「自己紹介です」
「くそっ!『紹介』があいさつの魔砲を使うぞ!!」
「ちくしょう!!もう間に合わねぇのかよ!!?」
『満足』と『鍛錬』がそう叫ぶ。
その証拠にユニバース全体が歪み、壊れ始めていく。
なぜこうなってしまったのだろうか。
「ふははははは!!!!熟語衆でない君たちが僕に勝てる訳ないじゃないか!!!!あははははは!!!」
そうだ、今馬鹿みたいな笑い方で馬鹿みたいなことを言っている『中心』が全ての元凶だ。
この国語辞典ユニバース【ジコ】は微妙な均衡を保たれていた。
だがその均衡は破られた。ユニバースの中で力を持つ熟語衆であった『中心』は的確にユニバースを破壊するよう動いたのだ。
まず初手で『暗示』を倒し力を奪った。これにより『紹介』を簡単に洗脳することができ、そして『紹介』はユニバースを破壊できる強力な魔法《あいさつの魔砲》を使用できる唯一の存在だったのだ。
あいさつの魔砲。それは10年前に不完全な形で使用され、別のユニバースに深刻な損害を与えた禁忌の魔法である。悪意あるものがフルで使用するものなら、このユニバースはおろか別のユニバースは崩壊するという恐ろしい代物である。
これほどの知識があったのに、また何もできなかった自分が嫌になる。
それでも。
それでも俺は……!!
「嫌悪を……力に変換する……!!!うおおおおおおお!!!!!」
それが俺、『嫌悪』の能力。今の自己嫌悪力ならあるいは……!!!
「と、思っていたのかい?」
それをあざ笑うかのように『中心』が嫌悪力が無力化していく。
「馬鹿な……!」
「『顕示』さんを失った貴方が別ユニバースの《恐怖》から力をもらった私に勝てる訳がないのだよ!!!!!」
『中心』が得意げに叫び、圧倒的な力に吹き飛ばされる。
「ぐああああああ!!!!」
『鍛錬』と『満足』にぶつかり、三人とも地面に這う形で倒れる。
ああ、そうだ。そうだとも。俺は『顕示』と融合して『啓発』になることで絶大な力を誇っていた。
だが、その『顕示』はもういない。いないんだ。
だから……俺は、あいつの妹である『紹介』を守らなくちゃいけないんだよ……!なのに……なのに……!!
「なのにあなた方は何もできない!!!指をくわえてこのユニバースが滅ぶのを見るがいい!!」
「また俺は、俺たちは何もできないのかよ……!!」
鍛錬がそう悔しそうに、吐き出すように言う。
「ええ!!何もできません!させません!!!!いいから黙って滅べオラアアアアアアア!!!!」
『中心』が発狂したように叫ぶ。その姿はかつて俺たちが倒し、そして『顕示』を失うことになった戦いの元凶、『崩壊』を彷彿とさせる姿だった。
「そいつは、どうかな」
その瞬間、空気が変わった。
「お前は……」
「お、お前……今までどこに……」
『満足』と『鍛錬』が口を揃えて言う。
「『流』……」
かつての仲間。いや、今でも仲間である『流』がそこにいた。
「お前は『流』!?だが今更何しにきたのだ!!ユニバースの崩壊はもう始まっているんだぞ!!!」
「だから……そいつはどうかなって言ってんだよ」
『中心』の苛立つ声に、うんざりとした様子で答える『流』。
「何を馬鹿な……『紹介』のあいさつの魔砲は既に……うん?」
恐る恐る『中心』が『紹介』の方を見る。
「あっ、どうも」
気さくに挨拶をする『紹介』……の格好をした……誰!!?いや、あの小心的ともいえるあの様子……まさか!?
