表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらんす!  作者: かなた
8/12

Day 5. 聡の勇壮~ホッと一息~

「カオリに手を出すな!!」


 直人に1発食らわせた俺は、相手の様子を伺いつつ次の行動を考えていた。


 あの状態から辛うじてでも受身を取れるのはさすがとしか言えないが、とりあえずカオリを無事に帰さなければならない。


「お前、誰だ?」


「名乗る必要は、ないね。」


 俺は直人と直接の面識はない。だが、悪評ならば聞いている。


 しばらく睨み合いが続き、直人が殴りかかってくる。なかなかいいパンチだ。が、甘い。


 難なく躱す。喧嘩にはそこそこ自信があるのが見て取れるが、こちらも柔道の有段者である。


 素人の喧嘩師に遅れをとる訳にはいかない。


 何度か打ち合い。俺は手加減しつつ相手の攻撃を避けるというかなり高難度な技を難なくやってのけた。実力の違いに気づいたのか気づいていないのか、直人は間合いを取り、こちらをにらみつける。


 と、ちょうどいい所に、


「お巡りさん!! こっちです!!」


 遥の声だ。


「なっ?!」


 焦ったのか、直人は吐き捨てるような舌打ちとともに必死で逃げていった。


「聡……遥……。」


「おう、カオリ。無事か?」


 つとめていつもと変わらない呼び掛けをする俺に、緊張の糸が切れたのか。


「う、うわあああん!!」


 泣きじゃくるカオリを、俺は無意識に抱き締めて。ただ、背中を撫でていた。


 しばらくそうした後。


 カオリを支えて移動しながら俺はコンビニの前で立ち止まり。


「ちょっと待ってろ。」


 コンビニの前に独りで居させるのも心配だったのでサッと買い物を済ませ。


「ほら、あったまんぞ。」


 2つずつ買ってきた缶コーヒーと肉まんの片方をカオリに差し出した。


 毒味という訳でもないが、俺は自分の分の肉まんとコーヒーを口にする。


「うん、うまい!」


 カオリはそっと受け取ると、まだ湯気のたつ肉まんを少しずつ頬張った。


 暖かいコーヒーと交互に口にしているうち、その双眸からは透明な雫がとめどなく溢れ出て――。


 俺はハンカチでその涙を拭い去った。


「お前、酷い顔だな。」


 冗談でそんなことを言ってみた。カオリの表情が泣き笑いに変わる。


「もう泣くな。俺たちがついてる。」


 カオリはこくり、と頷く。


「ふふっ、かわいいじゃねーか!惚れちまうだろ!!」


 またも冗談、のつもりなのだが自分でも冗談なのか本気なのか分からない言葉を吐き出す。


「あはは!」


「やっと声出して笑ったな!今日は俺と遥が家まで送るからゆっくり寝ろ。いいな。」


「うん、ありがとう。」


「よし、帰るぞ!!」


 くそっ!!めちゃくちゃ可愛いじゃねーか!!ヤバいこれはマジで惚れそうなんだが……!!


 だが、この歪んだ想いを悟られてはならない。他の誰にバレてもカオリにだけは絶対に!!


 俺は、こいつを元に戻す。そのためのサポートは何でもする。そう決めた。


 だから。


 だから。


 俺の気持ちなんかに気づくな!!

 お前は元に戻ることだけ考えろ!!


 そうじゃないと、俺――


 出来るだけさっきのことを思い出さないよう、出来るだけいつも通りに他愛のないお喋りをしながら遥と合流してカオリの自宅へ向かう。


 遥は何か複雑そうな表情をしているが、俺の気にしすぎだろうか?


 そうこうしてる間にカオリを無事送り届け、帰路に着く。


 あと2日……何とか元に戻れますように……


 俺は心の底から祈った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