潰せるものがなくて少し困る。
でも、今日はすぐに来てくれた。
「よお、今日も暑いな。」
「にゃあ。」
最近は私のどうでもいい話にも返事をしてくれるようになった。果たして言葉を理解しているのかはわからないが、それでも私とお話ししてくれている気がしてなんだか嬉しかった。
「今日も水飲むか?」
「にゃあ。」
「わかったよ、ちょっと待ってろ。」
私はまた家から持参してきた水筒を取り出し、コップに水を注いであげた。するとまた舌でチロチロと水を飲み出す。
「お前よく水飲むよな。まぁ、ここまで暑いと仕方ないか。」
私も別のコップに水を注いで水を一口飲んだ。家で淹れてきた時は冷たかったのに、少しぬるくなっていた。
お互いのコップが空になった頃、私の友達は階段を駆け降りた。いつも水を飲み終わるとすぐにどこかに行ってしまうのだ。
少しの寂しさを感じながらその後ろ姿を見ていると、一番下まで降りたところで立ち止まり、こちらをじっと見つめてきた。
どうかしたのだろうかと私も階段を降りると、猫はまた進みだす。
私はなんとなくついて行ってみることにした。
坂をこえ、路地を抜け、果たしてたどり着いたそこは近所の河川敷だった。昔家族でよく遊びにきていたが、最近は滅多に来ることがなくなっていた。
猫はまだ歩みを進める。日陰がなくて太陽に直接焼かれながら歩くのは普段運動しない私にはかなり辛かった。
そして猫が立ち止まった目の前にあったのは、ボロボロの段ボール箱だった。
油性ペンで「誰か拾ってください」と書かれたそれの中には、ボロボロになったタオルが敷いてあった。
「おまえ、捨て猫だったか。」
「にゃあ。」
猫は一言鳴いてダンボールの中に入った。
私はしばらくその場から動けなかった。