少年。
高校生になれば少しだけ大人に近づく、そう思っていた。
そんな考えが子供っぽいなんて少しも思っていなかった。
現に夏休みに補修を受けている俺は誰がどうみても大人には見えないわけで、そのことを自覚しながら全く成長しようとしていない自分に辟易としてしまう。
でも、他に補修を受けてる奴はともかく、周りの勉強ができる奴らもなぜか大人に見えないから、結局高校生も皆子供なんだなと少し安心してしまっていた。
まだ僕だけが子供ということではないのだと、心底安心してしまったのだ。
補修が終わり、俺は教室から出てまっすぐと下駄箱へ向かっていた。
グラウンド方面からは運動部の掛け声、音楽室がある方面からはギターの音、上の階からは管楽器の音、それらと夏の暑さが加わって頭が痛くなる。
俺は急いで学校から出た。学校なんて大嫌いなんて思うのは、やはり俺が子供だからだろうか。
夏の暑さと蝉の喧騒に脳を揺られながら家路についていた。
暑すぎてこのまま溶けてしまうのではないかとしょうもないことを考えていると、どこからか話し声が聞こえてきた。
なんとなく気になって声の主を探してみると、それは道中にある神社の階段の一番上から聞こえてきたものだった。
おそらく中学生くらいの女の子と、小さな黒猫が、並んで座って水を飲んでいた。
夏休みだというのに友達とも遊ばずにこんなところで何してるんだ?と疑問を感じたが、それ以上に女の子がとても幸せそうな顔をしていたからきっと彼女にとってはかけがえのない時間なんだと思った。
「なんか、いいな。」
誰もいない神社で少女と黒猫が水を飲む、そんな珍しい風景を見れただけでも今日補修に行った甲斐があったなと。ほんの少しだけ思った。
それから女の子と黒猫は毎日あの神社で一緒に水を飲んでいるようだった。
俺はただ補修の帰り道で見かけていただけだからどうして彼女たちが毎日会うほど仲がいいのかはわからない。
けれど、彼女と黒猫は間違いなく友達なのだということだけは確かだった。
友達が少ない俺が言えたことではないのかもしれないが、きっとこんな友情の形があってもいいのだろうと思えた。
そう思えるほど、彼女は見かけるたびに幸せそうな顔をしながら黒猫のことを見つめていたのだ。
しかし、八月十四日、神社には彼女が一人で座っていた。