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もう一度

作者: 花海

序章 終わりの始まり


「ごめん、別れよう?」


雨の中、私は言った。

逃げ出したかった、泣きじゃくりたかった。

何より、そばにいて欲しかった。

でも、そうは出来ない。

もう、彼が見えなくなった時に初めて病気を知った時より、自分がわからなくなるくらい泣き叫んだ。


第一章 始まるより前


葉が赤くなる頃、気がついたら私は病院にいた。

私は訳がわからないのに、母は言葉を知らない子供のように私の前で泣いていた。

そのまま私の生きている世界が固まった。

そこから、数分経ってお医者さんが私の部屋に来た。

末期の脳腫瘍と言われた余命は数ヶ月、母は泣いている。

だから、少しでも気にかけないように曇りのない顔で精一杯笑った。

私の手に水が滴り落ちた。


そこから一週間経って少しだけ元の生活に戻れるらしい。もう何もかも戻ることはないのに。

病院にいる前の最後の記憶は学校の昇降口のところで止まっている。

久しぶりの登校だった、インフルエンザなどで一週間いなかったのとは周りからの態度が何もかも違った。

1時間目から終礼までは、日常のようだった。

5時間目を過ぎたあたりで空が暗くなってきた。

放課後、5時を過ぎた頃約束していた人が私の前にきた。

「私、、、」

言葉が出ない

「私、、、」

打ち明けようとするけれど声が出ない。

『ガンになったんだろ。』

彼の言葉が頭の中で反芻する、何回も何回も波のように打ちつける。

『でも、関係ない。ずっと一緒に過ごそうよ、前と変わらないように。』

わかってる、わかってる、私だって、私だって。

心に溢れるほどの言葉がたまる。

「もう、別れよう、もう悲しまないように」

その言葉を言って、私は走り出した。

彼の声が聞こえた気がした、追いかけてくる音も聞こえたでも、、、


少し時間が経って、もう彼も見えなくなった。

この季節には珍しい冷たい雨が私の火照った体を冷やすかのように打ちつけた。

自分でもわかってる、ほんとは彼と一緒に過ごしたい、一緒に笑いたい、何より一緒に涙を流したかった。

でももうそれは叶わない、自分だけが全てじゃない、ほんとの幸せは彼が幸せになることだから。

もう雨に濡れてか涙でかわからないほど顔をぐちゃぐちゃにして、私は家に帰った。

スマホには彼からの不在着信、ライン、インスタ、全てが10件程度入っていた。

もしかしたら、今、彼は悲しみの中に沈んでるかもしれない。

でも、これからこれ以上悲しませないように。

そう涙をまた流しながら、心に言い聞かせた。


第二章 嘘


今はもう病院にいる、昨日から抗がん剤治療のために入院しているのだ。

点滴の背景にある外の楓をみて、初めて彼が好きになった日を思い出してしまった。


••••••


あれは今から2年ほど前、今日みたいに真っ赤な楓が地面に散り始めた頃。

今思えば、運命的な出会いだったかもしれない。

その時の記憶は鮮明に蘇ってくる、けどその時の気持ちは今もすり減ってる。

今思えばなんとなく生きてきたこの人生もそれの連続だった。

初めて自転車に乗れた時のビデオは残ってるけど気持ちは覚えてない、あるのはビデオに映ってる嬉しそうな顔だけ。

そんな他愛無いことでも気持ちは忘れていく。

忘れたことは嘘になる、今になってそう思う。


ふと、スマホを見るとLINEの通知が毎日一つずつ増えている。

今も、ずっと返したい。


第3章 ホンモノ


今日、こんな夢を見た。

『桃香、桃香』 彼の声が聞こえる。

『ずっと一緒にいよう』 


そこで目が覚めた。

昔みたいに飛び起きることはできないし、涙を流すことが難しくなってきた。

服を脱げば肋骨が浮き上がってきてるし、手首も少しずつ細くなってきている。

(もうダメかも)

心が弱くなって、今まで押さえてきたものが全てなくなってしまった。


気がつけばラインに返事をしていた。


数十分経つとずっと一緒に学校生活を共にした彼が目の前にいた。

彼の手にはお見舞いのお花がある。


『桃香、ごめんね、1人にさせちゃって』

久しぶりに聴いた彼の声は前よりも力がなく、心なしか震えていた。

「私、気づいたの、もう今までの恋は嘘になったんだって」

彼は、霧の中で道を探すかのように言葉を探している。

『、、、そんなことない』

いつもより低い声。

「嘘になったことに気づいたんだ」


『そんなこと、ない!!』

彼は叫ぶように言った。

『僕には桃香の気持ちが全てわかる訳じゃない、僕を苦しませないように別れを切り出したこともわかってる。

でも、、、』


『今までの記憶は裏切らない。死ぬまでずっと桃香と一緒に残り続ける、嘘になったりなんかしない』


『だから、最期まで僕は君の中で後悔のない記憶のままでいたい。』


そこまで聞いて、私はまた泣き叫んでいた。


『最期まで一緒に』


第4章 終わりの終わり

季節は変わって桜が咲きかけていた。

窓への花は萎れて、私の顔視界には酸素マスクがちらつく。

『桃香、聞こえてる?』

私は少し頷いた。

『じゃあ、もう言えないかもしれないから手紙を読んでもいい?』

もう一度私は頷いた。


〜桃香へ〜

季節が変わって、あなたの体も痩せ細っていく。

初めて会った時、僕は君のことが何よりも大切になった。

そして、デートに行ったり、手を繋いだりいろんなことがあって、いろんなところで笑う君を見てきた。

夕日の前、星空の前、映画を見てる時の横顔

2年間くらいずっと夢の中にいたみたいだった。

どれも、可愛かったし綺麗だった。

でも、ずっと一緒にいて、どんどん変わった、君だけど今が1番綺麗だと思う。

   僕の中で1番輝き続ける桃香へ

            〜和哉より〜


私はその言の葉を聞いて、もう出ないと思ってた涙が乾いた肌に流れているのを感じる。


そして、最後に私は叫ぶつもりで言った。


「和哉、ずっと好きだよ」


そこで私は自分のアルバムを閉じた。


第6章 桃香へ


僕、和哉は桃香が、遠いところに行ったあと、一週間くらい、泣き叫んでいた。

ずっと心の拠り所だったんだ。

でも、桃香は僕に後悔してほしくないと思っていた。だから前を向いた。


30歳を過ぎた後、僕は結婚した。

でも、気がつけば桃香との幸せな時間を思い出してしまった。

子供ができ、自分も年老いた。

80歳になった時、桃香が亡くなった季節に久しぶりにお墓参りにに行った。あの時持って行った花と同じ花を備えて、後ろを向いた。

桜が待っている中、その隙間に桃香が笑ってこっちに手を振っていた。

そこで僕は僕の映画を止めた。

読んでいただきありがとうございました。

この作品は私が初めて描いた作品です。

もっと向上していきたいので、応援してください!!

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