「誰だっ!!!????」
「『韜晦』だ。あの戦いの影響で変化した『欺瞞』だよ」
完璧な擬態だっただろ? と事も無げに言う『流』。
『韜晦』はヒエエエとこちらの方へ逃げてくる。
「ば、馬鹿な……いくら貴様らでも……そんな力はないはずだぞ!!!」
「ああ、そうだな。俺たち2人じゃ流石にここまでは無理だ。だがな」
狼狽する『中心』にスラスラと答える『流』
「だがな。金の力ってのはスゲェんだぜ?」
「は?」
『流』のその言葉を言った瞬間、一陣の風が吹き、札束が木の葉のように流れてきて、札束が人の形を形成する。
「金の力なめてんじゃねーぞオラアアアアア!!!!!」
「『資本』だ。金の力でなんでも解決しようとする馬鹿だ」
「馬鹿言うな馬鹿アアアアアアアア!」
『流』が突然現れたこの珍妙な人物を紹介する。
「で、『資本』。『紹介』は?」
「ここにいるぞ。金の力でしっかり傷も癒えてるぞ」
そう言って『紹介』を召喚する。
いや、なんか札束が宙を舞って魔法陣を形成してそこからなんか『紹介』が召喚されたようにしか見えない。どうなってるんだ。
「ああ、それじゃついでにあいつらも癒してくれ」
「金使いが!!!!!荒い!!!!!!!!」
そうコントのようなやり取りをするが、やり取りの通り、『資本』は俺達の傷を癒してくれた。
「嘘だろ……」
「もう無敵じゃん……」
『資本』の圧倒的なポテンシャルを目の当たりにした『満足』と『鍛錬』がそう引き気味に言う。俺も引いてる。
「あー。こいつ今ではかなり無敵なんだけど、『崩壊』戦ではかなり最弱な方だったんだぞ」
それを察したのか、俺たちに向けて説明を行う。
「バラすんじゃない馬鹿アアアアアア!!!!」
泣きそうになる『資本』。
まったく……この人ときたら……。
俺は呆れるように笑みをこぼす。
だが、これで……。
「だが、それでもこの私の!この《恐怖》の力を得たこの私を倒す事はできないッッ!!!」
『中心』はそう高々に宣言し、禍々しいオーラを発生させる。これでは近づけない。
「くそ……やはり『中心』には勝てないのか……!?」
つい弱音を吐いてしまう俺。
「そんなことない」
ふいに、『紹介』が言う。
「そんなことないよ。『嫌悪』」
「だが、どうやって……」
「融合。しよう」
「え!!?」
『紹介』の突然の提案に驚く俺。
「ああ、『顕示』と融合できたお前なら、いや、お前だからこそできることだ」
『流』はそう言う。
できるのか、俺に。
成し遂げられるのか。俺に。
いや、やるしかない。
そう思い、『紹介』と目を合わせる。
「やるぞ『紹介』」
「うん、やろう。『嫌悪』」
そして俺たちは融合を行う。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」」
お互いの拳を合わせ、そして叫び同調する。
「馬鹿な……これは……『啓発』……違う!これは!!???」
「そうだ、俺は……私は『実現』だ!!!」
かくして俺、『嫌悪』と『紹介』は融合し、『実現』となった。
「だ、だが、この《恐怖》の力で……ぐわあああああああ!!!!」
圧倒的な力を誇っていた《恐怖》の力も、俺たちの『実現』の力で跳ね除けて。『中心』をぶん殴った。
『中心』は圧倒的な力の前に、ただ吹き飛ばされるしかなかった。
「だ、だが、私を消滅させても!別ユニバースから第二第三の《恐怖》が来るだろう!!その時がお前達の!!!このユニバースの終焉だ!!!!!!!!」
「それでも、俺達は、俺達流のやり方を突き通すさ!」
『流』が皆の力を集め、そして発射する。
「な、なんだこの力はあああ!!!!ぐあああああああああ!!!!!!!」
皆の圧倒的な力で、『中心』は消滅する。
俺たちは勝った。危機は去ったのだ。
だが、最後にあいつが残した言葉、《恐怖》の存在が気がかりだ。
「故に鍛錬あるのみ!!」
『鍛錬』がそう言って張り切って筋トレを行う。
「やれやれ、相変わらず暑苦しい奴だ。だが、お前が満足するまで付き合うぞ」
『満足』は呆れた様子だったが、満更でもない様子でそれに付き合う。
「はっはっはっ。本当に相変わらずなんだなぁ」
『流』はそう笑いながらスクワットをする。
「資本の力があればぁあ……もっといい鍛え方があるのにぃ……」
既に虫の息である『資本』。
「適度に水分とってくださいね」
そう言って人数分のスポーツドリンクを用意する『欺瞞』こと『韜晦』さん。
「さて、俺達もやるか」
「うん、そうだね」
そんな訳で俺達も筋トレをやる。
「ありがとう」
そんな小さな声は、筋トレの喧騒の中で掻き消えてしまう。
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないよ」
『紹介』の顔が赤いのは、果たして運動のせいだけなのだろうか。
とにかく、国語辞典ユニバース【ジコ】は今日も平和である。
「自己紹介です」おしまい。