出会い。
誰よりも早く学校に着くのに先生以外と朝の挨拶を滅多にしない。休み時間はいつも読書をしている。学校で先生以外と会話せずに一日を終えることが多々ある。
友達がいない。それが中学一年生の私の実態だ。
周りの子達が仲良さそうにしているのを見ていると正直羨ましくなるけれど、その輪の中に私がいるのは想像できない。
でも、友達は欲しい、一人は寂しいのだ。
何もすることがなく家でゴロゴロしていると、ママが帰ってきた。
「ただいまー、すぐご飯作っちゃうからね!」
「んー。」
「もー、またゴロゴロしてたの?たまには友達とかと遊びに行ってみたら?」
「んー。」
「それに明日終業式で夏休みが始まるんでしょ?宿題とか今のうちにやっといたら?」
「んー。」
「もう、ちゃんとしてよね。」
ママはそう言って料理を始めた。包丁で野菜を切る音を聞いていたらいつの間にか寝落ちしてしまった。
翌日、終業式を終えた私はいつも通り一人で直帰していた。
周りの子達が楽しげに話している声と蝉の声と茹だるような暑さが鬱陶しくて吐いてしまいそうになりながら歩いていると、ふと道中にある神社が目に入った。
いつもは風景の一部でしかないそれに、なぜか立ち寄ってみたくなった。
「まぁ、なんか疲れたし少し休憩するか。」
私は誰かにそう言い訳して神社へ足を進めた。
鳥居をくぐり、おそらく十数段ほどの階段を登っていくと存外広い境内が見えた。
でもこの時期に人なんていないし面白そうなものもない。
私は休憩するという言い訳を正当化させるために登ってきた階段に腰掛け、朝学校を出る時に持たされた水筒を取り出し水分補給をした。
「暑すぎ、私何してんだろう。」
なんて独り言を言っていると、何かが階段を駆け上がってきた。
「うお、」
「にゃあ。」
その何かは真っ黒な猫だった。
猫は最後まで登り切るとその場で立ち止まり。私の目をじっと見つめていた。
「な、なんだよ。食べ物なんて持ってないぞ。」
、、、、
「いや、なんか話して、ってねこは話さないか。」
、、、、
「えーっと、水ならあるけど?」
私は水筒のコップに水を注ぎ、猫に差し出した。すると猫は舌でチロチロと水を飲み出した。
「あー、喉乾いてたのか。暑いもんな。」
猫は黙々と水を飲み続ける。私は黙ってみているしかなかった。
これが七月三十一日、私に初めて友達ができた日の出来事だ。
次の日、午前中にほんのちょっとだけ宿題を進めた私は、昨日行った神社へ来ていた。
「流石にいないか。」
決してあの黒猫に会いに来たわけではない。ただなんとなく神社まで散歩したくなっただけだ。
目的も達成したし帰ろうとした時、また何かが階段を駆け上がってきた。
「よお、来ないかと思ったぞ。」
「にゃあ。」
昨日と同じ黒猫だ。
「お前いつもこの時間にここにきてんの?」
、、、、
「とりあえず水飲むか?」
「にゃあ」
「わかったよ。」
私は階段に腰掛け、お家から持ってきていた水筒を取り出した。
猫は私の注いだ水をまた舌でチロチロと飲み出した
「結構人懐っこいよな。でも首輪はついてない。元気そうだから食べ物とかは食べれてるんだろうけど。実際どうなんだ?」
、、、、、、、
初めての友達と仲良くなるには、もう少し時間がかかりそうだ。